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島を訪れる人

湊かなえの短編集『望郷』に収録されている6つの物語の背景には、瀬戸内海の小さな島がある。その「白綱島」のモデルは、言うまでもなく、作者自身の故郷・因島である。

造船と柑橘の栽培が盛んで、日本最長(当時)の吊り橋の完成によって、作中の表現を使うなら「本土」と地続きになり、しかし日本の産業構造の変化によって島の経済にも翳りが生じ、やがて対岸の市に吸収合併される

解説・光原百合 ー 文庫版『望郷』 より

因島、すなわち「白綱島」はそういう島らしい。

対岸のO市のほかにも、新幹線のF駅から高速バスが出ていたり、島の北西からM市へフェリーが出ていたり。「石の十字架」に出てくる伝説の元ネタはきっと白滝山の石仏群だろう。

分析したわけではないが、湊かなえの作品で島が出てくるものは多い。密室殺人の舞台としてではなく、登場人物の感情ひいては物語そのものに大きく関わる背景としてである。

物語はフィクションである。そこから実在する人々の島に対する想いを勝手に推測するのは失礼な気もする。
とはいえ、その島で生まれ育った人には、愛島心などでは表せないない、一方で「複雑」で済ませたくない、そんな感情があるのではないだろうか。
島に留まる人も、島を去った人も、島に戻ってくる人も、葛藤を経て折り合いをつけているのではないかと想像した。

それはまるで、登場人物の体験そのものを「謎」として、謎があるのかないのかわからないまま展開し、全貌が見えた時に驚きや感動や爽快感が全身を貫くような、湊かなえのミステリーのようだ…というのはかなり無理があるか。

土生港から 海ぞいの道を
初恋をのせて ペダル踏んでた
乱れた呼吸 さとられないように
246から渋谷にぬける今の僕と何が違うの?
そう考えると ずいぶん遠くへ来たみたい

♪ポルノグラフィティ / Jazz up


因島聖地巡礼計画②

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