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打ち上げ花火あげたろな。 ー美しい日本の伝統を次世代へー

「これは打ち上げ花火や」

この秋、我ら弟子4人とやる能面展のことを、わが師はそう言った。
例年、一門の生徒さんらと行う能面展とは別の、特別な打ち上げ花火。


「もっと若い人にも見に来てほしなぁ。能面なん、よう知らんわって人にも」

能面は、習いに来る人も展示を見に来る人も、もっぱら年配の男性ばかり。それが実情。
かくいう私もひょんなことから能面を習い始めたものの、それまでは大多数の方と同様、知識も興味もなかったというのがホントのところ。始めて丸4年が過ぎたばかりの、知るべきことはまだまだあるひよっこだ。

男社会。職人の世界。そんな能面の世界に飛び込んで40年。75歳になったわが師は切々と語る。

「やっぱりな、これは遺していかなきゃいけない、伝えていかなきゃいけないものだと思うんよ」

「能面師」という生業、日本の伝統芸能である「能」の一端を担うのがその役目。能面は能舞台で使われる道具というだけでなく、高い芸術性を有す美しい日本の伝統文化。


「あんな、テーマ考えてん。”美しい日本の伝統を次世代へ”、って。どうやろ?」

室町時代、世阿弥が能を大成した時に能面の理想形も完成されたとされ数百年。すたれさせてはいけない。次の世代へ、未来へと継いでいく。そんな使命感ともいうべき思い。

「あんた達にも”道”をつくったげなあかんから」

能面という美しい日本の伝統を未来へ繋いでいくという大きな使命感とは別に、今回の打ち上げ花火は、師から弟子へ、20代から40代の娘のような我ら4人へのはなむけともいうべき意味も少なからず意図してくれている。

古き良きを受け継ぎながら、新しい時代へ、新しい世代へ、新しい形で。

「綺麗なんあげような。みんなに見てもらおうな」

はい、先生。うんと大きくて、飛び切り綺麗なのを。
今はとにかくそのために、はやる心を静め、面に向き合い、面を打つのみ。



小さな火の球が先触れの音を鳴らしながら空を切って駆け上っていく。
一瞬の静寂の後に、大きく空気を震わせ弾ける大輪の花。

幻のように消えてしまう儚く美しい花を。
もし夜空を見上げてくれた人がいるならば、せめてその残像だけでも心の片隅に留められるように。




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