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だって、それは特別だから。どうしようもなく惹かれてしまう理由。

女面が好きです。
女面ばかりをつくっています。
どうしても女面がつくりたいのです。

だって、女面は特別だから。

多くの方が「能面」と言われて思い浮かべるのは女面ではないでしょうか。

実は、能面には意外とたくさん種類があります。歴史の中で淘汰されたり、派生種がつくられたりしていく中で、現在ではおよそ250種類と言われています。その中でも基本形はおよそ60種類。

それらは、5グループに大別できます。
翁(おきな)・尉(じょう)・鬼神(きしん)・男面・女面の5つです。


(1)翁は、平和を祝して舞う『翁』という演目にだけ用いられる、ボウボウ眉に笑みを浮かべたおめでたい表情の特別な神様の面。

(2)尉は、年老いた男性の面で、神様、武士・貴族の亡霊、老人の役に用いられます。

(3)鬼神は、その名の通り、鬼や神様、天狗など。恐ろし気な顔やユーモラスな顔など、バラエティ豊富。金色の目と歯を持ち、それは人間を超越した存在であることを表しています。

(4)男面は、武士や貴族の亡霊、少年、盲目の役など様々な種類があります。

これら4つの他に、あとは女面・・・
そうだ、もう一つありました。

(0)直面(ひためん)です。
直面とは、能役者が能面をつけずに素顔のまま役を演じる時、その素顔のことを直面といいます。これはちょっと能面トリビア的豆知識。

そして、(5)女面。

女面に最も顕著な特徴として表れているのは、「表情変化」です。
それこそが、私が女面にどうしようもなく惹かれ、囚われる理由。

「能面の表情=無表情」と思われているかもしれませんが、実は逆で、女面はとても表情豊かなのです。

女面の表情を変化させるために、角度や光の当たり具合によって見え方が変わるように細かな細工を施しています。

まぶたの覆いかぶさり具合、眼球の角度、目頭から目尻へ向かう流れ、唇の形状、奥行、上唇や下唇の角度、ふくらみ具合、口角、ありとあらゆるところに細工をほどこす。

これは、数百年前の能面師が編み出した匠の技。これらは今も連綿と受け継がれています。


それなのに、なぜ「無表情」に見えてしまうのか。
一体どうしてこのような真逆の現象が起こっているのか。

実は、まさに女面の「表情が変化する」ことこそが、「無表情に見えてしまう」原因。ますますこんがらがりますよね(笑)

「変化する」から「無表情に見える」ってどういうこと???

一般的に「無表情」と思われている表情は、「中間表情」と呼ばれる表情。

中間表情とは、何の表情でもない表情次の瞬間に何らかの表情をするであろう表情。次の瞬間には微笑むかもしれない、あるいは憂いを見せるかもしれない、そんな表情になる前の表情。そんな表情を先程あげた細工によって作り上げていくのです。

あとは、その細工が細工と気づかれぬように。

「曖昧に、あいまいに」
「朧に、おぼろに」

呪文のように唱えながら、表情を溶かしていく。
そういう時は、呪文もかっちりと固い漢字からひらがなに溶かしていった方が上手くいく。

すると、おぼろで、靄のヴェールをまとったとらえどころのない表情が立ち現れてくる。

そんな表情を生み出すために、薄皮一枚、髪の毛一本分の攻防を繰り返しているのです。

ほんの少し、もしお時間が許すのなら、しばらく女面を眺めてみてください。きっと、何かがふっと変わる、そんな瞬間が訪れるはず。







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