庭に落ちた流れ星
流れ星が私の実家の庭に落ちてきたことがある。
本当にあった話である。
私が二十代の頃の奈良の空は、まだ空気が澄んでいて夜空に星が瞬くのがよく見えた。
その時は、丁度流星群が来ていた時で、漆黒の空を見上げていると、一度に二、三個の流れ星が空を飛び交うのが見えるくらい賑やかだった。
「ロマンチスト」だった乙女の私は、あわよくば素敵な恋人を手に入れようと流れる星に願いをかけるために、縁側から一人で空を見上げていたのだった。
散々願掛けを繰り返して気づけば午前零時になろうとしていたその時、空高くからひときわ大きな流れ星がつぅと流れるのが見えた。
その大きな流れ星が弧を描くような感じでこちらに向かって近づいてくるように感じたので、私はじっと目を凝らして星の行方を見守る。
どんどんと私のほうに近づいてくるように見えて、
「ええ!?」
と、思わず上ずった声が出た。
そうこうしているうちにひゅるると降りてきて、最後のほうはふわふわと揺れるような感じで、庭の椿の木の傍に音もなく着地したのだ。
星が落ちた場所を確認するために、慌ててスリッパを履いて駆け寄ってみる。
けれど、もう小さな火の粉は燃え尽きたようで、庭の土の中に紛れ込んでしまってわからなかった。
朝起きてからもう一度見に行ってみたけれど、ただの土と砂があるだけで星屑がどこにあるかは見つけ出せなかった。
その日、出勤して同じ部署の人に興奮しながら、流れ星が庭に落ちたことをああだこうだと話しても、
「夢見てたんやろう。そんなことが起こるわけないやないか」
と、誰にも相手にしてもらえなかったうえに、段々と自分が言うことに自信がなくなってきたので黙り込んでしまった。
確かに縁側からスリッパを履いて椿の木の下辺りを隈なく見た覚えはあるのに……。
絶対に庭に流れ星が落ちたんだ……。
それなのに主張すれば主張するほどホラ吹きを見るような目つきをみんながし出したので、私はその話はそれ以降誰にも言わず今まで封印してきた。
でも、ロマンのある話ではないか。
みんな失笑していたけれど、本当にあったお話なのだ。
寝ぼけてたとか夢でも見たんだろうとか言われたけれど、あれは絶対に夢じゃぁない。
流星群が来たときは、みんな広い場所に出て夜空を見上げてみるといい。
もしかしたら、あなたの側にも星が舞い降りるかもしれないのだから。
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