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【時事】日本の移民政策

これもあまりに誤解が多いと思うので整理。多分、外国人労働者と移民と難民と帰化と永住と一時滞在と、その他もろもろの定義や区分がみんな曖昧なんじゃないかなと思います。

これ、ネットの論調は「受け入れたくない」というのが主流だと思います。そりゃそうですよね、異文化流入でのコミュニケーションの問題、文化や価値観が違う人々との軋轢、治安維持の難易度などの問題が山積していますので。ここで問題は「受け入れた時のメリット・デメリット、受け入れない時のメリット・デメリット」と「全く受け入れないのか?受け入れる場合はどのくらい受け入れるのか?どんな人を受け入れるのか?」がすっきり理解できれば、考え方の指針になりうるかな?というのが記事の狙いです。

一回、全部整理してみよう。ざっくりどんな内容なのかを前もって。

01.生産年齢人口の減少と超高齢化社会
日本の高齢化と労働力不足の加速。
02.外国人人口
国内で外国人がどのくらい生活して労働しているのか。
03.外国人労働者と移民と難民と準難民の違い
労働目的で期限を区切って働きに来るのが外国人労働者、居住・定住目的が移民、故郷の事情で仕方なく日本に来るのが難民です。
04.特定技能について
これは「優秀な人材囲い込み」です。
05.入管法の変遷
改正多いから直近のトピックだけね
06.日本政府の方向性
機械でやれることはなるべく機械で(労働力減少カバー)高度人材は受け入れて、あとはドライに審査
07.私見
最適解じゃないかな?と私は考えます。


01. 生産年齢人口の減少と超高齢化社会

まずは日本国内の現状把握からです。
人口ピラミッドが「若年層が多い時代」は、移民なんて受け入れなくてもどうにでもなったんですよね。労働人口がキープできてれば、わざわざ海外から人を招く必要もないです。

01-1.  生産年齢人口

現役でバリバリ働ける世代(義務教育期間の若い方々や、高齢者を除く)の人口は年々減少しています。

注釈:生産年齢人口について
「0~14歳の人口」「15~64歳の人口」「65歳以上」で区分  
この「15~64歳人口」が生産年齢人口といいます。 
生産年齢人口は1995年に8,726万人をピークに年々減少しています。

01-2.  高齢化率

2023年9月時点の日本の高齢化率は29.1%です。これは年々上がっています。「いずれ少子高齢化」ではなく「超高齢社会が現在進行形で年々進行している」という実情をまず把握しておきましょう。

注釈:高齢化率について
 全人口に占める65歳以上人口の割合のことを「高齢化率」といいます。
 高齢化社会 :高齢化率 7~14%
 高齢社会  :高齢化率 14~21%
 超高齢社会 :高齢化率 21%以上 (日本は29.1%でここです)

下記のグラフを見てください。

財団法人国土技術研究センター

現状は「生産年齢人口は年々減っていく / 高齢者は年々増えていく」という状況。いずれそうなる、ではなく「待ったなし」なのがご理解いただけるかと思います。猶予はないです。

01-3. 総人口

2010年をピークに、人口は減少のターンに入ってしまっています。

日本生命 (元データは内閣府の令和4年高齢化社会白書)

02. 外国人人口

次に確認したいのが、前述の「減っていく日本人」との対比で「増えていく外国人」のお話です。

02-1. 外国人人口増加の理由

日本は周囲を海で囲まれている島国で、かつ江戸時代は鎖国をしていた経緯もあり、大陸に位置して地続きで他国と隣接する環境ではなかったので、かつては外国人の往来が盛んではありませんでした。

我が国も国際化し、1980年前後から外国人の在留が増え、それに伴い自然発生的に日本人と国際結婚をしたり永住許可を取得したりする外国人も増えています。また、経済発展にともない、海外と繋がりを持つ企業が増加し、日系企業が海外に拠点を持ったり海外の企業が日本に進出したりすることが増え、国際的な人材の往来が増えましたし、日本に駐在する外国人や日本での就職を選ぶ外国人が増えてきているのです。

ここ、ご留意頂きたいのが「今の50、60代は若い頃はほぼ外国人が皆無な時代を過ごしている」けど「今の10代、20代は外国人がいるのが当たり前な時代を過ごしている」です。世代間で外国人に対しての感覚に大きな開きがあります。

02-2. 近年の在留外国人人口推移

2022年6月末時点のデータです。在留外国人総数は2,961,969人、永住者総数は845,693人です。大きな割合を占めるのは中期滞在者で1,823,574名で全体の61%、特別永住者(いわゆる在日韓国・朝鮮・台湾人)が292,702人で全体の9.9%です。永住者は28.6%程度です。日本での移民が「安倍元総理の答弁」の定義どおり「永住」とする場合は「移民は84.5万人」です。

2022年の日本の総人口が124,947,000人、永住者の占める割合は0.67%です。1,000人中6-7人。いわゆる戦後の在日外国人を含めた場合は0.91%で、1,000人中9人となります。

出入国在留管理庁

どこから「移民が多い」と判定するかの基準は人其々だと思うのですが、1,000人中9人が「移民が多い」と判定されるかは微妙ではないでしょうか?


03. 外国人労働者 / 移民 / 難民 / 準難民

03-1. 外国人労働者とは?

厚生労働省の定義を見てみましょう。

【外国人労働者の定義】
「外国人」とは、日本国籍を有しない者をいい、特別永住者並びに在留資格が「外交」及び「公用」の者を除くものとする。また「外国人労働者」とは、外国人の労働者をいうものとする。なお、外国人労働者には、外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(平成28年法律第89号)第二条第一項に規定する技能実習生も含まれるものである。“

厚生労働省による外国人労働者の定義

これを更に細分化すると、下記のようになります。

区分1:専門的・技術的分野の在留資格
就労系在留資格で来日してくる外国人労働者。
区分2:身分に基づく在留資格
永住者や定住者など。活動制限がないため、あらゆる業務への従事が可能。
区分3:技能実習生
発展途上国から技術習得のために訪れる技能実習生。
区分4:特定活動の在留資格
ワーキングホリデーやEPA介護福祉士候補者などが該当。
区分5:資格外活動
本来の在留資格で指定されている活動以外の活動をするための資格。具体的に言えば留学生のアルバイトなどが該当。


03-2. 移民とは?

では、移民の定義は?これで分かりづらいのが「国際的な定義」と「日本での定義」に差異がある事です。

【国際移住機関(IOM)による移民の定義】
「移民」とは国際法などで定義されているものではなく、一国内か国境を超えるか、一時的か恒久的かに関わらず、またいかなる理由であれ、本来の住居地を離れて移動する人という一般的な理解に基づく総称

国際移住機関(IOM)

では、我が国における移民の定義はどうなっているでしょうか?日本政府は「移民とは外国人が日本国籍を取得し、永続的に居住することを指す。そのため、期限付きの在留資格を持って日本で暮らしている外国人はあくまで一時的に日本に在留しているだけであり、移民ではない」としているのです。

【我が国における移民の定義】
衆議院議員 奥野総一郎
「わが国における政府の「移民」及び「移民政策」の定義を示されたい」
内閣総理大臣 安倍晋三「お尋ねの「移民」や「移民政策」という言葉は様々な文脈で用いられており、それらの定義及び御指摘の「1,278,670人の外国人労働者」に係るお尋ねについて一概にお答えすることは困難である。その上で、政府としては、例えば、国民の人口に比して、一定程度の規模の外国人を家族ごと期限を設けることなく受け入れることによって国家を維持していこうとする政策については、専門的、技術的分野の外国人を積極的に受け入れることとする現在の外国人の受入れの在り方とは相容れないため、これを採ることは考えていない。

衆議院議事録より 経済財政諮問会議 平成30年2月28日

03-3. 難民とは?

国連での難民の定義はこちらです。ざっくり言うと「母国が危険な状況で帰るに帰れない方々」というところでしょうか。
※難民制度について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

1. 人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることや政治的背景を理由に迫害を受ける恐れがあり、国籍を有する国を逃れて国の保護を受けられない人、または国籍国の保護を望まない人
2. 上記の結果として、無国籍者かつ常居所を有していた国に帰ることができない人、または帰ることを望まない人

国際連合 難民の地位協定

日本は難民の受け入れにはかなり厳しい。
各国の難民受け入れ状況をご確認ください。2022年は3,772人が難民申請を行い、認定されたのは202人、一方3,570人が不認定。認定数は過去最多ですが、依然として少ない認定数です。賛否はともかく、現状はこのような推移です。

難民支援協会


日本は偽装難民を警戒している。

2010年、日本はすべての難民認定申請者に対して一律で就労を許可することにしました。が、避難生活を余儀なくされ支援を必要とする難民ではなく、出稼ぎ目的の難民認定を受けようとする人が急増。
2018年、これらを考慮し一律での就労許可を廃止。各国の大使館に周知することによって難民認定申請を厳しくしました。

※入管法に関しては別枠で述べます。


03-4. 準難民とは?

入管法で、難民とは「人種,宗教,国籍,特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由として迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために国籍国の外にいる者であって,その国籍国の保護を受けることができないか又はそれを望まない者」を言います。これは非常にハードルが高く、たとえば戦禍を逃れてきた人は含まれていません。ウクライナ情勢などを考慮し、戦争から逃れた人たちを受け入れる目的で「準難民」という制度を新設しました。

日本経済新聞

04. 特定技能について

外国人労働者のうち、比較的新しい制度がこちらの「特定技能制度」です。

特定技能1号と2号の人数をご確認ください。これは2023年5月時点です。特定技能2号って「たったの11人」なんですよね。

出入国管理庁より筆者作成

また、それぞれの要件です。特定技能2号になったからと言って「更新なしでずっと滞在できる」というものでもないです。更新回数の制限はありませんが、岸田文雄首相が、外国人労働者とその家族が日本に(更新が必要ですが)無期限で滞在できる特定技能2号を2分野(建設業と造船業)から、人手不足に悩むサービス業を含む11分野に拡大したのは「絞りすぎて少なくなりすぎたから」です。(※これは定期的に見直しが入ります)

出入国管理庁より筆者作成

特定2号の人数がかなり絞られているのはご覧のとおりです。これは「スキルの高い熟練技術者が、高いハードルを越えられた場合のみ長期滞在や家族帯同が許可される」です。無尽蔵に誰でもウェルカムな状態じゃないのはお分かりいただけるかと思います。

05. 入国管理法の変遷

そもそも入国管理法とはどういう法律なのかから確認しましょう。正確には「出入国管理及び難民認定法」といい、ポツダム命令に基づいて1951年(昭和26年)10月4日に公布されました。法令はこちら

「出入国管理及び難民認定法」
出入国管理及び難民認定法(入管法)は、本邦に入国し、又は本邦から出国するすべての人の出入国の公正な管理を図るとともに、難民の認定手続を整備することを目的とした法律です。

内閣府男女共同参画局

過去に幾度も改正されているのですが、ここ数年のみピックアップ。

05-1. 2018年改正

2018年12月8日「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が成立。同月14日に公布、2019年4月1日に施行されました。

特定技能制度の創設
新たな在留資格として下記の2項目が出来ました。技能実習制度との違いは同一職種なら転職や移転があること。

【特定技能1号】
不足する人材の確保を図るべき産業上の分野に属する相当程度の知識又は経験を要する技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格
農業、漁業、飲食料品製造、外食、介護、ビルクリーニング、素材加工
産業機械製造、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊
の14業種

【特定技能2号】
同分野に属する熟練した技能を要する業務

2018年 入管法改正概要

05-2. 2021年 ※取り下げ

2021年に提出された法律案は、取り下げとなりました。

問題とされている点
・不法滞在者の帰国の徹底
・難民認定手続中の外国人も申請回数が3回で強制送還できるようにする
 (2回申請を却下されて3度目の申請中の人)
・強制送還を拒む人に対しては、刑事罰を加えることも可能

2021年 サポネット 入管法記事

かつては、帰国すると身に危険が及ぶことで難民申請をしているので、強制送還が保留され、日本にいる事を許されていました。が、元々日本の難民認定率は諸外国と比べて低く、また入管施設に収容されていたスリランカ人女性(ウィシュマさん)が過酷な扱いを受けて死亡した事件をきっかけに、改正案への批判が高まり、改正は取り下げとなりました。

05-3. 2023年改正

2023年6月9日に参議院本会議で成立しました。大きなポイントは「難民申請3回目以降の場合は本国へ強制送還が可能になった」という点。

改正案の内容
難民認定の申請期間中は送還が認められていませんでしたが、改正後は3回目以降の申請者に対しては「相当な理由」で認められない場合は、本国へ送還されることになります。(改正された理由は、難民認定の申請に上限を設けないと、難民認定申請を繰り返せば送還から逃れられるからです)
準難民について
・難民に該当しない外国人で紛争などから逃れて来た人(ウクライナ避難民など)を補完的保護の対象者とします。
その他
・送還を妨害した人などに対する罰則も新設されます。
・入管施設への収容については、3カ月ごとに見直しが行われます。
・施設に収容してきた外国人に対して、支援者や親族等の監理人をつけることで、施設外での生活を認める監理措置制度が創設されます。

入国管理法 2023改正概要を元に筆者まとめ

06. 日本政府の外国人受け入れの方向性

※この項目は私見を交えてのまとめです。ご了承ください。

06-1. AIやIoTの駆使により労働人口減に対応

人口が少なくなる、働き手が少なくなる前にAIやIoT、リモートワークなどで「機械で出来ることは機械にやってもらおう」という流れですね。

Society5.0(安倍政権時に提唱)
先進テクノロジーを駆使し、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させ、現在の課題を解決するプランです。
AIやIoTを駆使し「機械で出来ることは機械にさせちゃおう」です。
・IoTで人とモノとがつながり新たな価値が生まれる
・AIで必要な情報が必要な時に提供される
・イノベーションにより様々なニーズに対応できる
・ロボットや自動走行車などで制約が解消され可能性が広がる

内閣府作成 Society5.0イメージ図

デジタル田園都市構想(岸田政権時に提唱)
これも少子高齢化を想定したプランですね。

地方を中心に、人口減少・少子高齢化、過疎化・東京圏への一極集中、地域産業の空洞化といった課題に直面しています。こうした課題を解決するには、これまでの地方創生の成果を最大限に活用しつつ、地方活性化を図っていくことが求められています。
デジタル技術が急速に発展する中、デジタルは地方の社会課題を解決する鍵であり、新たな価値を生み出す源泉となっています。
今こそ、デジタルの実装を通じ、地域の社会課題の解決と魅力の向上を図っていくことが重要です。(中略)「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を目指す。デジタルの力で地方が日本の主役になる、そんな未来が始まっています。

デジタル田園都市構想
デジタル庁 デジタル田園都市構想

06-2. 不足する人員は「定住しない外国人」受け入れ

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の試算によれば、日本の労働力人口は平均で毎年22万人減少する見込みとの事。

期限を区切る短期・中期労働者は一定数受け入れ
特定技能制度創設の際に「業種ごとの不足人員」が試算されていて、各業種はその数値をめどに受け入れています。無尽蔵に誰でもOKではなく、数値目標有の綿密にプランニングされた受け入れです。

留学生受け入れ
海外からの留学生を増やしているのも労働力確保のためです。コロナ禍前の30万人強から2033年までに40万人を迎え入れ、その半数に日本で就職してもらうことを目指しています。留学後も日本にとどまる外国人は4割程度で、それは特定技能方面や永住の資格を取らない限りは「有期限の滞在」になります。若年層の労働力はあった方がいいですよね。

06-3. 永住、長期在留の外国人は極力厳選

特定技能2号は我が国の産業において有益なスキルを保有する方で(ぶっちゃけ、その辺のボンクラ日本人よりよほど有能かなと)、上位層は永住資格に準ずる形で受け入れてもいいのでは?と個人的には思います。

07. 私見

結局は移民問題は「減少する日本の労働力確保をどうするか?」の問題だと思います。私は「外国人労働力を受け入れなくても現在の高齢者は逃げ切れるとしても、今現在、10代や20代の若年層が20年後、30年後にどうにもならなくなる」と考えます。今、少子高齢化が問題になっているのも「団塊ジュニアの世代が結婚適齢期の時には就職氷河期でデフレで対策が後手に回った(というか手を打てなかった)から」だと思います。

かといって、節操なく誰でも受け入れることで日本とのカルチャーギャップや価値観の総意で社会構造が変化するのも怖いですよね。

日本の政府の方針は、実は結構ドライで「高度人材に関しては積極的に受け入れて定住してもらい、その他の労働人口に関しては厳しく審査」はベストかどうかはわかりませんが「現時点で取りうる最適解」じゃないかと考えます。

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