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勝利の女神:NIKKE 稗史:伏魔殿の道化師はヒト探し中(7)

たれもかれもが力いっぱいに
のびのびと生きてゆける世の中
たれもかれもが「生まれて来てよかった」
と思えるような世の中
じぶんを大切にすることが
同時にひとを大切にすることになる世の中
そういう世の中を来させる仕事が
きみたちの行くてにまっている
大きな大きな仕事
生きがいのある仕事

『君たちはどう生きるか』吉野源三郎

「本日はここまで!」
「「「ありがとうございました!!」」」
 今日も銃剣道の稽古も無事終わりました。基本のキから教わっているのですが、だいぶサマになってきたかしら?
「順調かい?」
 そう声をかけて下さったのは、プロダクト23の先輩です。先輩は元々の華奢なボディとは思えないほど鍛えているニケの方で、ケイト先生の一番弟子だけあって量産型とは思えぬほど強いです。
「先輩、お疲れ様です! 今日は素振りを只管行いました!」
「結構結構。型が身につくまでやって初めて実践出来るのだから腐らずにな」

 軍隊は厳しい上下関係があります。階級が上ならば、年齢が上ならば、軍歴が長ければ……などによって、それより下位の者は基本的に従わなければなりません。ニケならば人間の指揮官には尚更です。
 しかしこの道場では、先輩であれば後輩に対して一定以上の叱咤や権力を嵩に着た依頼などを行ってはいけないと定めています。
 これは、ケイト先生が人間時代から上位者に散々振り回されて来たことへの反省や、武道的な修身とかなのだとか。
 皆、姿は様々ですが優しいです。

 そんなこんなで、泉会での日々は半年を過ぎようとしていました。
 新しい特待ニケの娘もやって来ました!
「よろしくおねがいします」
 古き良き宮廷文化咲き誇るかのような銀色の髪型の小さい女の子型ニケが挨拶してくれたんですが、はっきり言うと声が小さすぎて全然聴こえません。すごく恥ずかしがり屋なんでしょうか?
「んー? もう一回言ってみ?」
 ネイトさんがスマホをマイク代わりにしてもう一度催促してます。
「ベルタンです。よろしくおねがいします」
「ワタシはネイトっていうの、シクヨロです!」
「ネイトさんはふるくさいファッションなんですね」
「このガキは言うに事欠いてなんてことを……」
 小さい声だからと油断したのか、失礼なことを言ってネイトさんに追いかけ回されている彼女の姿は小動物みたいでかわいいです。ああ、あっという間に捕まってコブラツイストかけられてる!
「このウーパールーパーは天ぷらにして食ってやるぞー」
「たーすーけーてー」

 ベルタンは戦闘はからっきしだったそうで、二三発撃った後は逃げ回って同僚や指揮官に酷く扱われて泣いていたような娘です。
 ですが、お裁縫に関しては信じられない才能の持ち主です。会長の面談では自分の作品を見せて一発合格したそう。既にお屋敷のテーブルクロスなんかも製作しているのだとか。スゴいなぁ。

 私は月一回はお芝居を見に行くのが趣味です。その際、誰かを一緒に連れて行くこともしばしばあるのですが、ベルタンは特に喜んでくれます。
「ミュージカルやオペラの舞台衣装ってすごく豪華でみていてあきません」
「だよねぇ。でも現代劇なんかも面白いよ?」
「うーん、一般人が着ている服にはあんまり惹かれないですね」
「ブームを作ろうって思うことはないの?」
「既製品をデザインするよりかは、ニケの服みたいに個性的なのをつくりたいんですよね。ルカ先輩のピエロ衣装の画像みせてもらったんですけどアレ作っていいですか?」
「どっちかといえば日常使い出来る服がいいなぁ……」


「ベルタンとは一時期疎遠になったものの、今でも衣装に関しては贔屓にさせて頂いてます。彼女は今はとあるアパレルブランドの縫製の方で頑張っておられます。デザインに関しても後進の育成に重用されているそうですよ」

 勉強に関して私はついに大学入学資格を得ることが出来ました! 目標達成です!
 ですが、ネイトさんとプリンちゃんは既に志望大学に合格して入学しています!
 さて私はどうしようか?

「マチルダさん。進路について相談に乗ってくれませんか?」
「仕事も終わったし、食事がてら聴いたげる。何?」
 昼休みにお庭で昼食を広げながら、私は人生の先輩であるマチルダさんに今後どうしたらいいか聴いてみたいと思っていました。
「あなたがしたいことすれば……ってそれが判れば苦労しないわね。せっかくだし大学行かずに資格の勉強しておけば?」
「資格、ですか」
「まぁ履歴書に書ければ書けるだけって訳にもいかないけれど、ニケに学歴って特段要らない気がするのよね個人的には」
「そういうもんです?」
「人間ですら大卒だからって言ってもピンからキリまでいるんだし。それにニケって結局は戦闘するのが本分なんだから、それに関係したものをとっておけば後々活きる気がするのよね」

「資格かぁ」
 戦場で必要そうなものってなんだろう? 自動車は免許がいるから取ろう!
 あと、ケガしたニケを介抱する技術がいるだろう。
 工場で荷物を載せたりするフォークリフトとかもいるだろうし、電気の工事が出来たら色々応用できそう。調理師免許にシステムエンジニアに帳簿整理などなど。
 なんだかいっぱいある事に私は少しの不安と大きなドキドキを感じていました。

「ルカ、あなた資格講座に大量の体験セット希望出してるようだけど、よく考えなさい」
 会長にバレました。
「だって色んな資格取得にチャレンジしたいんですもの」
「その熱意は買うけど、あなたたくさんやることあっても一個ずつしか出来ていないんじゃなくて? 勉強も苦手科目を克服するのだって一科目ずつだったじゃない」
「はうあっ!!」
 会長はいつも痛いところを突いてきます!
 確かに私は不器用です。せっかちだし飽きっぽいのも自覚があります。
「先ずは一個か二個。失敗しても繰り返してやれるものからコツコツと、よ?」

「今すぐいるもの、これはあとでいるもの……」
 体験学習セットを並べながら、今私が必要なものを選びます。
 くさらないもの、日常生活に使えそうなもの……
 そこには護身術の通信講座と、介護士認定初級合格講座、調理師入門講座がありました。ケイト先生もいるから護身術は要らないかな?
 代わりに自動車の運転免許にしようかな? 大型免許っていきなり取れないからなぁ。

 そんなこんなで、泉会での一年は過ぎていきました。アレ、この言い回し繰り返しになってない?
 特待ニケも一気に二人追加です。ひとりはシャロンさん、もうひとりはウコクさんです。
 しかしこのふたり、相性は最悪のようでいきなり取っ組み合いのケンカを始めました。その理由がこちらです。
「ふざけんなこの電子広告チャイナドレスヤロー!」
「ヤローじゃないヨこの刺青アバズレオンナ!」
 片方のシャロンさんは白寄りベージュ肌の、チャイナみのあるニケです。その背中には龍の画像が!
「これはデジタルサイネージで描いてるヨ!」
 もう一方のニケのウコクさんは……なんていうかモザイクがかかって見えます。
 会長にはハッキリ見えているようなのでどういう具合なのか聞いてみましょう。
「そうねぇ、日焼けした肌に、とにかくたくさん刺青を彫っているイマドキの女学生みたいな娘ね。どこを指してアバズレなんて失礼なことを言っているのかわからないのだけれど……」
「じゃあネイトさんが確かめてみましょう」
「オッスお願いしまーす」
 ネイトさんもなんか見えているようです。流石は天の道を行き総てを司るとか言い始めるだけあります。
「スカートめくるなんてイヤん」
「とか言ってオメー、下腹部に淫紋彫り込んでんのヤベーとしか言えんし」
「だってオジサン、タダで彫らせてやるっていうんだもん」
 会長も頭を抱えて、支援するの辞めようかしらと言い始めました……

 そんなウコクさんですが、ニケやラプチャーの視線を一身に集める(そして見えづらいため攻撃が当たらない)特性を高く評価しているニケがいます。先のネイトさんとプリンちゃんです。
「なんだメガネちゃん二号、アイツとなんかやんの?」
「ええ、彼女の視線誘導を私の力に利用すれば大量のラプチャーを一気に殲滅出来ますから」
「アンタの能力はあんまよくわからんけど、碌でもなさそうなのはわかった」
「私もあなたの能力は詳しく存じ上げていませんが、彼女を囮に自身の狙撃をしやすくするのが狙いでしょう?」
「そちも悪よのう」
「ウフフ……」

 私やマチルダさんはどちらかというとシャロンさんとよく話をしています。彼女は時間さえあればすぐに格闘技の演舞を行うのをしょっちゅう目にしていたからです。
 その日も彼女は太極拳をしながら、己の力を練り上げていました。
「いつもなんのダンスしてるんですか?」
「これ踊り違うヨ。太極拳ヨ」
「健康体操ね?」
「それもほんのちょっと違うヨ」
 彼女が言うには、この世には陰と陽ふたつの力があり、ニケの無尽蔵のコアエネルギーもカラダを巡る際に上手に外界に送れば絶大な力を発揮できると言うのです。
「人だった頃はぼんやりしていた気だったけど、ニケのエネルギーは本当に強い。ニャンニャン師匠もそう言ってた」
 面白そうなので、以降となりで同じようにやってみていますが、なかなかわからないですね。ただマチルダさんは寝つきが良くなったそうです。

 そんなこんなで、泉会での一年は過ぎていきました。早いものでもう三年目です。
「いや〜ヘッジホッグってんだ。世話になるよ」
 彼女は財団始まって以来の天才科学者ニケでした。三大企業に勤めればいいんじゃないかと言うレベルですが、なんだかんだで宮仕えが性に合わないらしく流れてきたのがここでした。
 彼女は変な武器を作ることに関してはトップクラスです。知恵者のプリンちゃんとは相性が良いようです。
「これがパンジャンドラムくん一号だよ!」
「完全にパンジャンドラムですね。これに何が付与されているんですか?」
「空を飛んで遠隔自動操縦出来る!」
「ヤバいですね……」
「ただ、エネルギー不足で五分しか使えないけどね」
「ゴミですね……」

 ただ、ここのところプリンちゃんの顔色があまり良くありません。
「プリンちゃん何かあった?」
「いいえ別に……」
 こんな感じでなんかすっきりしないのです。
 私がそう思いながらも道化師姿で介護施設でボランティア活動をしに行く直前、会長に呼び止められました。
「ルカ、少しだけ世間話に付き合ってくれる?」
「マーガレット会長、どうなさいました?」
「ディシプリンの件で少しね」

 会長からの話はこんな感じです。
「ディシプリンなのだけど、大学の教育実習が思わしくないらしいの。その学校にいる知人から相談を受けたのよ」
「最近のプリンちゃ、ディシプリンは様子がおかしいと思っていたんですがそんな事があったのですね」
 しかし、彼女が何をどうしてるか、何が正しいのかも分からない以上、現時点では誰もどうしようがないのも事実。
「じゃあ明日コッソリ偵察したいので許可をもらえるようお願いします」
 私はこのように会長の手伝いをする事が増えてきていました。ヒマなので全然構いません!

 翌日。
「今日はよろしくお願いします」
「いえいえこちらこそ」
 あちらの学校の教頭が出てきたのには驚きましたが、それだけ話は深刻なのでしょう。
「今ちょうど実習中なので覗いてみて下さい」
 私はコクリと頷きます。声を出してニケの聴力で勘付かれてはめんどくさくなりそうだからです。
 覗いてみた授業風景は、あまりにも人間味に欠けていました。
「この問題の意図は云々……何か質問は?」
 プリンちゃんは丁寧にやってはいるのです、テキスト通りという意味では。 
「……ないようならば次の設問ですが……」
 ですが、抑揚もなければ問題を解かせることも無くただ滔々と本の通りにやっているのでした。

 応接室に戻った私たちは顔を見合わせてげんなりしていました。
「ね? 酷かったでしょう」
「彼女頭がいいからアレで出来ちゃうんです……」
「だと思います。だがアレじゃ他の子はサッパリなんですよ」
 話は大体わかりました。
 プリンちゃんは人間離れし過ぎててーーニケかどうか以前の問題でーー授業が出来ない。なので単位を落として困っているのだろう。
「こちらとしても指導を行ってはいるのですが、我流の学習法が染み付き過ぎているのと本人の気質で上手く伝わらないようでして」
「なるほど」
 こういう時は本人にも話を聴かないとね。
「私も少し頑張ってみます」

 素知らぬ顔でプリンちゃんと会う必要があったので、直近の定期会合を利用して話そうかと作戦を立てていたらマチルダさんとネイトさんからメッセージが!
「会合後食事行かね?」
「会合のあとでみんなで飲みに行きましょうよ」
 考える事は皆同じようです。

「こないだおすすめした銘柄中々の上物だったけど上手く捌けた?」
「もう少し寝かせてもいいかなと若干残してます。でもすごく良い稼ぎになりましたよ!」
「なんだお前ら株式投資で財テクしてるのか〜? 一枚噛ませろよ」
「……」
「メガネちゃん二号はしくったのか顔色が悪いぞ〜」
「違います。少し疲れが溜まってるだけです……」
 そう言ってプリンちゃんはスピリットを煽るのです。そんなの飲んで大丈夫かなぁ?
「オイオイキツいの頼むなぁ。ルカはアッシー君役だから飲むなよ?」
「がってん承知の助! でしたっけ?」
「どこの言葉よそれ?」
「了解を意味する日本の古い言い回しです……」
 アルコールも入って賑やかになる中、プリンちゃんだけは全くテンションが上がらず。
 そしてそのまま食事会はお開きになりました。泥酔者二人を発生させて……

 酔っ払いニケふたりをそれぞれ宿舎に突っ込むと、漸くプリンちゃんとふたりきりになりました。
 さて、私はここからが本番です!
「プリンちゃんもお酒飲んでたけど大丈夫?」
「全然酔えませんでした」
 お酒強いんだなぁ。
「ほんとなんかあったの? 話あるなら聴くよ!」
 そして彼女は口を開き、溜め込んでいたものを放出し始めました。
「今まで私は読んだものをすぐ覚えて実践する事が出来ました。文字も、数字も、イラストも」
「ふむふむ」
「人に何かを教えることなんて簡単だと思っていたのです。事実、これまでの理論構築でも評価はAでした……」
 プリンちゃんは涙をポロポロと流し始めますが、私は黙って彼女が本音を言うのを待ちました。ガンバレ!
「でも実際、人に教える段になって、自分が如何におかしいか思い知らされました。みんな私の勉強方法では理解できないと言うんです!」
「大学の先生とか、実習先の先生、教える生徒なり児童に質問したのかな?」
「たくさん聞いて回ったり、教わったりしたのです。他の方の授業をそっくりそのまま真似た事すらあります……蕁麻疹が出ました」
「よくわからないけどそっかぁ。授業アンケートとか見ることできる?」
「守秘義務が……」
「ちょっとだけだから!」
 プリンちゃんは悩んだ挙句、数例だけ抜粋して教えてくれた中に、興味深いセンテンスを私は見出しました。
 曰く、話が面白くない。

「話し方を面白くする方法は、あるよ?」
「一体どうするのです?」
「明日休みなので教えてあげるから、予定空けられる?」
「了解しました」
 翌日の昼、私たちは落語の寄席に行きました。
 落語とは日本という国の伝統的な話芸であり、その期限は戦国末期の安土桃山時代の地方領主である大名に話を聞かせていた御伽衆と呼ばれる人々と言われています。
 アークにも落語は流れ着いたのですが、流石に共通語でやるのは難しかったのか中々定着していません。ですが、様々な人種の方やニケが挑戦し続けて今でも楽しむことが出来るのはありがたいことです。

「話だけは知っていましたが、聴くのは初めてです」
「私はたまに行くよ。途中で曲芸なんかもやるんだ」
 寄席は早いうちから行われるのですが、最初の方は前座と呼ばれる見習いの人たちです。アーク流なので拙いも何もないのですが、経験年数とかなんでしょう。
 夕刻になるにつれ、噺家もレベルが上がってきて話に惹かれてきたのかお互い感想を言い合うこともなくなり、ただただ没入していったのです。
 真打になると、流石に日本の言葉で話すようになったので、席についているイヤホンから流れる副音声で内容を把握します。しかしながら、話だけで無く、身振りなども彼らの表現方法の一部です。話の中では時に異性にも幼児にもなり、それをイメージしながら愉しむのです。
 おそらく私がイメージしている話と、プリンちゃんがイメージしている話はどこかしら違うはずです。
 だけど、それで良いのです。

「今日の落語会、どうだった? 私はお値段以上に楽しめたよ?」
「……想像以上に楽しめましたし、ヒントになった気がします。今日はありがとうございました」
「そう言ってもらえるとうれしいよぉ」
「私も少し話をしてみたくなりました。少し公園でも寄って来れませんか」
「がってん承知の助!」

 公園のベンチのふたりで腰掛けると、プリンちゃんはあるお話をしてくれたのです。
「これはあるニケのことなんですが」
「ウンウン」
「彼女はある時、戦闘中にラプチャーに襲われてしまいました」
「それから?」
 と言いながら、私はこれは彼女が落語をやろうとしているのではないかと思い、以後合いの手を入れずに黙って聴くことにしました。
「頭が痛くなったと思ったら、そのうち目の前に誰かがいてこう言うのです。「アークを壊せ、ニケを壊せ」と。壊すのはラプチャーだと抗弁していたら、そのうち周りがラプチャーだらけになっていました」
「……」
「ラプチャーを武器で撃ち続けていたんですが、結局ラプチャーの大群に飲み込まれていました」
 手で溺れている様子を見せるプリンちゃん。さぞ怖かったことでしょう。
「気付いたらアークのリペアセンターにいました。曰く、「侵食反応初期だったので記憶のフォーマットを行った」と」
 するとプリンちゃんは胸元のポッケからサングラスを取り出しました。そして瞳からは緋い光が明滅するのです。
「これはその時の後遺症です。ですが、この緋い光は見るものを狂わせる力が備わっていたのです」
 だからか、ケイト先生との模擬戦で先生が勝手に自決したのは。
「そして、私自身も壊れていました。記憶も欠けてしたかったことも思い出せません。何よりも、なにかが壊れる時が一番楽しいと思えるようになったのです」
「なので今はその直前、一番面白くない状態なのです。いずれ大学を落第してしまったら大笑い出来るでしょうね……」

 たまらず私は口を挟みました。
「でもそうしたくないから青い顔してたんだよね!?」
 静かに頷くプリンちゃん。サングラスからは涙が流れ出ていました。
「知らないこと、分からないことをなくしていくのが面白かったのに、どうしても相手にそれを教えてあげられない……でもそれでご破算にできた時にも面白がってしまえる自分の醜さが辛いんです」
 私はこの夜、ずっと彼女に寄り添ってあげました。

 後日、会長が声をかけてくれました。
「ルカ。あなた何をやったの? 劇的な事が起こったわよ?」
「落語の寄席を見に行っただけなんですけど……」
「落語……ああそういうお芝居ね。あちらの方も改善が見られてなんとかなりそうだと連絡があったわ」
「それは重畳。ディシプリンも一安心ですかね?」
「それはまだなんとも言えないけれどそうなると良いわね。あなたは中々の知恵者ね」
「そういってもらえると気分が良いです」


 「人のために何かする。そういうニケになろうかなとわたくしが考え始めたこの頃に、アークを揺るがす大問題が泉会を巻き込んで起こるのでした」

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