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幼なじみの飛鳥#7 (完結)【私のもの】

「なによ;;;」

隣からずっとニコニコと嬉しそうな視線をたっぷりぶつけてくるコイツを睨みつける。

『いやー、飛鳥ちゃんと初詣に来れるなんて感無量だなあって』

『今までで最高の元旦だぁー』

「でかいなぁ;;;声が;;;」

恥ずかしげもなくそんな事を言われて顔が熱い。





幼なじみのコイツと元旦の昼に初詣に来ている。

一緒に来るのは初めてだ。

今までも毎年行こうよって誘われてたけど、「寒いから無理」の一点突破で断り続けていた。

本当は恥ずかしかっただけだけど・・・

それでも今年はいいよって言えた。

お誘いを素直に受けられる程度には私も成長したって事だろう。

去年のバレンタインに初めてチョコをあげて、お花見に行ったり、お出かけしたりもした。

少しずつだけど気持ちを伝えられるようになったというか・・・

好きが大きくなったというか・・・

私からほっぺにチューした事もあったし//////

思い返すと我ながらけっこう頑張ったと思う。

それでも年始に密かに掲げていた、素直に気持ちを伝えるっていう目標には届かなかった。

チューして早々に逃げ出した翌日なんかは、絶対いじってくるんだろうし、なんか進展しちゃうかもってドキドキしてたのに。

その事については一切触れてこなかった。

飛鳥ちゃんのチューを無かったことにすんのか!!

なんて文句を言ってやろうかとも思ったが、そうじゃない事は分かっている。

コイツが事故にあって、私は気持ちが不安定だったし、心配させた負い目もあるんだろう。

コイツが悪い事なんて何も無いのに。

一方的に好きだの結婚だの言葉にするくせに、決して気持ちを押し付ける事はしない。

いつだって私の気持ちと私のペースを最優先にしてくれてるのが分かる。

なんでそんなに私に甘いんだよ。





『飛鳥ちゃん、大丈夫?』

「え、う;うん」

さっきから声をかけられてたようだ。

せっかく一緒に来てるのに感じ悪いなぁ、私・・・



それにしても去年はあっという間に時間が過ぎた感覚だ。

それは今まで以上にコイツとの思い出がいっぱいあるからだと思う。


『一年早かったねー』

「え;うん」

心の声が漏れていたかのような会話の流れに戸惑う。

サトリか?コイツ;;;


『なんか今までの中で一番早かったかも』

「へえー」

『その分いい年だったってことかな。たぶん飛鳥ちゃんのせいだ』

「は?」

『飛鳥ちゃんからバレンタインのチョコもらえたし、けっこう二人でお出かけもしたしさ』

「うん;;;」

『飛鳥ちゃんって昔っから可愛いのにさ。もう年々可愛いを更新するじゃん』

『だからオレはどんどん飛鳥ちゃんの事が好きになってるんだよ』

『今年ももっと好きになるんだろうなー』

うぅ;;;恥ずかしすぎる//////嬉しいけど/////

なんでこんなに自分の気持ちを言葉にできるんだろう。






コイツと一緒にいると時間があっという間に過ぎていて、普段なら歩かない距離の神社に到着する。


『なんか人いっぱいだねー、はぐれちゃうかもねー』

「こんなもんじゃない?わざわざ混んでない近場のとこにしたんだし」

『くぅ;;;だよねぇー』

「なんなの?」

『いや、なんとか飛鳥ちゃんと自然に手を繋ぎたくってさ』

「は?」

『初詣とかお祭りとかそういうイベントで人が多くて、はぐれないように手を繋ぐみたいな王道のやつあるじゃん』

『それで飛鳥ちゃんがキュンってするみたいな、そーいうのいいよなあーってずっと考えてて』

いや、それ私に言うか;;;自然ってなに;;;

『とにかく飛鳥ちゃんの小っちゃくて可愛いお手てをどうにかしてオレだけのものに』

「きも・・・」

『えぇぇー--』

結局いつもの感じだ。

それでもここで拳が出なかったのは私の成長だと思ってほしい。

そーいうのはもっと自然に上手くやってよ//////



そんな事を考えながらお参りの列に並んで、ジリジリと数歩ずつ進んでいく。



それにしても小さい頃からずっと一緒にいて、長い時間を過ごしたのに。

手を繋ぐっていう行為がこんなに難しいのか。

チラチラと視界に入る右手を意識しつつ、そんな事を思う。

子供の頃とは訳が違うし、今は理由がないと一緒に出かけたりもできない。

こういう現状に気づくと私達の関係は進展してるのか後退してるのかよく分からなくなる。

『飛鳥ちゃん』

「え、なに?」

『去年は飛鳥ちゃんのおかげで本当にいい年だったし、オレすっごい幸せだった』

『だからありがとう』

『今年もいっーぱいよろしくね』

私の心が曇り出すと、ビューッと北風みたいに曇りを吹き飛ばして、太陽みたいな笑顔で私の心を照らす。

なんでもお見通しか;;;





『次だね』

「あ、うん;;;」

気付いたら列がずいぶん進んでいた。

前に並んでいたカップルがさっきまで繋いでいた手を離して、せーのでタイミングを合わせてお参りを始める。

・・・・・・

・・・・・・

あ、何お願いしよう。

一緒に初詣に来れてる事にテンションを持っていかれて、ちゃんと決めてなかったけど。

今一番思ってる事ははっきりしている。

・・・・・・

・・・・・・

なんとなく二人でタイミングを合わせるのが恥ずかしくて、フライング気味にお賽銭を投げ入れて、手を合わせる。



来年も一緒に来れますように//////


今の私にはこれくらいがちょうどいい。

あんまり欲張らない方がいいよね。

コイツが隣にいたら、それだけで心がポカポカするし///////


清々しい気持ちでお参りを終えると、隣にいる幼なじみは熱心に手を合わせていた。





『帰りは飛鳥ちゃんと手を繋げますように』

は?

『今年中に飛鳥ちゃんの可愛くてちっちゃい身体をぎゅーって抱きしめて、ぷにぷにの唇にチューできますように』

なっ;;;

『それから今年はデートいっぱいできますように』

・・・・・・

『今年もいっぱい飛鳥ちゃんの笑顔が見れますように』

・・・・・・

『それで結婚してずっと幸せに暮らせますように』


何個お願いすんだよ;;;全部声に出してるし;;;

結婚とか今年のお願いじゃないし///

後ろの人に絶対聞こえてるじゃん//////

ってか全部私の事じゃん//////////////





『ねえ、飛鳥ちゃん。お願いがあるんだけど』

帰り際に急に真剣な表情で言われて、視線を拘束される。

「な、なに;;」

『来年の飛鳥ちゃんの元旦をオレにください』

「えっ////」

・・・・・・

くださいって;;;

さっきのお願い声に出してなかったよな;;;

やっぱサトリか?;;;

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

「・・・いいけど///////」


『やったぁぁ!!飛鳥ちゃんと2年連続初詣デートだぁー』

「なっ、初詣はデートじゃないだろ;;」

『飛鳥ちゃん、愛し合う2人が一緒に出掛けたらそれはもうどこで何をしようがデートなんだよ!!』

「誰と誰の話してんだよ////」

なんなんだコイツ;;;


『2年後もいい?』

「は?」

『3年後は?』

・・・・・・

『5年後も10年後もいいよね?』

「何個やんだよ;;;」

『一生分の飛鳥ちゃんの元旦をください』

;;;



「そ、それは・・・・・・来年の私に聞いてよ///////」

『うん、そうするね』

そんな嬉しそうに言わないでよ///////



あれ?でもコイツのおかげで早々に私の今年の目標は達成したってことか

・・・・・・

・・・・・・

欲張らないって決めたばっかりだけど・・・





「ねえ・・・」

『ん?』

「なんか・・・人増えてきたね」

『そう?』

・・・・・・

『変わんなくない?』

・・・・・・






もう・・・


「増えてきたのっ///////」

察しの悪い右手を雑に掴んでやると、驚いた表情でこちらを見る。



「も;;文句ある//////?」

・・・・・・

・・・・・・

『飛鳥ちゃんの手冷たい・・・』

「じゃああっためろ///////」

『喜んで。オレの手があったかいのは飛鳥ちゃんの為だからね』

「・・・ばーか///」









家に近づくにつれて人通りも少なくなってくる。

いつもなら家の近所でこんな風に一緒に歩いてるところ見られるのは恥ずかしいって思うんだろうけど。

今はようやく繋いだこの手を離したくなくて、コイツ以外は全て風景の一部みたいに思えた。

家についたら離さないといけないのか・・・

・・・・・・

やだな・・・

もっと遠くの大きな神社にすればもっと長く繋がっていられたのに・・・

数分後に、この手が離れてしまう事を考えるだけで胸がつぶれそうになる。



えっ;;;

突然手を引かれて左折させられる。

「ちょ;ちょっと;;;」

『もうちょっと手繋いでたいから寄り道しよ』

戸惑う私に優しく笑いかける。




コイツやっぱり・・・

私の考えてる事なんか全部駄々洩れなんだろう。


だったらもう・・・



「ねえ・・・」



「1個目のお願いは今してるけど・・・」



「2個目は?」



「今日しないの/////?」







・・・・・・

・・・・・・

周りの景色も音も何も無くなって

・・・・・・

・・・・・・

接地面が何十倍にも増えて、多幸感が何百倍にも膨れ上がる。

・・・・・・

・・・・・・

カサついた感触からたっぷり優しい想いが伝わってきて

・・・・・・

・・・・・・

グロスがうつった唇が離れた後に、ゆっくりと開いて私の名前を呼ぶ。




『飛鳥、好きだ』




私も・・・





頭の中の言葉は口から出てこない。

代わりに口をついて出たのはずいぶんと可愛げの無い台詞。





「責任とってよ////」





この期に及んで気持ちを伝える事ができないか。

そういう呪いにでもかかってるのかもしれない。

ほんとは素直に好きって言いたいのに・・・

そういう私の思考を見透かしたように笑う。





『もちろん、喜んで』





欲張りな私は神様に追加のお願いをする。





コイツの一生分の元旦が、




私のものになりますように




【終わり】


最後まで読んでいただいてありがとうございます。



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