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私のグレーな仕事

私の仕事は、週7日。
業務によって、早朝から働くこともあれば、寝ている最中に起こされることもある。
有給はない。
お盆休みも年末年始も、関係ない。
そして無給だ。
どんなに頑張っても、月給もボーナスも出ないし、昇進もない。
そして、退職制度もない。
延々と無期限に続く、恐ろしい仕事。
自分で書いていても、なんてブラックな職業なんだとあきれる。

そう。
私の仕事は、ザ・専業主婦である。


私も、最初から専業主婦だったわけではない。
結婚当初は、会社員として働いていた。
しかし、家事との両立は、自分で思っていたよりキツかった。
オットも手伝ってくれたが、それはあくまでも「お手伝い」の域。
家事の負担は、圧倒的に私の方にのしかかってくる。

同じように残業して帰ってくるのに、私はスーパーに寄り、献立を考え、休む暇なくご飯を作る。その横で、オットはのんびりゲームをして、ご飯ができるのを待っているのだ。 
なんかズルイ…。
たかだか数十分でも、自由な休憩時間があるとないとでは、毎日繰り返すうちに雲泥の差となる。

毎日疲れが溜まっていくので、料理も面倒になり出来合いの惣菜や弁当、外食も増える。
そして、余計な出費が増えていく。
働けば働くほど、無駄にお金がかかるという矛盾。
私、何のために働いているのだっけ?

週末も、溜まった家事と体力の回復ばかりに費やされ、だんだん気力も失われていく。
やっと休暇だと、ホッとしたとたんに疲れがどっと出て、体調を崩して台無しに…なんてこともあった。


あー、もう無理無理。
私には、外での仕事と家での仕事、両立するなんて無理じゃー!
嫌気の差した私は、ついに白旗を揚げることとなった。
お金よりも心と体の余裕を選んだ末の、専業主婦デビューだった。

しかし、今となっては貴重なダブルワーク体験だったと思う。
さらに育児までこなすワーキングママ達には、賞賛と尊敬の念しか浮かばない。


時には、会社で働く方が楽なのでは…と思うときもある。
なにしろ主婦業は、キリがない。
いくらやっても、果てがないのだ。
洗濯にしろ、掃除にしろ、どんなに頑張って終わらせたところで、次の日には元通り。
汚れたものが、再び出現しゼロに戻っている。

仕事の内容もあまりに多岐に渡るので、少しづつ順番にやっていくしかない。
しかしその途中で、ふと、最初に終わらせたはずの仕事が、再びやらねばならない仕事に変わっていることに気づく。
無限のループがそこにある。
ぐーるぐーるぐーる…



とかく主婦業というのは、低く見られがちだ。
やって当たり前。
できて当たり前。

中には、主婦業なんて仕事と言えない、会社でせっせと働いてる我々と一緒にするな、なんて考えの輩もいる。
きっと彼らの脳内には、専業主婦といったら、茶の間でのんびりオヤツを食べるサザエさんや、のび太のママのイメージがあるのだろう。

私も、そんな風に見られたことがあった。
その日は朝から雑用に追われて、忙しく家を出入りし、バタバタと動き回って、座ったのはご飯の時ぐらい。
午後になって、ようやく一段落し、あ~やっと座れる…とお茶とオヤツを手に休憩を始めたところにムスメが帰ってきた。
そして、くつろいでる私を見て一言。
「ママは、いいね〜。」

なんたること。
これまでのハードワークを全く目にしていないムスメの目には、のんびりオヤツを食べて、だらけている母の姿だけが写っている。
く…、悔しい。

サザエさんには、フネさんという良き母が同居していて、家事の負担は少ない。
のび太のママは、いつも家族に自分の仕事を押しつけて、楽をしている。
その点、私は朝からひとりで全てこなし、頑張っていたというのに…。

そうなのだ。
主婦が1番忙しく働いている時間、家族は学校だったり仕事場にいたりで、目にすることがない。
これが、専業主婦はお気楽と思われる元凶なのかもしれない。



家の中が滞りなく、スムーズに動いているのは、主婦が陰ながら采配を振るっているからなのだが、家族にとっては、あるべき姿がいつも通り維持され、そこに普通にあるので気がつかない。

生活に必要なものが家にあるのは、当たり前ではなく、主婦が常に注意を払っているから。
仕事や学業に専念できるのは、あらゆる雑用を主婦が一手に引き受けてるから。


いいじゃん、それくらい。
それくらい、やってくれても。
そんな、いわゆる「名も無い仕事」が、家の中にどれだけ大量にあることか。

例えば、トイレに入ってペーパーがなくなる。
必要に迫られ、新しいペーパーを補充する。
しかし、使い終わったペーパーの芯は、トイレの角に放置されたまま。
私が回収して捨てるまで、芯が1つ、2つ…と増え続けていく。

一度、どこまで溜め込んだら、自分で捨てようという気になるんだろう…と思い、わざと放置してみた。
3つ、4つ…と増えていく。 
さすがに、5つ目を置くのは気が引けたらしく、誰かが捨ててくれた。
ちょっと満足する私。

でも、その後も芯は置かれるばかり。
結局、誰かが捨てる前に自分が先に気になって、我慢できずに捨てている。
やれやれ。


その他にも、蛇口回りがビショビショのままだとか。
洗濯物をカゴに入れてはくれるが、袖は腕まくりしたまま、靴下は丸めたままだとか。
どんなにゴミ箱がいっぱいでも、誰もまとめようとせず、ギュウギュウ無理に入れ続けるとか。

ひとつひとつは、ほんとに些細なこと。
ちょっとだけ面倒くさいこと。
でも、数えだしたらキリがなく、「名も無い仕事」たちが集まると、膨大な憂鬱になる。
それを日々やっつけ、蹴っ飛ばし、悪態をつきながらも、ルーティンワークと共に収束させるのが、主婦の仕事なのだ。



しかし、悪いことばかりではない。
専業主婦の利点は、ボスが自分だということ。
全てのさじ加減は、自分次第。
だから、1日中没頭して働き続けることもできるし、適当にサボって遊んで過ごすこともできる。
家事は、溜め込めば溜め込むほど面倒になり、手がつけられなくなるので、その調節具合が難しいのだが。

時には、ふらりと映画館に行ってみたり。
お気に入りのカフェで、ランチしてみたり。
ぶらぶらお店を見て回ったり。
平日の昼間に遊んでいるという、この背徳感ゆえの満足感(笑)
そういう姿を見せるから、専業主婦は楽でいいな…と思われるのだろうけど。

しかし、思い出してほしい。 
専業主婦は無休なのだ。
自分で「今日は休み!」「この時間はオフ!」と決めて行動しないと、永遠に休みはやって来てくれない。

それに会社員なら、1歩会社の外に出れば仕事から離れられるが、主婦の仕事場は家の中。
24時間、365日、仕事場で生活し続けているようなものだ。
だから、時には家の外に出て息抜きが必要だし、誰かが作ってくれたご飯が食べたくなる。
給料が出ない代わりに、自分で自分にご褒美をあげているのだ。
それがなかったら、専業主婦などやってられるかー。(本音出た…笑)


専業主婦でよかった、と思うのは、悪天候の時だ。
しんしんと雪の降る極寒の日、はたまた土砂降りの中、家を出なければいけない家族を見送った後、平和なリビングに戻り、ほくそ笑む私。
これは学校を休んだ日に、ぞろぞろと通学する生徒たちを尻目に、自分だけ家で過ごせる優越感に浸るのと似たものがある。
オットがリモートワークになってからは、その優越感が半減してしまい残念だ。(悪いツマ(笑)


ひとりになってから、ゆっくり朝食を食べられる時間も好きだ。
会社員だった頃は、味わう余裕もなく、時間ばかり気にして慌てて家を飛び出していた。

子供の成長を逃すことなく、じっくり見てこられたのも、ワンコやらインコやら、動物たちに囲まれた生活ができているのも、今こうしてnoteを書き綴る余裕があるのも、専業主婦を選んだおかげだ。


こうしてみると、専業主婦も案外捨てたもんじゃない。
冒頭、ブラックな職業などと書いたが、グレーに格上げしようではないか。
それが、濁った黒に近いグレーになるか、爽やかな白に近いグレーになるかは、自分次第だ。


以前、英会話のクラスで職業を聞かれた時。
「housewife(主婦)」
と答えたら、古臭いイメージがあるので今はあまり使う人はおらず、「homemaker」と言う方が自然なのだと教わった。
「homemaker(家庭を作る人)」
その響きがいいなと思った。

「housewife」や「主婦」は、なんだか家に囚われているような、従属しているようなイメージがあるけれど、「homemaker」には自分の意志があり、仕事へのプライドを感じる。


そうだ。
私は家庭を作っているのだ。
居心地のよい、帰ってきたくなる家。
旅行から戻って来た時、やっぱり家はいいなぁ…と思える場所。

専業主婦は、立派な仕事。
今なら、胸を張って答えられる。








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