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「ピエタ」@本多劇場

劇場の観客には女性が多い。皆さんは誰を見るために来ているのかな、と化粧室の列に並びながら周りを眺める。私はもちろん実物の小泉今日子を見るためだ。

前情報を全く入れずに来たので、何かを象徴しているらしいオープニングシーンの意味が分からない。うっかりオペラグラスも忘れたので、キョンキョンがどこにいるのかもわからない。始まって5分ですでに退屈し始めた。左隣の女性もそうなのだろうか、転寝している。酷暑の観劇は、心地よい空間に入った瞬間、どっと疲れがでるからなぁ。
質素だが清潔感のある風体の女性エミーリアがキョンキョンらしいと、やっとわかった。隣の人を起こして教えてあげようか。
キョンキョンと話している貴族役の女優は誰だろう。甲高い声でわざとらしいセリフ回しで耳障りだ。聞いたことのある声だが、いけ好かない役に非常にあっている。いや、この話し方だから私が嫌悪感を持つだけで、主要人物ではあるらしい。
その女性、ヴェロニカが探しているある楽譜の謎を追うようにストーリーが転がりだしていく。登場人物は女性のみ7人で全員が白いドレス。それぞれの身分やパーソナリティを表すようにデザインが違っている。
峯村リエさん(クラウディア)は胸元の開いたドレスで、高級娼婦らしい知性と色気を感じさせる。座頭の風格だ。

たぶんクラウディアの登場がこの芝居の見せ場だと思うのだが、隣の女性はまだお休みになっている。寄りかかってくれれば、肩をついて起こしてあげられるのだが、とてもお行儀がよい。まっすぐに座ったまま眠っているのでむやみに体に触れられない。私と同年代かもう少し下だろう。たぶん、この方もキョンキョンを見に来たんじゃないのか。主役だから最後まで出ずっぱりとは思うけれど、もう起きた方がいいように思う。休憩になっても寝ている彼女を残して化粧室に急ぐ。あまり刺さらない舞台だが、途中で帰るほどではない。最後まで見よう。しばらくすると、隣の女性もお手洗いにやってきて、少しホッとする。

後半も意外なことは起こらない。また少し退屈して、舞台のしつらえに注目してみた。舞台上には低い段差で左右に行き来できるような通路がいくつもできている。登場人物がベネチアの街を行き来するようにそこを通ると、場面が変わり時間が経過する。舞台奥には五線譜を表すような柵があることにかなり最後の方で気づいた。オシャレな舞台装置だが、素敵すぎて気づかないということもあるものだ。

大きな波のない舞台ではあったが、最後に登場人物全員が唱和する
「よりよく生きよ、娘たち。よりよく生きよ」
で簡単に涙。我ながら、感動が安い。
小泉今日子が伝えたかったことがここにあるのかな。ぼたぼた落ちる涙をあわてて押さえたが、隣の女性はそう感動した風でもなかった。
帰りにもらったチラシを見ると、件の貴族の女性役は石田ひかりだった。当たり役だ。


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