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ネイチャーポジティブ実現に向け、市民への啓発図る

外来生物を‶感じる・知る・考える〟施設「外来生物展示センター」


「脱炭素分野」では‶カーボンニュートラル〟、「資源循環分野」では‶サーキュラーエコノミー〟がキーワードとなっていますが、環境分野におけるもう1つの重要テーマである「生物多様性分野」では、‶ネイチャーポジティブ〟が新たなキーワードとなっているのをご存じでしょうか。


2022年12月に開催されたCOP15で、新たな国際目標が設定され、「2030生物多様性枠組実現日本会議」(J-GBF)として達成すべきゴールが定まりました。

新たな国際目標では、「2030年までに生物多様性の損失を食い止め、反転させ、回復軌道に乗せる」、いわゆる「ネイチャーポジティブ(自然再興)」の方向性が明確に示されています。

ネイチャーポジティブ実現には社会経済全体の変革を目指していく必要があるため、2023年2月28日の第1回J-GBF総会で、J-GBFのコミットメントとして「J-GBFネイチャーポジティブ宣言」が発表されました。

カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーと同様、ネイチャーポジティブも官民が一体となって、国を挙げて取り組むべき重要な課題となっています。

神戸市がごみ処理施設内に設置

そんな生物多様性の問題の中でも、特に外来生物にスポットを当てて啓発に取り組むための施設を開設しているのが神戸市です。

同市は、市内で確認された生態系に影響を与える外来生物について学んでもらうことを目的に、長田区の廃棄物処理施設「苅藻島クリーンセンター」内に「外来生物展示センター」を2022年8月に設置しました。

当初は「生物飼育棟」のみでしたが、今年3月には「展示ホール」をオープンし、飼育棟のリニューアルも実施して内容を充実させています。

この外来生物展示センターに、全国産業資源循環連合会女性部協議会世話人で、シューファルシ代表取締役の武本佳弥さんに紹介いただき、一緒に訪問してきました。

外来種対策の3原則「入れない」「捨てない」「拡げない」

生きものはお互い違うものを食べたり違う場所に住むことなどで絶妙のバランスでつながり、いろいろな場所で独自の生態系をつくりあげてきました。しかし、もともと住んでいなかった場所に人が持ち込んだ「外来生物」が侵入し、その生態系のみならず人の健康被害や農作物の被害など広範にわたって悪影響を及ぼすことが問題となっています。

外来種問題を普及啓発する自治体初の施設

同市では、市民に神戸の豊かな生物多様性の保全のために、いかに外来生物が脅威となっているか、「感じる・知る・考える」きっかけを提供することを目的に、外来種問題を普及啓発する自治体初の施設として同センターを開設しました。

実際に外来生物を見る機会やその問題について知ることが少ない中、同センターは専門家による解説のもと、生きた個体やはく製を見て、体験型学習ができる施設となっています。

「つりわけがわ」で分類ゲームにチャレンジする武本佳弥さん

解決が難しい問題だからこそ市民の理解が必要


同市環境局の磯部敦彦副局長は、「神戸は港湾都市で比較的外来生物が入ってきやすい状況にあり、看過できないということでこの問題には力を入れてきました。しかし、ペットとして飼っていた外来種を野に放してしまったり、知らず知らずに持ち込んだりとなかなか解決が難しい問題でもあるのも事実です。そこで、まずは市民の皆様によく理解してもらう必要があると考え、同センターの設置を決めました」と話します。

生物多様性への取り組みは、自然や生物の造詣が深い久元喜造市長肝いりの事業でもあります。

ゴミ処理施設の利活用施設


同センターは、生きた個体を主に飼育している「生物飼育棟」と、外来生物問題を深く学ぶことができる「展示ホール」で構成されています。
なお、同センターが設置されている苅藻島クリーンセンターは、1990年にごみ焼却施設として竣工しましたが、2017年4月からは焼却を休止し、可燃ごみ中継施設となっています。

こうしたごみ処理施設の有効活用の好事例とも言えるでしょう。

展示ホールは外来種・在来種のはく製や模型などが展示されていて、目で見て学ぶことができます。
他にも、外来生物の生態から被害に関する「クイズ外来種」や、釣り遊びを通じて外来・在来生物の分類やごみの分別を学ぶことができる「つりわけがわ」など、多くの参加・体験型展示により、楽しみながら外来生物問題を感じ、知り、学ぶことができるよう工夫されています。

展示ホールでははく製や模型を展示している

生物飼育棟はブラックバスなどの外来生物や、すみかを追われたメダカなどの生きた個体を展示し、アメリカザリガニなどに触れることができ間近に外来生物を感じることができます。


生物飼育棟ではアメリカザリガニなど生きた個体を見ることができる

特定非営利活動法人「生物多様性を守る会」理事長 大鹿達弥さん、谷口真理さんにインタビュー

今回の訪問は市の委託を受けて同センターの運営管理を手掛ける特定非営利活動法人「生物多様性を守る会」の谷口真理研究員(自然回復代表取締役)と武本さんが親交のあったことから実現しました。

谷口さんは、「外来生物の問題は、ローカルな視点では外来生物が入ってきて、生命力の強い外来生物に日本の生物が取って代わられ、日本人としての自然観が倒壊されることにとても危機感を抱いています。また、地球規模の視点で言うと、薬に使われる植物がなくなってしまったり、農作物に影響が出たり、自然災害が起こりやすくなるなどの危険性があります」と問題の重要性を指摘します。

同法人理事長の大鹿達弥さんは、今後の同センターの展望について、「現在当センターを訪れるのは大半が外来生物についての意識の高い人なので、もう少し利用しやすい施設にして裾野を広げて行きたいと思っています。子供たちとフィールドに出て生物を捕獲したり、外来生物を調理して皆で食べるなど、楽しみながら学べるイベントを増やしていきたいです。すでに外来種を食べるイベントなどは何度か行っていますが、やはり食やレジャーを絡めたイベントは反応も良いです」と話します。

NPO「生物多様性を守る会」の大鹿達弥さんと谷口真理さん

事前申し込みで見学可能


同センターは現在、土日に見学を受け付けていて、事前に申し込みをすれば誰でも見学可能です。

申し込みは、同センターHPから


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