中村ましゅう

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書評 溝口彰子著『BL研究者によるジェンダー批評』 その1

この本で、私が一番好きなのは「はじめに」の部分だ。 この部分を読むだけでも、この本を買う意味があると思う。 「批評とは何か」がこれほどわかりやすく書いてある本はなかなかないと思う。 そして、それが「楽しいこと」であり、「世の中をよりよくすること」にもつながる可能性がある、ということばもとてもいい。(「つながる」と言い切らずに、「つながる可能性がある』というところにも、溝口さんのまじめさを感じる。) 大学生になって初めての授業がこんなふうに始まったら、それからの大学生活

    • 溝口彰子×やまじえびね「エンタメ作品のマイノリティ表象を考える」@本屋B&B

      BL研究家、溝口彰子さんと、やまじえびねさんのトーク、「エンタメ作品のマイノリティ表象を考える」に行ってきた。 会場は下北沢の本屋B&B。下北の駅周辺の変貌ぶりにびっくり!今風な感じと昔なからの下北感が合わさって、どこにもない雰囲気が醸し出している。新しくて、今風におしゃれなんだけど、どこか下北っぽい。会場の本屋B&Bもサブカルぽいお店なのかなーと思ったが、サブカルというよりおしゃれで「意識(かなり)高い系」だった。(揶揄的に聞こえるかもしれないけど、褒めてます。本の品揃え

      • 「汚れる代わりの人を作るのが少女漫画」やまだないと氏の分析に感銘・・・よしながふみ対談集 『あのひととここだけのおしゃべり』

        私がある種のBL(レイプとかオメガバースとか)に対して感じていた違和感を、鮮やかに言語してくれたのは、やまだないと氏である。 よしながふみ対談集『あのひととここだけのおしゃべり』の中で、やまだないと氏は、以下のように語っている。 また、『風と木の詩』のジルベールについては、このように話している。 これを読んだ時、まさに目から鱗が落ちた気がした。 そして、「汚れる代わりの人を作る」ということをBLマンガについてだけの話として語ることもできるのに、少女マンガ一般、そして、

        • 『風と木の詩』はゲイの中学生だった私には辛かった。(「やおいに対してゲイから抗議が起こらなかったのは、彼らが男性特権を持っていたからなのか」補稿)

          これは以前書いた、「やおい」に対して、ゲイ当事者から抗議が起こらなかったのは、「彼らが男性特権を持っていたから」なのか・・・『BL進化論 対話篇』 作家 C・Sパキャット氏との対話、の補稿です。 90年代にあった「やおい論争」について、溝口さんは以下のように書いている。 この発言について、もう一つ私が言いたいのは、やおいが、多くの未成年のゲイ男性にも読まれていたことだ。溝口さんは「たまたま目にして不愉快になったとしても」とゲイ当事者がやおいを目にするのはあくまで偶然である

        書評 溝口彰子著『BL研究者によるジェンダー批評』 その1

        • 溝口彰子×やまじえびね「エンタメ作品のマイノリティ表象を考える」@本屋B&B

        • 「汚れる代わりの人を作るのが少女漫画」やまだないと氏の分析に感銘・・・よしながふみ対談集 『あのひととここだけのおしゃべり』

        • 『風と木の詩』はゲイの中学生だった私には辛かった。(「やおいに対してゲイから抗議が起こらなかったのは、彼らが男性特権を持っていたからなのか」補稿)

          「やおい」に対して、ゲイ当事者から抗議が起こらなかったのは、「彼らが男性特権を持っていたから」なのか・・・『BL進化論 対話篇』 作家 C・Sパキャット氏との対話

          溝口彰子さんの『BL進化論 対話篇』の、オーストリアの「M/M」(メール・メール・ロマンス、男性同士の恋愛を中心に描く小説)作家、C・Sパキャット氏との対話の中で、同氏は以下のように述べている。 これに応じて、溝口さんは、1990年代初頭の日本でのいわゆる「やおい論争」について、以下のように説明している。 当時(90年代初頭)に、ゲイの側から、「やおい」に対する目立った抗議がなかったのは事実である。いわゆる「やおい論争」が、ミニコミという、限られた場で行われたのも事実だ。

          「やおい」に対して、ゲイ当事者から抗議が起こらなかったのは、「彼らが男性特権を持っていたから」なのか・・・『BL進化論 対話篇』 作家 C・Sパキャット氏との対話

          「夢巻」だった!・・・ミナモトカズキ『壁サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている』の第7巻が発売になりました。

          以前紹介したミナモトカズキさんの『壁サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている』の第7巻が発売になりました。 ネタバレはできるだけしないで書こうと思いますけど、読む前に1ミリも知りたくない人という人は、漫画を読んでからこちらのnot+をお読みください。 一言でいうと、今回は、「ゲイの夢が叶った!」という感じの展開です。これまで、BLを読んでそう思ったことって思い出せないんだけど、今回はすごくそう思った。 「ゲイの夢が叶った!」というのは、どういうことかというと、

          「夢巻」だった!・・・ミナモトカズキ『壁サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている』の第7巻が発売になりました。

          ゲイの私が推すBLその4・・・二人にとって一番大切なことは? 野田彩子『ダブル』

          以前紹介した『ふしぎなともだち』の作者、新井煮干し子さんが、別名(野田彩子)で発表している作品とのことで読んでみました。 ストーリーは・・・ この漫画、ずっとBLとは思わないで読んでました。多家良は映画で共演した女性アイドルと付き合ったりしてたし。 ところが4巻で、多家良は舞台の役作り(つかこうへいの『初級革命講座 飛龍伝』の山崎!)に行き詰まり、以前出演した映画の監督、黒津(最初怖かったけど実はすごい人格者)に相談し、「秘密を持て」とアドバイスされる。多家良は「秘密な

          ゲイの私が推すBLその4・・・二人にとって一番大切なことは? 野田彩子『ダブル』

          ゲイの私が推すBL その2・・・ゲイ漫画とBL漫画を両立! ミナモトカズキ『壁サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている』

          今回紹介するのは、『壁サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている』(略して『壁こじ』。 ストーリーは・・・ 作者のミナモトカズキさんは、もともとゲイ雑誌でゲイ漫画を描いていた方。その後、女性向けの漫画を描くようになり、最近はBLも描いています。また、ゲイとしての自分の体験も漫画にしています。 こうなってくると、BL漫画とゲイ漫画の区別も難しい・・・というか区別に意味あるの?という気がします。 実は、何冊ものBL雑誌が発売されている一方、今、ゲイ雑誌は一冊も刊行

          ゲイの私が推すBL その2・・・ゲイ漫画とBL漫画を両立! ミナモトカズキ『壁サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている』

          ゲイの私が推すBL その3・・・尚月地『巨乳好きだけどBL界に転生しました』

          これは本当に面白かった! BL漫画と巨乳漫画のハイブリッドです。 ストーリーは、 この作品のBL界は、オタク、陽キャ、腐女子、巨乳好き、ヤンキーが共存するインクルーシブな世界でもあります。そう言う意味で、優れた学園ものともいえます。 ある特定のグループだけを笑い物にするんじゃなくて、巨乳好きについても腐女子についても、それぞれのファンタジーを愛をもって笑う、という感じ。(巨乳好きと腐女子はかなり「相似形」として描かれています。) 過激な笑いなんですけど、作者は、みんなが共

          ゲイの私が推すBL その3・・・尚月地『巨乳好きだけどBL界に転生しました』

          ゲイの私が推すBL・・・新井煮干し子『ふしぎなともだち』

          BL・・・ときどき「もしかして面白いのかしら」と思って読んでみるけど、心の底から面白かったと思える作品はなかなかない。というか、頭が真っ白になることもある。特に男性同士のセックスをやったことも見たこともない作者が描く性描写を何ページも読むのってかなり大変。 そんな中で、新井煮干し子さんの『ふしぎなともだち』は、かなり好きな作品です。 ものすごくまとめていうと、オタク大学生(由岐)と、コミュ力があり、割とバランスがとれた非オタク大学生(和、とかいてなごむと読む)の間に、アニ

          ゲイの私が推すBL・・・新井煮干し子『ふしぎなともだち』

          映画『最終目的地』のアンソニー・ホプキンスと真田広之のカップルが「ゲイのお手本」?・・・溝口彰子著『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』

          溝口彰子さんの著書『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』で、映画『最終目的地』(監督: ジェームズ・アイボリー、2009年)が取り上げられていた。 この作品では、アンソニー・ホプキンスと真田広之が、ウルグアイの邸宅に住むゲイカップル、アダムとピートを演じている。 『BL進化論』の記載は、以下のとおり。 まず、第一に、裕福な白人男性が14歳の日本の少年を恋人としてイギリスに連れて行く、というところからはじまる話は、いくらその後「25年の期間を経て大人の関係性へ熟成した

          映画『最終目的地』のアンソニー・ホプキンスと真田広之のカップルが「ゲイのお手本」?・・・溝口彰子著『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』

          村井國夫さん、素晴らしかった!・・・「老ナルキソス」評、その2

          『老ナルキスソス』、色々びっくりな展開なんだけど(ここで終わりかな?と思うと続きがある、みたいな)、一貫して爽やか!それは人間への信頼とか共感があるからだと私は思う。 主人公である高齢の絵本作家、山崎(田村泰二郎)と、山崎がスパンキングさせるために雇ったウリセンの青年、レオ(水石亜飛夢)の出会いを中心にしたストーリーなのだが、ゲイであることも、SMも、老いも、「自分には関係がないこと」ではなく、自分たち(映画を作っている側・映画を見ている側)と同じ人間の生活の一部として描か

          村井國夫さん、素晴らしかった!・・・「老ナルキソス」評、その2

          観るのが辛くない・・・映画「老ナルキソス」評、その1

          私にとって、この映画の一番良いところは、安心して観れたということ。言い換えると「ゲイということがおもちゃにされていない」という感覚。 この映画には「ゲイという自分と違う他者を揶揄しよう」とか、あるいは「過剰にドラマティックな存在にしよう」という意図がない。 そしてこの映画を見た後、今まで映画やドラマの中で、同性愛者がどれだけそのような視線に向けられていたかと言うことを改めて実感した。 私には、ゲイの登場する映画やドラマ・・・最近だと「きのう何食べた」や「おっさんずラブ」

          観るのが辛くない・・・映画「老ナルキソス」評、その1

          映画「エゴイスト」と原作小説との違い・・・削られた生活保護の話と、足された高級マンションと現代アートとセックスシーンと「夜へ急ぐ人」。

          マイノリティを取り上げるとき、当事者の話を聞く・・・本来は当たり前のことだと思うけれど、今までなされていないことが多かった。 だから映画「エゴイスト」の松永監督や鈴木亮平さんのゲイに対する真摯な言葉が、情けないほど心に響いたんだと思う。 https://editor.note.com/notes/n5fb58e5d2a55/edit/ そして、実際に「エゴイスト」を観た。 映画は、何というか、のめり込める感じではなく、「でも、立派な人たちが作った映画だから評価しなくちゃ・

          映画「エゴイスト」と原作小説との違い・・・削られた生活保護の話と、足された高級マンションと現代アートとセックスシーンと「夜へ急ぐ人」。

          ドラマ「きのう何食べた?」が私にとって気持ち悪かった理由、そして映画「エゴイスト」について・・・その2

          ゲイカップルを描くのに、制作現場では男役、女役という演技プラン?を採用していたらしい、「きのう何食べた?」の出演者やプロデューサーのインタビューを読んでうんざりしているところ、映画「エゴイスト」の鈴木亮平さんのインタビューを読んで感動! 【鈴木亮平】映画『エゴイスト』「演じる相手の色々な面を知って愛していけるタイプ」 | with digital(講談社) >僕が演じる浩輔のゲイという属性に関して、どれくらいカミングアウトしにくいものなのか、いまの社会的状況などを含め、L

          ドラマ「きのう何食べた?」が私にとって気持ち悪かった理由、そして映画「エゴイスト」について・・・その2

          ドラマ「きのう何食べた?」が私にとって気持ち悪かった理由、そして映画「エゴイスト」について・・・その1

          「きのう何食べた?」、ネトフリで観ようしたのですが、私は気持ちが悪くて見続けることができませんでした。ゲイでもこのドラマのファンはいるのですが。 なので、あまりそのことは言わないようにしてたのですが、その後、このドラマの出演者やプロデューサーのインタビューを読んで、私がそう思ったのも無理はないな、と思いました。 私が気持ち悪かったのは、まず、ドラマに流れる、ゲイ・・・というか男同士のカップルということが「面白い」という感覚です。「ゲイ=笑い」なんですね。なんというか、ゲイ

          ドラマ「きのう何食べた?」が私にとって気持ち悪かった理由、そして映画「エゴイスト」について・・・その1