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不適切な取材【ショートショート】
清美の元に一件のタレコミが入った。
『人気俳優Kの不倫疑惑』
久しぶりの大ネタである。
Kは今や押しも押されもしない国民的な人気を誇っている俳優だ。
戦隊ヒーローの主役でデビューしてから、爽やかなルックスに持ち前の明るい性格、さらには気さくな雰囲気も相まってまたたく間に人気を集め、その名を世間に知らしめた。恋愛ドラマには欠かせない存在であり、ドラマや映画だけでなくバラエティ番組にも積極的に
まごころAI【ショートショート】
この作品は大震災に関する描写が含まれています。気分を害される可能性がありますので、ご注意ください。
エレベーターの扉が開くと、中にいた大勢の人々が吐き出された。「ご利用、誠にありがとうございます。またのお越しをおまちしております」と、淑やかで麗かな女性の声がエレベーターのどこかから発せられている。降りる客ひとりひとりに謝意を表すように、くり返し「ありがとうございます」と述べ、中年の紳士が「あり
「あとがき」のようなもの
読者のみなさま、日ごろ読んでいただきましてありがとうございます。多くの方から「スキ」をしていただき、ご丁寧にコメントまで残していただけることは、作者にとってこの上ない喜びであります。まずは御礼申し上げます。
さて、無名の作家が書くものですので、当然みなさまにはお気付きにならないと思うのですが、人知れず自主企画を進めておりました。
予てより短編連作を執筆したいと思っておりまして、この度は短編
フォトグラファー ~月の段~【ショートショート】
防風林を抜け砂浜に足を踏み入れると、冷たい北風が顔をなでた。穏やかなさざ波がほぼ一定の調子で音を奏でている。ダウンジャケットを着こんだ吹越颯真は、浜辺の真ん中あたりに「よっこらせ」と言いながら腰を下ろし、仰向けになって煌々と照らす満月を見上げた。空は雲一つない。燦然と輝く星を従えるように月は空の中心に立ち、海に優しく光を落としている。
「今日は、きれいだ」
しわがれた声で、感じ入るようにゆ
風人(かざびと) ~風の段~【ショートショート】
大きくうねる波が次々と押し寄せる渚に、ボードとセイルを両手に抱えたウィンドサーファーたちがぞくぞくと入っていった。ボードの上に立ち上がると同時にセイルを立て、吹きすぎる冷涼な秋風を目一杯に受けながら、迫る波を乗り越えて沖へと向かっていく。やがてひとりが海岸と平行するように波に乗り始めると、他の選手たちもそれに追随を始めた。
江籠翔は海岸沿いの歩道からカメラを構え、長く伸びる望遠レンズを海へと
鵜匠 ~鳥の段~【ショートショート】
じっとりとむせ返るような暑さも、陽が沈んだ川の上では幾分やわらいだようである。夜空に打ち上げられた花火を合図に、一隻の鵜舟が川下りを始めた。篝火に浮かび上がる舟が近づき、観覧船がゆったりと並走を始めると、金咲紫織は祈るような気持ちで胸の前に両手を組んだ。
黒い漁服に腰蓑をまとい、烏帽子を冠った鵜匠と呼ばれる鵜の遣い手が、「ほう、ほーう」というかけ声と共に、十羽もの鵜に繋がれた手綱をしきりにさ
藤色想い ~花の段~【ショートショート】
池に浮かぶような朱の映える鳳凰堂を背景に、藤棚からしだれ落ちる満開の紫にピントを絞ってシャッターを切った。構図をいくつか変えてシャッターを切り続けながら、星野明はかつて大学時代の女友達と訪れたときのことを思い出していた。穏やかな陽が降りそそぎ、朱と紫が青天に映え、ほのかに甘く香る空気が、遠い昔の記憶を呼び起こしてしまった。
金咲紫織に誘われて京都へ女子二人旅をしたのは大学生のとき、もう二十年