柴野弘志

1981年生れ。神奈川県横浜市出身。劇団を旗揚げし役者として活動、脚本を執筆。解散後小…

柴野弘志

1981年生れ。神奈川県横浜市出身。劇団を旗揚げし役者として活動、脚本を執筆。解散後小説に着手し、noteでは主にショートショートを投稿予定。 浅田次郎、立川志の輔、古今亭志ん朝、東京03、Mr.Childrenのファン。 趣味はサッカー。特技は日本舞踊(宗家藤間流)。

マガジン

  • マドンナ

    創作大賞2024 恋愛小説部門 参加作品

  • 花鳥風月

    「花」「鳥」「風」「月」をキャラクターのモチーフとして、美しく人情味たっぷりと描いた掌編連作。

記事一覧

当り前だと思うなよ【ショートショート】

 青果物の入ったコンテナかごが所狭しと敷きつめられたマンションの一室で、三人の女性従業員が仕分け作業をしていると、中年の社長が現れた。「おはようございます」  …

柴野弘志
2日前
116

マドンナ 第二話《恋愛遍歴》【短編小説】

 ここまで語られた告白のポイントだけではどうも物足りないと、ユースケは感じていた。  そんなことではなく、もっと確実に成功させるための裏テクニックを知りたい。こ…

柴野弘志
5日前
95

マドンナ 第一話《恋愛講座》【短編小説】

『LINEとか電話で告白したほうが緊張しないし、もしフラれた時に気まずくないからいいな、なんて思ってませんか? いえいえ告白するときは直接会って告白しましょう』…

柴野弘志
12日前
191

平行線《後編》【短編小説】

 夕食の終わったダイニングテーブルで、カズオは缶ビールを片手にテレビを眺めていた。目に映るテレビの内容などもはや頭に入ってはいない。  カズオはやや緊張していた…

柴野弘志
2週間前
133

平行線《前編》【短編小説】

「メガジョッキハイボールお二つでェす! お待たせしましたァ!」  頭にタオルを巻き、顎に無精ひげを生やした店員が野太い声でジョッキを運んできた。  カズオは手元の…

柴野弘志
3週間前
180

不適切な取材【ショートショート】

 清美の元に一件のタレコミが入った。 『人気俳優Kの不倫疑惑』  久しぶりの大ネタである。  Kは今や押しも押されもしない国民的な人気を誇っている俳優だ。  戦隊ヒ…

柴野弘志
1か月前
330

ティータイム【ショートショート】

 仕事に出る前の朝のティータイムを、夫は大事にしている。  毎朝仕事に出かける二時間前に起き出して、しっかりと朝食を摂ったあと、いつでも出られるように着替えをし…

柴野弘志
1か月前
626

まごころAI【ショートショート】

 この作品は大震災に関する描写が含まれています。気分を害される可能性がありますので、ご注意ください。 エレベーターの扉が開くと、中にいた大勢の人々が吐き出された…

柴野弘志
2か月前
307

リスペクタール【ショートショート】#シロクマ文芸部

「閏年となる今年も、またあの商品が帰ってくるようです。販売日を一週間後に控えた本日二月二十二日十時から、予約の受付が始まる模様です。こちらには三人の方にお越しい…

柴野弘志
2か月前
399

「あとがき」のようなもの

 読者のみなさま、日ごろ読んでいただきましてありがとうございます。多くの方から「スキ」をしていただき、ご丁寧にコメントまで残していただけることは、作者にとってこ…

柴野弘志
2か月前
301

フォトグラファー ~月の段~【ショートショート】

 防風林を抜け砂浜に足を踏み入れると、冷たい北風が顔をなでた。穏やかなさざ波がほぼ一定の調子で音を奏でている。ダウンジャケットを着こんだ吹越颯真は、浜辺の真ん中…

柴野弘志
2か月前
220

風人(かざびと) ~風の段~【ショートショート】

 大きくうねる波が次々と押し寄せる渚に、ボードとセイルを両手に抱えたウィンドサーファーたちがぞくぞくと入っていった。ボードの上に立ち上がると同時にセイルを立て、…

柴野弘志
3か月前
237

鵜匠 ~鳥の段~【ショートショート】

 じっとりとむせ返るような暑さも、陽が沈んだ川の上では幾分やわらいだようである。夜空に打ち上げられた花火を合図に、一隻の鵜舟が川下りを始めた。篝火に浮かび上がる…

柴野弘志
3か月前
269

藤色想い ~花の段~【ショートショート】

 池に浮かぶような朱の映える鳳凰堂を背景に、藤棚からしだれ落ちる満開の紫にピントを絞ってシャッターを切った。構図をいくつか変えてシャッターを切り続けながら、星野…

柴野弘志
3か月前
308

雪化粧かぼちゃ【ショートショート】#シロクマ文芸部

 雪化粧かぼちゃを目一杯つめこんだダンボール箱を抱えて、芳井さんは玄関口で大きな声を張り上げた。 「タキさん。今年もコレ、初物だ」  芳井さんは重そうに、玄関の…

柴野弘志
3か月前
322

至高の酒【ショートショート】

 若い男が、グラスに注がれた眩いばかりに輝く琥珀色のウィスキーを口に含むと、満足げに唸った。 「素晴らしい! 実に深みのある味わいですよ。爽やかでありながら、な…

柴野弘志
4か月前
370
当り前だと思うなよ【ショートショート】

当り前だと思うなよ【ショートショート】

 青果物の入ったコンテナかごが所狭しと敷きつめられたマンションの一室で、三人の女性従業員が仕分け作業をしていると、中年の社長が現れた。「おはようございます」
 三人は口々に挨拶をするも、社長は返事もせず静かな声音で言った。
「ちょっと、作業やめてみんな一回すわって」
 冷徹な感じの一言に女性たちはすぐに思い当たった。
 前日に従業員のミスが発覚し、各人にその旨の連絡があったのだ。三人は仕分け作業中

もっとみる
マドンナ 第二話《恋愛遍歴》【短編小説】

マドンナ 第二話《恋愛遍歴》【短編小説】

 ここまで語られた告白のポイントだけではどうも物足りないと、ユースケは感じていた。
 そんなことではなく、もっと確実に成功させるための裏テクニックを知りたい。これをやったら付き合いたくなるという極意を教えてくれないと意味がない。
『告白をするときは、相手の左側から告白しましょう。ある研究結果によると、右耳から話しかけられた時と左耳から話しかけられたときでは、左耳の方が感情的に聞こえて内容も記憶に残

もっとみる
マドンナ 第一話《恋愛講座》【短編小説】

マドンナ 第一話《恋愛講座》【短編小説】

『LINEとか電話で告白したほうが緊張しないし、もしフラれた時に気まずくないからいいな、なんて思ってませんか? いえいえ告白するときは直接会って告白しましょう』
 ――何を今さら。
 ユースケは当然とばかりにニヤリと笑みを浮かべた。
 カタツムリのようにこたつに入って、スマホに映る美人ユーチューバーを食い入るように見ている。
 こたつの上には、スープの残ったカップラーメンが数時間前から置いてあり、

もっとみる
平行線《後編》【短編小説】

平行線《後編》【短編小説】

 夕食の終わったダイニングテーブルで、カズオは缶ビールを片手にテレビを眺めていた。目に映るテレビの内容などもはや頭に入ってはいない。
 カズオはやや緊張していた。
 気分を紛らわすのに手に収まっている缶ビールを勢いよく呷りたいのだが、酔ってはいけないとのタカシの忠告で、せめぎ合う心をちびちびと口にすることでなんとか抑えている。
 昨日タカシと飲んでからの今日である。こういうことは早い方が良い。思惑

もっとみる
平行線《前編》【短編小説】

平行線《前編》【短編小説】

「メガジョッキハイボールお二つでェす! お待たせしましたァ!」
 頭にタオルを巻き、顎に無精ひげを生やした店員が野太い声でジョッキを運んできた。
 カズオは手元のグラスの底に残っているビールを飲み干すと、新たに運ばれてきたジョッキと交換する。カウンターテーブルで隣に座っているタカシも同様に、飲み終わって空になっていたグラスと新たなジョッキを入れ替えた。
 二人で同時に特大のジョッキを勇ましく口に運

もっとみる
不適切な取材【ショートショート】

不適切な取材【ショートショート】

 清美の元に一件のタレコミが入った。
『人気俳優Kの不倫疑惑』
 久しぶりの大ネタである。
 Kは今や押しも押されもしない国民的な人気を誇っている俳優だ。
 戦隊ヒーローの主役でデビューしてから、爽やかなルックスに持ち前の明るい性格、さらには気さくな雰囲気も相まってまたたく間に人気を集め、その名を世間に知らしめた。恋愛ドラマには欠かせない存在であり、ドラマや映画だけでなくバラエティ番組にも積極的に

もっとみる
ティータイム【ショートショート】

ティータイム【ショートショート】

 仕事に出る前の朝のティータイムを、夫は大事にしている。
 毎朝仕事に出かける二時間前に起き出して、しっかりと朝食を摂ったあと、いつでも出られるように着替えをし、髪を整え、鞄に必要な物を入れる。すべての準備が整ったところでティータイムは始まるのだ。
 夫はティータイムにたっぷり三十分の時間をかける。時間にゆとりを持てない人生を過ごしたくはない、この三十分を作れるか作れないかで心が豊かになれるかどう

もっとみる
まごころAI【ショートショート】

まごころAI【ショートショート】

 この作品は大震災に関する描写が含まれています。気分を害される可能性がありますので、ご注意ください。

エレベーターの扉が開くと、中にいた大勢の人々が吐き出された。「ご利用、誠にありがとうございます。またのお越しをおまちしております」と、淑やかで麗かな女性の声がエレベーターのどこかから発せられている。降りる客ひとりひとりに謝意を表すように、くり返し「ありがとうございます」と述べ、中年の紳士が「あり

もっとみる
リスペクタール【ショートショート】#シロクマ文芸部

リスペクタール【ショートショート】#シロクマ文芸部

「閏年となる今年も、またあの商品が帰ってくるようです。販売日を一週間後に控えた本日二月二十二日十時から、予約の受付が始まる模様です。こちらには三人の方にお越しいただいて、スマホを片手に予約開始を今か今かと待っています」
 女性レポーターがやや興奮するような調子で告げると、モニターの画面は商品説明へと切り替わった。

「その商品とは——『リスペクタール』。X製薬独自の技術で開発された人間関係補正薬で

もっとみる
「あとがき」のようなもの

「あとがき」のようなもの

 読者のみなさま、日ごろ読んでいただきましてありがとうございます。多くの方から「スキ」をしていただき、ご丁寧にコメントまで残していただけることは、作者にとってこの上ない喜びであります。まずは御礼申し上げます。

 さて、無名の作家が書くものですので、当然みなさまにはお気付きにならないと思うのですが、人知れず自主企画を進めておりました。
 予てより短編連作を執筆したいと思っておりまして、この度は短編

もっとみる
フォトグラファー ~月の段~【ショートショート】

フォトグラファー ~月の段~【ショートショート】

 防風林を抜け砂浜に足を踏み入れると、冷たい北風が顔をなでた。穏やかなさざ波がほぼ一定の調子で音を奏でている。ダウンジャケットを着こんだ吹越颯真は、浜辺の真ん中あたりに「よっこらせ」と言いながら腰を下ろし、仰向けになって煌々と照らす満月を見上げた。空は雲一つない。燦然と輝く星を従えるように月は空の中心に立ち、海に優しく光を落としている。

「今日は、きれいだ」

 しわがれた声で、感じ入るようにゆ

もっとみる
風人(かざびと) ~風の段~【ショートショート】

風人(かざびと) ~風の段~【ショートショート】

 大きくうねる波が次々と押し寄せる渚に、ボードとセイルを両手に抱えたウィンドサーファーたちがぞくぞくと入っていった。ボードの上に立ち上がると同時にセイルを立て、吹きすぎる冷涼な秋風を目一杯に受けながら、迫る波を乗り越えて沖へと向かっていく。やがてひとりが海岸と平行するように波に乗り始めると、他の選手たちもそれに追随を始めた。

 江籠翔は海岸沿いの歩道からカメラを構え、長く伸びる望遠レンズを海へと

もっとみる
鵜匠 ~鳥の段~【ショートショート】

鵜匠 ~鳥の段~【ショートショート】

 じっとりとむせ返るような暑さも、陽が沈んだ川の上では幾分やわらいだようである。夜空に打ち上げられた花火を合図に、一隻の鵜舟が川下りを始めた。篝火に浮かび上がる舟が近づき、観覧船がゆったりと並走を始めると、金咲紫織は祈るような気持ちで胸の前に両手を組んだ。

 黒い漁服に腰蓑をまとい、烏帽子を冠った鵜匠と呼ばれる鵜の遣い手が、「ほう、ほーう」というかけ声と共に、十羽もの鵜に繋がれた手綱をしきりにさ

もっとみる
藤色想い ~花の段~【ショートショート】

藤色想い ~花の段~【ショートショート】

 池に浮かぶような朱の映える鳳凰堂を背景に、藤棚からしだれ落ちる満開の紫にピントを絞ってシャッターを切った。構図をいくつか変えてシャッターを切り続けながら、星野明はかつて大学時代の女友達と訪れたときのことを思い出していた。穏やかな陽が降りそそぎ、朱と紫が青天に映え、ほのかに甘く香る空気が、遠い昔の記憶を呼び起こしてしまった。

 金咲紫織に誘われて京都へ女子二人旅をしたのは大学生のとき、もう二十年

もっとみる
雪化粧かぼちゃ【ショートショート】#シロクマ文芸部

雪化粧かぼちゃ【ショートショート】#シロクマ文芸部

 雪化粧かぼちゃを目一杯つめこんだダンボール箱を抱えて、芳井さんは玄関口で大きな声を張り上げた。

「タキさん。今年もコレ、初物だ」
 芳井さんは重そうに、玄関のあがり框にそのダンボール箱をドスンと下ろした。

「あらー、いつもありがとうね」
「なんも、コレができたらまず最初に食ってもらわにゃ」

 芳井さんは誇らしげで屈託のない表情を浮かべた。

「こんなに——食べきれないよ」
「そんないっぺん

もっとみる
至高の酒【ショートショート】

至高の酒【ショートショート】

 若い男が、グラスに注がれた眩いばかりに輝く琥珀色のウィスキーを口に含むと、満足げに唸った。

「素晴らしい! 実に深みのある味わいですよ。爽やかでありながら、なめらかさもあって、品のある香りが華やかさを醸しだしている」

 ひと口ずつ含ませて味わいを確認しながら言葉にしている。やや腰のまがった熟練の主は「そうですか」と、控えめに応えた。

 テーブルには蒸留所で造られたいくつものウィスキーと、飲

もっとみる