何でもない日。みんなの１２月某日③

 二年前の十二月、夫は、妻（私）と自分の母親と犬を残して突然消えた。私達は三人と犬で穏やかに幸せに暮らしていた、はず。そう思っていたのは私だけだったのだろうか…。

　私と義母は仲がいいし、犬は私達三人の癒し。ミックス犬のミロは夫と私が仕事でいない間、義母と仲良くお留守番。義母はミロがいるから淋しくないそうだ。ミロの散歩は平日は私、休日は夫と二人で。一緒にいる時間が一番少ないのに、ミロは夫に一番懐いていた。夫もミロのことを本当にかわいがっていた。何よりも大切なミロを置いていくなんて…。

　
　あの日、夫がスマホを忘れていって、以前にもそういうことがあったので、取りに戻るかなと思ったが戻ってこず、私はいつも通りパートに行き、義母は家にミロといた。夜遅くになっても帰ってこず、朝帰りするのかな（今までしたことがなかった）、なんて思いながら先に寝てしまった。

　そして、翌日も帰ってこず、夫の勤務先に電話すると、昨日は休みを取っていて今日は出社していないとのこと。そこで、私は胸がざわざわした。
　何かあったんだ。交通事故で重体で意識不明で救急病院にいる？家族に連絡を取りたくても財布も名刺もなくて連絡がとれない状況？
　頭を強く打って記憶喪失になった？

　警察署に捜索願いを出しに行ったが、大人の家出扱いで捜してくれるわけではなかった。　
　探偵事務所に依頼に行った。私にとってとても高額な費用がかかることを知り、私が捜すことにした。夫の勤務先に話を聞きに行き（トラブルはなかった）、義母に子供の頃に住んでいた所、旅行したことがある所を聞いて、行ってみたが、駅員さんやコンビニの店員さんに、この人を見かけませんでしたか？と聞いてまわっても、見たなんていう人はいないし、学生時代の友達をさがして聞いても何十年と会ってないと言われた。

　普段の夫は、友達と会うとか飲みに行くなんて話してなかったので親しい友達もいなかったと思われるし、スポーツジムにも通っていないし、勤務先と自宅の往復だけの日々だったのだ。まっすぐ家に帰ってきていた。

　ニュースで、身元不明の遺体が、なんて聞くと、ドキッとする。警察からも誰からも連絡はこない。

　数ヶ月たっても夫は帰って来ない。一年たっても帰って来ない。

　事件や事故に巻き込まれたのではなく、自らの意思でいなくなったんだな、と私の魂が感じた。

　この家からいなくなりたいとずっと前から思っていたのかもしれない。そして、その願いを決行したのだ。

　「ミロ、私達、捨てられちゃったんだね…」
　ミロは私に撫でられながら、私をじっとみつめている。

　私との生活が耐えられなかったのか、会社勤めが耐えられなかったのか、何もかもがいやになったのか、一人になりたかったのか、他に好きな人がいて、その人と逃げたのか…。

　辛い、一人になりたい、とか、話してくれればよかったのに。話せなかったのだろうか。

　夫の様子がいつもと違うとか、何か隠している様子もなかった。何か話したそうにしていた様子もなかった。私が人一倍鈍感なのだろうか…。

　全く知らない土地で、新しく人生をやり直したかったのか。だから、家族を捨てたのか。自分にとって、いらない人を捨てる。
　ポイと家族を捨てられる人だったんだ…。

　私は夫のことを何も知らなかったのだ。

　夫が消えて二年になる。夫のことばかり考えていたくない。私は、変わりたい。

　まだまだ私達の人生は続いていく。これから、お義母さんとミロと私で日々の生活に彩りを、楽しみを見つけて、支えあって生きていく。十二月の風の強い日、夕焼けを見て思った。