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ティール的組織の経営者が著者の書籍10冊読みました。〜各オススメポイントを紹介〜

はじめに

2018年1月に日本で「ティール組織」が出版されました。この名前だけが先行して広がっているように見えますが、副題は「マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」となっています。原著のタイトルは「Reinventing Organizations: A Guide to Creating Organizations Inspired by the Next Stage of Human Consciousness」となっており、DeepL翻訳で和訳すると、「組織の再発明:人間の意識の次のステージにインスパイアされる組織づくりのための手引書(案内書)」となります。

また、書籍の中で著者のフレデリック・ラルー氏は以下のように書いています。

『パイオニア組織(調査した12の組織のこと)は互いの存在を知らず、独力で実験をしていた。セクターも規模もさまざまであるにもかかわらず、相当の試行錯誤の末、驚くほど似たような組織構造と慣行に辿り着いている。これに気づいたときには興奮を覚えずにはいられなかった。つまり、この世の中に新たな組織モデルが現れようとしているようなのだ。

『今はこの新たな現象の黎明期だ、ということを私は十分認識している。本書は、これから本格化するこの組織モデルを明確かつ固定的に説明することを意図していない。この分野でイノベーションを起こし始める企業が増えるほど、そしてさまざまな角度から観察する研究者が増え、社会全体が進化するほど、この組織モデルにも厚みと深みが出てくるはずだ。』

書籍『ティール組織 マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』はじめにp20〜21より引用

これは言い換えれば、全世界で新たな現象(人間の次のステージの意識に基づく組織の再発明)が生まれており、「ティール組織」という書籍はその大きな流れを切り取って言語化・紹介したものと捉えることもできるのではないでしょうか。

このような前提を踏まえた上で、今回は日本において新たな現象の一部を担っていると言える「ティール組織出版(2018年1月)よりも前から」という意味での先駆的実践者の経営者自身が書かれた書籍を紹介しています。

今回ご紹介するのは10冊ですが以下の基準でピックアップしたものとなります。

・「ティール組織」が出版された2018年1月以前から実践されてきて、結果としてティール組織的な特徴を持つようになった会社の経営者の方が著者となっているもの(一部も含む)

・「ティール組織」発売後から2022年6月末までに出版された本で私が発見することができ実際に読んだもの
→他にこれもそうじゃないか?というのがあればぜひ教えて欲しいです。

「ティール組織」出版後に出された先駆的実践者の本一覧

※出版年順

●日本国内
武井浩三氏
(ダイヤモンドメディア創業者・元代表)
・社長も投票で決める会社をやってみた。(2018年)
・自然経営 ダイヤモンドメディアが開拓した次世代ティール組織(2019年)
・管理なしで人を育てる(2019年)

米澤晋也氏(元・新聞販売店「共和堂」3代目経営者)
・指示ゼロ経営 リーダーが「何もしない」とうまくいく(2019年)

秦 卓民氏(セムコスタイル・インスティテュート・ジャパン代表:出版当時)
・奇跡の組織 「最高の働き方」を導き出すセムコスタイル5つの原則(2019年)

倉貫義人氏(株式会社ソニックガーデン創業者・代表取締役)
・管理ゼロで成果はあがる ~「見直す・なくす・やめる」で組織を変えよう(2019年)

久本和明氏(株式会社ワンピース創業者・代表取締役)
・僕たちはみんなで会社を経営することにした。(2021年)

山藤賢氏(医療法人社団昭和育英会理事長、山田博氏との共著)
・森のような経営 - 社員が驚くほど自由で生き生きする。「心理的安全性」に溢れた組織づくり(2021年)

西坂勇人氏(GCストーリー創業者・代表取締役)
・強い組織ほど正解を捨てる 10000人の経営者と対話してたどり着いた「きれいごと経営」(2022年)

●海外
トニーシェイ氏(zappos創業者)
・ザッポス伝説2.0 ハピネス・ドリブン・カンパニー(2020年)

10冊のオススメポイント紹介

社長も投票で決める会社をやってみた。

●会社の特徴(出版当時)
35名前後、不動産Webソリューション事業。

●概要
日本におけるティール的経営の先駆的実践者として有名なダイヤモンドメディア創業者による経営のあり方とやり方について各種記事を再編集したもの。

●感想
書かれている内容は、翌年に出版された「管理なしで組織を育てる」と共通している&そちらの方がより詳細に書かれているように思えるのでどちらか1冊ということで言えば、下の本をオススメしたい。しかし、こちらの方がいい意味で綺麗に整理整頓されていない生の息づかいを感じる雰囲気に感じて個人的には好き。また、ティール組織というコンセプトが出てくる前に知られていたホラクラシーというキーワードを軸に自社の紹介をしているという点も異なる。

管理なしで組織を育てる

●会社の特徴(出版当時)
35名前後、不動産Webソリューション事業。

●概要
日本におけるティール的経営の先駆的実践者として有名なダイヤモンドメディア創業者による経営のあり方とやり方について語られたもの。

●感想
下で紹介している自然経営の簡易バージョンとも言える本でした。自然経営は、組織論だけではなくそれに伴う経営者の思想、価値観についても書かれていましたがこちらはこれまで実践されてきたことについての取り組みが書かれています。本質をより深めたい、という方でない限りは、こちらの本を先に読んだ上でより深く知りたくなったら次に自然経営を読むというルートがオススメかと思います。

自然経営 ダイヤモンドメディアが開拓した次世代ティール組織

●会社の特徴(出版当時)
35名前後、不動産Webソリューション事業。

●概要
ティール組織に関する書籍が出る以前から、似た思想の経営スタイルを確立してきたダイヤモンドメディア創業者の武井浩三氏の取り組み、思想について質疑応答形式で明らかにしながらティール組織の本質に迫った書籍

●オススメポイント
・ティール組織の3大特徴とは、結果として現れる特徴だというと著者の見立てと、その結果が現れるためにはそもそもどんなことにアプローチしていけばいいのか、といった原理や理論ベースに基づくエッセンス(情報の透明性。権力の流動性。感情と境界の開放性をそれぞれ高めていくこと)について学ぶことができる。→私は武井さんの読み解くティール組織の箇所を読むことで結果として、書籍「ティール組織」自体への理解を深める足掛かりを得ることができました。
従来型の組織が持つ構造的課題及びその対策について学ぶことができる。
社員が育つというテーマに関して、直接の教育ではなく環境・仕組みという面でアプローチするという思想、考え方、やり方について学ぶことができる。
自然の摂理に基づく、株式、人事評価制度といったテーマに対する考察、実践について学ぶことができる
自律分散型経営と現行法との関係、どのように取り組んできたかについて知ることができる
・組織を固体、機械としてではなく流体、生命体のように捉えるとは?について実践者の体験から学ぶことができる

奇跡の組織 「最高の働き方」を導き出すセムコスタイル5つの原則

●会社の特徴
個人や企業のパフォーマンスをアップさせる総合コンサルティング事業

●概要
海外の進化型組織のパイオニアとしても名高いブラジルのセムコ社の、組織変革メソッド(セムコスタイル)ライセンスを持つ著者が書いたメソッドの概要本。

●オススメポイント
・研修を行い個人を育てるというやり方ではなく、仕組みや構造から人が育つ環境を整えるためのあり方とやり方について学べる。
・絶版のため情報を得ることが困難なセムコ社の経営やその取り組みについて学ぶことができる。
・セムコ社の40年の経験をパッケージ化したセムコスタイルというプログラムの全体像について学ぶことができる。
セムコスタイルのファシリテーターがどのようなあり方や問いかけをしているのかが垣間見える。そのため、自分たちが無意識に持っている前提を炙り出す質問をいくつか得ることができる。

指示ゼロ経営 リーダーが「何もしない」とうまくいく指示ゼロ経営 リーダーが「何もしない」とうまくいく

●会社の特徴
社員数43名。新聞販売店経営。(現在は社員に譲り、研修やコンサル事業をされているとのこと)

●概要
「ティール組織」が出版されるよりもかなり前の1999年から参加型経営を実践し始めて、その後の紆余曲折を経て2010年に本格的に機能し始めたという著者の取り組みから導き出された型やステップについて具体的な事例と共に紹介されています。

●感想
この本は著者の膨大なチャレンジから生み出された本だと感じるくらい濃い内容が書かれていました。本気で実践したい人にとっては必見の内容と言えます。純粋に著者へのリスペクトが湧く書籍と言えるでしょう。

●オススメポイント
・現場が自走する組織づくりを念頭に置いた上で、関係性づくり・関係の質の向上を具体的にどのように進めていけばいいのか。そのプロセスもステップバイステップで整理されている。
理想の会議の流れ、そのためにはどんな役割が揃っている必要があるのかについて構造化されていて、トレーニング方法にも言及されていること。
・組織が自走するために大切なこと、導入することで必然的に発生する問題、自走がうまくいかない場合の要因はどこにあるかが書いてあること。
・他に実践されている経営者の方から聴いた内容(適切なプロセス)や私自身が実践してみて感じたこととの共通項が多く見出せていることから、現実的なステップをちゃんと明示してくれていると感じられたこと。
・経営者としての内面が正直ベースで表現されていること。

管理ゼロで成果はあがる ~「見直す・なくす・やめる」で組織を変えよう

●会社の特徴
従業員数50名(wantedly情報)納品のないシステム開発事業。

●概要
全社員リモートワーク、本社オフィスの撤廃、管理職がいない、上司がいない、部署もない会社経営を実践されてきた起業家による経営論。

●オススメポイント
・生産的とはどういうことか、具体的にどうすればいいのかについて個人の面、会議の面でやり方が書いてあるため、SEの発想・価値観に基づくやり方を学ぶのに役立つこと。
ITツールを活かした関係の質の高め方について書かれていること。
・成果をあげるために、自分の頭で考えて、自分が責任のとれる範囲で、自分で決めていく、という意味のセルフマネジメントを、仕事・組織・自分というのカテゴリーにおいて3つのレベルで整理し言及されていること。
・ヒエラルキー構造、及び従来の目標設定と評価の仕組みが持つ弊害について、実際に自社ではどうしているのかについて書いてあること。
2016年から全社員リモートワークを実施してきた経験に基づくノウハウについて書かれていること。
●書かれていないこと
・このような経営を磨いていく上での壁となったことや葛藤といった内面については書かれていません。

僕たちはみんなで会社を経営することにした。

●会社の特徴
2021年夏当時:売上34億(利益4億円)、スタッフは約170人(女性比率80%。内ママさん比率8割)メイン事業は、婦人服のデザイン&ECでの販売。

●概要
ワンピース式経営という「一人ひとりが自立・自走して幸せに活動できる仕組み」を実践されています。その特徴やプロセスなどについて書かれています。

●オススメポイント
・経営者が自身の権限を委譲していくプロセスにおける痛み・正直な気持ち。そして、そうしたことで実際に起こったことについて書かれていること。
・事業づくり、資金繰り、報酬について書かれていること。
・ティール組織でいう"自主経営"とは、"全体性"といういわば社員同士の関係の質が土台となって効果的に機能するわけですが、この書籍は社長自らがこの関係の質を高めていくために何を意識してどんなことを大事にしてきたのか、どんなノウハウを参照してきたのかが書かれていること。
・同じく、ティール組織でいう"自主経営"は、自己修正システムという仕組みを育てることができるかどうかが自律分散になるか、好き勝手分散になるかを分けます。この自己修正システムについては1冊目のティール組織には出てきていない表現ですが、こちらの書籍ではその成立要件が整っていなかったからこそ起こった失敗及び、それをどう改善したかについて書かれていること。
・経営論だけではなく、ポスト資本主義とは?何が大切になるか?といった社会づくりについての考察も書かれていて刺激を受けること。

森のような経営 - 社員が驚くほど自由で生き生きする。「心理的安全性」に溢れた組織づくり 

●会社の特徴
クリニック3軒、整形外科1軒、医療技術専門学校1校を経営している。

●概要
医療法人理事長、学校法人校長の山藤賢氏と「森のリトリート」を創始した山田博氏の対談。本書では主に学校法人の取り組みを軸に語られている。

●オススメポイント
・ティール組織でいう全体性(ホールネス)を経営者自身が体現しているとはどういうことか、進化する目的(エボリューショナリーパーパス)について理解を深めることができること。
・読みながら呼吸が深くなるような、心がぽかぽかするような感覚になれること。
森という生態系と経営の類似点が学べたり、自然の摂理に基づく経営について、考えを深めることができること。
・人間目線とはどういうことかについて理解を深めることができること。
自律分散型な学校法人がどのような制度をどういう考えの基でつくったのかについて学べること。

●書かれていないこと
・山藤さんの経営について詳細まで書かれているわけではない。

強い組織ほど正解を捨てる 10000人の経営者と対話してたどり着いた「きれいごと経営」

●会社の特徴
スタッフ数80名。施工事業、介護事業。

●概要
盛和塾で理念経営を学び、組織の自律分散化に取り組んできた起業家による自身の経営哲学やそれをどのように制度(主に教育)に反映させているかについて書かれたもの。

●オススメポイント
従来型の組織で起こっている弊害について人の意識という側面から理解を深められること。
組織における評価とは?について哲学する(前提から捉え直す)きっかけが得られること。
・稲盛和夫氏の「理念経営」の実践から自律分散化に取り組んできた起業家から観る「組織とは?」について学べること。
・体育会系の経営から自律分散型の経営へ意思決定を下したプロセスの経営者の内面が書かれていること。
社員の意識の発達(認識の範囲の拡大)についてや、視座を高めたり自在に置けるようになるために大切なポイントについて書かれていること。

●書かれていないこと
・具体的にどのようなプロセスで自律分散化に取り組んできたのかはGCストーリーのnoteマガジンの方が遥かに詳しい。

ザッポス伝説2.0 ハピネス・ドリブン・カンパニー

●会社の特徴
従業員数1400名越え。ホラクラシーを導入した最大規模の会社。靴のECサイトビジネス。

●概要
2013年にホラクラシーを導入し、2015年にはティールを目指していくという表明をしたZappos(ザッポス)社の約10年の取り組みや組織文化について、従業員のエピソードやコメントを軸に紹介している。

●オススメポイント
・組織文化そのものが圧倒的な競争優位になる会社の採用&オンボーディング&キャリア形成プロセスについて学べること
社員一人ひとりに意思決定権があることで生まれているエピソードについて知り、解像度を高めることができること(顧客感動や社内起業など)
・組織文化を築く(より強化にする)意思決定をどのように進めていったのか、その際に生まれた離職について書かれていること
ホラクラシーとはどのようなものか、導入しようと思った背景、進めていく中で生まれた痛み歪み(残った/辞めた社員のコメント)、プロセスについて学べること
・「ティール組織」著者フレデリック・ラルー氏でいう自己修正システムのような、チームの自律分散化/自己組織化を実現するための必須要素である「責任のトライアングル」について学べること
・なぜ組織の進化も押し進めながら収益性も3年連続で向上したのかについての考察が書いてあること

●その他
組織文化に関する話と、経営の進化の取り組みについての話の割合は5:5くらい。

テーマ別個人的ベスト

経営者の自己開示度ベスト3

取り組むプロセスの中での経営者自身の内面(主に葛藤や苦しみ)について生々しく自己開示されていると感じたトップ3。

・僕たちはみんなで会社を経営することにした。
・自然経営 ダイヤモンドメディアが開拓した次世代ティール組織
・指示ゼロ経営 リーダーが「何もしない」とうまくいく

読むと心があたたかくなるベスト2

読むことで全体性(ホールネス)を感じるような、心がぽかぽかとあたたかくなったトップ2。

・ザッポス伝説2.0 ハピネス・ドリブン・カンパニー
・森のような経営 - 社員が驚くほど自由で生き生きする。「心理的安全性」に溢れた組織づくり

人を育てるではなく「育つ」仕組みや構造について掘り下げて理解が深まるベスト3

・自然経営 ダイヤモンドメディアが開拓した次世代ティール組織
・奇跡の組織 「最高の働き方」を導き出すセムコスタイル5つの原則
・強い組織ほど正解を捨てる 10000人の経営者と対話してたどり着いた「きれいごと経営」

会社における評価・報酬について前提から問い直せるベスト2

・自然経営 ダイヤモンドメディアが開拓した次世代ティール組織
・強い組織ほど正解を捨てる 10000人の経営者と対話してたどり着いた「きれいごと経営」

さいごに

やってみたいからやってみたという今回の記事ですが、他にも以下のシリーズの記事を書くことを考えています。

・ティール組織が出版される前に出版された「組織の再発明」な本シリーズ
・経営の進化の支援者が出版した本シリーズ
・ティール組織自体にまつわるシリーズ

マイペースではありますが、アップしていきますので読んでもらえたら嬉しいです。

追伸

ティール組織に関するコラムやリコメンド記事はこちらにまとめていますので興味を持っていただいた方はぜひご覧ください。


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