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ごちそうとビズ

本がぎっしりとつまった本棚やローズクォーツの照明、そしてふたりの息子たちからのプレゼントに囲まれたこの空間を、わたしは毎回初めて招かれたかのように黙ってぐるりと見回す。ただよう空気までもオレンジ色にいろづいているように見える。わたしたちはこうして彼の母親の家によく訪れ、一緒に食事をする。

彼女の料理はどれも本当においしい。わたしのお気に入りは、ネギやチコリがハムで巻かれたグラタンと、ニンジンとチリパウダーだけのシンプルなスープ。新鮮な組み合わせにシンプルな味つけをした料理は、家で作って食べたいと思うものばかりだ。おいしいってなんてしあわせなの~~~と、感動を噛みしめていると、いつものように小競り合いを始める親子。この景色もセットである。

些細なことで言い合うふたりを、ワインを飲むついでに眺める。わたしだけが黙っている。もうちょっとお互い素直になれないものかとも思う。しかしすぐにまたわたしは料理に夢中になっていた。

”J'adore cuisiner.” 「料理が大好きなのよ」彼女の家で食事をするたびに彼女はこう口にする。家族や来客のために食材を選び、手を尽くして料理をしているんだよな。日に多くて3回する料理を、愛し続けることって実はすさまじいことなのかもしれない。少なくとも彼女には、料理が好きでい続けられる家族がいる。

電話でもなんやかんやとひとしきり言い合うふたりは、最後に ”bisous” 「キス」と言ってお互いを思う。

一見すると仲の悪そうな親子だが、本当は違うのかもしれない。

おいしい料理とビズは、わたしをそう思わせた。

エッセイストとして活動することが夢です。自分の作品を自費出版する際の費用に使わせていただきます。