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小曽根真featuringNo Name Horses inハーモニーホール福井2022.6.30

文字通りあっという間に梅雨が通りすぎ、明日から7月という今日の日。
状況的に行こうかどうしようかずっと悩んでいた。
あの小曽根さんと、JazzAuditoriaの記憶も新しいエリックミヤシロさん、中川英二郎さん、中村健吾さん、三木俊雄さん…錚々たるメンバーで構成されたジャズビッグバンドNo Name Horses。。

……。
……。
…何度考えても行かない手はない。

どんどん埋まる席を見て焦りだし、やっとチケットを入手して、この日を待った。

相棒は相変わらず私の娘。
道が帰宅ラッシュで混んでいて会場についたのが開始5分前。
係の方が席の扉まで案内して下さり何とか間に合った。

2階席後方といえど座ってみると競りだしている分、思ったよりもステージが近く感じる。角度的には丁度小曽根さんとベース中村さんとドラム高橋さんが正面の視覚に収まる感じ。
あっという間に会場のライトが切り替わって、出演者の方が続々と登場した。

若い方も多く、学生さん達もたくさん見に来られていた。
ビッグバンドということできっと部活関係の皆さんだろう。

先にセットリストを上げておく。
#1 Makoto Ozone 「No Siesta」
#2 Makoto Ozone   「The Puzzle」
#3 Toshio Miki   「Midnight call」
#4 J.S.Bach  「Air on the G String」 (Duo)
#5 Eric Miyashiro  「La Verdad con los Caballos」 
休憩
#1 Maurice Ravel 「Piano concerto in G Major 2nd movement 」(Torio)
#2 Makoto Ozone  「Cave Walk」
#3 Eijiro Nakagawa 「in to the sky」
#4 Makoto Ozone  「Time Thread」
#5 Makoto Ozone 「Three Wishes」

音源はこちらを参考までに
小曽根真トピック 「THE BEST」Youtubeより
https://youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_lZ1hqO0La5Wk4dGcsiCnFkDGJFKNSd67Y

No name Horsesの皆さんがポジションに付き、小曽根さんがピアノの椅子に座って始まったのは「No Siesta」。爽快なメロディーとラテンのリズムが一気に会場のボルテージを上げる。
小曽根さんもご機嫌な表情でメンバーに掛け合いを挑む。
ベースの中村さんドラムの高橋さんが応戦する。
正直、「ジャズを聴くならバーが本場だよね…」と、ホールで聴くジャズを少々不安に思っていたがとんでもなかった。
空間が広い分、各パートの楽器が思いっきり鳴って、のびのびとした音色が会場一杯に広がる。
最初から一気に最高潮まで盛り上がって、終わった時には本当にラストの曲かという位のテンションだった。

小曽根さんが挨拶をされた。「今日は前回3月24日に60のソロでそのときにまた来ますとお知らせしたんですけど、今回はこんなにたくさんの方が集まって…」と会場を見渡し2階席にも手を振って下さる。
この時ちょっと振りそびれてしまい後悔笑

2曲目の「The Puzzle」はホーンの音から入るのだが、ベース、ドラム、が入るときに一瞬静寂を持つ。そして絶妙な間が空いて小曽根さんのピアノがドラムと一緒に柔らかく入ったのが余りにお洒落過ぎてのけぞってしまった。
前に設置されたマイクにトランペット木幡さんが立つ。キレのある音色が空間に轟く。
パズルと名付けられただけに各楽器のパートが組み合わされて行くような感覚を受けた。

次に小曽根さんがテナーサックス三木俊雄さんを紹介した。「暑い中足を運んで下さりありがとうございます」とご挨拶下さり、三木さんが作曲された「Midnight Call」。
ムードたっぷりのジャジーな音色が会場を包む。サックスの音に身を委ねる。
ただただ心地いい。昔地元の某有名ジャズバーに足を運んだ時の事を思い出していた。
会場が広い分あの時の音色よりもさらに伸びやかに響くサックス。しかし耳に強く当たることは全くない。また渋みみたいなものを感じようとしてしまったが、そんなことは通り越えた本当に「響く」音だった。

一旦バンドの方達がステージ上からはけて、現れたのが小曽根さんとトロンボーン中川さんだった。
中川さんはツアーに先立ち5月に来福されて、トロンボーンの講習イベントをして下さった。またコロナ前にも福井に来てくださった事があり、ご縁が感じられるとの事。(後で調べたら地元の高校生への指導に来てくださってたようだ)
そしてお2人で口々に「今日、いいですよね」「ね、この会場のアナログの音の響きがね」と今日のホールの音響を褒めて下さった。
以前小曽根さんの、ソロコンサートの時も、コンディションがよかったのかプロコフィエフを弾かれた時、「今までで1番よく弾けた」と仰って下さってたらしくとても嬉しかったが、やはり、地元民としては(そして田舎民としては)演奏者の方達のやりやすさはとても気になる。
その演奏から今日の調子が良い事はひしひしと伝わってきたが、敢えて言葉で聞けるととても誇らしくなる。

そして始まった小曽根さんと中川さんのG線上のアリア。
スポットライトが2人だけを照らす。
中川さんが輝くトロンボーンであのゆったりとした柔らかい旋律を鳴らしていく。
小曽根さんのピアノがその音を支える。
そうかビオラとかコントラバスの感じがトロンボーンで表せれるのか。
音に身を任せているともう何の楽器の音色かも分からなくなるくらい音が旋律に馴染んでいた。
そして耳慣れた心地よい繰り返されるメロディーに突然、ブルースの音色が加わった。
これがNo name Horses、これが中川さん…!!!
一気に空気が変わりそのまま会場を包み込んでアリアが奏でられていった。そしてそれはブルースそのものだった。
もう完全にしてやられっぱなしの観客席。
終わってからの拍手にもそれが現れていた。

そして今日の私のもうひとつのお目当て、エリック·ミヤシロさんにスポットが当たる。
このコンサートの1番最初で小曽根さんは英語で彼に話しかけ、彼もまたネイティブの英語で返答した。
2度目の今回は小曽根さんはあえて普通に問い掛け、エリックさんも「グッドイブニングー」といわゆる日本語英語で挨拶し場の空気を緩めた。そしてあの穏やかな流暢な日本語で話し出す。
私は一生懸命耳を凝らした。そしてミヤシロさんの言葉で涙が込み上げる「ずっとコロナで私達もパワーを失ってて、でもずっと身動きが取れなかった中、今日観客の方がその分パワーアップされてるのを感じながら、こちらもまたそのパワーを頂いて演奏したいと思います。」
始まったのは「La Verdad con los Caballos」 。ラテン調のご機嫌なリズムに再びノリノリになる。エリックさんらしさのようなちょっとエッジの効いたメロディーにも思った。
近藤さんがソロパートを奏で上げる。
小曽根さんとの掛け合いに聴いてる方の喜びも増す。
小曽根さんがピアノの前に座りながらも体全体でリズムにのって、時折仕掛ける時も大きくアクションする。ビッグバンドを、そしてこのステージを体全身で操っていた。そして遠くからでもその表情が生き生きされているのが伝わる。めちゃくちゃかっこよかった。

もうずっと贅沢な音の洪水を浴びて、ああもう終わるのかななんて思っていたけど(携帯の電源を切っているため時間がわからない)、ここで休憩のアナウンスが入る。

うぉーー!!まだあと後半があるのか!!

本気でそう思った。それくらい前半1時間だけでもボリュームたっぷりで、バラエティーに富んでいて、満足感が物凄かった。

後半が始まる。
今度は小曽根さんと、ドラム高橋さん、ベース中村さん。
小曽根さんが話し出す。「少し前Ozone60でここへ来たときにもやったんですけど…リハでやってみたらいい感じだったんで、ちょっと今日始めてですけどやってみようと思って。。」

ん?何々?何を演奏されるの…??
以前同じ会場で聴いたセットリストが頭を駆け巡る。

「ラヴェルのピアノコンチェルトの2楽章を3人でやります」

!!!

某有名ピアニストファンからしたらたまらないこの選曲。。そしてラヴェルは元々ハマりつつある。それが小曽根さんのピアノで、そしてトリオで聴けるなんて!!!!!
思わず会場の数人のお客さんから拍手が起こる。勿論私もその内のひとりだ。
拍手を諫めて小曽根さんが言った。「いやいや拍手はまだ早いですよ笑 聴いてみて、よかったら拍手お願いします。」
Twitterのとあるフォロワーさんから、小曽根さんのピアノの音が変わったらしいことを教えていただき、その事も思いながら耳を傾けた。勿論この日の最初から、ソロコンサートの時の音色とはまた全然違う音色に、更なるワクワクを感じていたが、この曲は本当に1音1音がキラキラしていた。
ずっと小曽根さんのピアノだけが鳴り響く。丁寧に丁寧に、コンチェルトのピアノパートの旋律が奏でられ、私も更に集中して耳を傾ける。そして水の波紋の輝きを思わせるキラキラ部分にさしかかり、コンチェルトではコールアングレが入るあのパートに入った時だ。静かにドラムとベースが鳴り出す。ピアノがふっとジャズの世界に入る。しかしそれは突然じゃなく、ラヴェルコンチェルトの旋律の根元をゆっくりゆっくりジャズの方に丁寧に手繰り寄せ、そしてその頂点で一気にジャズに変身させたように聴こえたのだ。

とても不思議な感覚だった。

しかしそのお陰で何て言うか、ただ安易にジャズ調にアレンジされたものとは一線を画していたと思う。
ラヴェルがそのままジャズの世界へポーンと飛び込んだ感じに聴こえる。
何処か高貴な音色が美しい旋律を引き立たせる。ソロの時とは全く違う、透明度と深度が深いコンチェルト ト調2楽章だった。
たくさんの拍手が鳴り響いた。

そしてまた全メンバーが現れる。

明るい、ちょっと遊び心も感じられるテンポの「Cave Walk」。こちらは聴いていて自然と笑みがこぼれる。
中川氏作曲の疾走感と爽快感たっぷりの「in to the sky」。メジャー感のある親しみ易いメロディーがこの、Specialなバンドにとても似合っていた。
解放感に溢れた演奏がずっとそのペースを落とさない。ホーンが鳴り響き、小曽根さんのピアノが、指揮する手がそのテンションを緩めることはなかった。
「Time Thread」ではまた大人の雰囲気に浸らせて下さった。小曽根さんのこれぞJazz、の音色が私達をうっとりさせる。
そして「Three Wishes」。
最後の曲に相応しい華やかな曲。
各パートがそれぞれに自由にリズムを刻みながら、サビでは乱れず纏まってくる。何という快感。。もうもう本当に最高すぎて視線も耳も脳ミソもため息しかなかった。
そしておもむろに小曽根さんが椅子から降り、ドラムの1段高くなった台の一角に腰掛ける。思わずにやけてしまう。
高橋さんの渋くて熱いドラムソロが始まった。複雑に刻まれるバラバラの左手と右手と脚のリズム。それがまた心地よく。ずっとずっと鳴り止まないで、時間にすれば5分位は叩いておられただろうか。
小曽根さんのいたずらっぽく、しかしメンバーの方の最高の演奏に聞き惚れる表情がとても幸せそうだった。
そしてドラムソロ終盤で小曽根さんが席に戻る。ピアノの音が転がりだし阿吽の呼吸でホーンが入る。
クライマックスに向けて音がひとつに纏まる。最後は高らかにビッグバンドの音が鳴り響き、その幕を引いた。

驚いたことに、後半殆ど無言でこちらを振り向かなかった娘が満面の笑みで振り向いた。

「すごぉーーい、かっこいい!!!!!」

「えっ、ちゃんと聴いてたんだ?!?!?!(心の声)」

会場の拍手も勿論鳴り止まない。

本当に充分過ぎるくらい、とても贅沢な濃密な音楽の時間をたっぷり過ごさせて下さったのだが、だからこそアンコール無しでお帰り頂くわけにはいかない笑

暫くして再び登場して下さったメンバーで演奏したのはチック・コリア「La Fiesta」。
https://youtu.be/GTJ7wd0YXBI (御本人演奏 LIVEver.  Youtubeより)
ジャズも初心者の私には知らない曲だが、小曽根さんがチック・コリアを演奏して下さる事自体が嬉しかった。
そして小曽根さんはラテンが本当に似合うなぁと思った。そして聴いたことがない曲でもやはり素晴らしくて感動する。

再び起こるアンコール。

「もも、もうやる曲ないですよ笑」
とひとりで現れた小曽根さんが言う。
確かに今日は最初から最後まで本当にパワーもマインドも全開で、音楽の楽しさをこちらに届けてくださっている。
それでも小曽根さんは椅子に座って下さった。
そして最後の選曲が痺れるのだ。
説明してくださったのが、ガーシュウィンの「I Loves You Porgy 」。
ガーシュウィンが手掛けたオペラとして上演される「Porgy and Bess」の中の1曲だ。美しい名バラードとされている。
(無知な私は後で調べてよりこの曲を弾いて下さった事に特別感と感謝の気持ちが高まった)※因みに「Summer time」などもこのオペラから有名になった曲
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%82%AE%E3%83%BC%E3%81%A8%E3%83%99%E3%82%B9(ポーギーとベス wikipediaより)
曲については公式が分からなかったので、気になる方は是非検索して聴いてみて下さい。(キース・ジャレット、ビル・エヴァンス、有名ボーカリストも勿論!)

小曽根さんのように数々のオリジナル曲を書き、著名なジャズ奏者と共演をこなしてなお、このスタンダードジャズを奏でて下さる事への感動、そしてその繊細でロマンチックな、でも温かみのある音、全てを出しきられたであろう後であるにも関わらずとても丁寧に丁寧に鍵盤を奏でられる小曽根さんの精神力。。。
今日この日の一連のセットリストを思い浮かべても、とても入りやすい所から、クラシックの曲も含め、その世界の芯の所へまで案内してくださったような、そんな1日のステージだった。
そして何よりも極上のバンドを率いて終始躍動する小曽根さんがほんっとに最っっっっ高にかっこよかった。

この日のステージを体感出来たことはとても誇りに思えるくらい、最高の時間だった。

会場の外で、迎えを待つ生徒さんがいて、それに気付いた先生らしき方が生徒さんに言う。「今日のは最高やったのぉーー」思わず出たセリフだったと思う。

「ほんとやってのぉ。」

心のなかで私は返答をして、娘と手を繋ぎながら、夜の暗闇の中ライトで煌めくホールをゆっくり後にした。