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角野隼斗 アデス ピアノと管弦楽のための協奏曲 サントリーホール2022.10.4

まず最初に。

角野さん、飯森マエストロ、パシフィック·フィルハーモニア東京の方々、日本で初めてのアデス·トーマスの「ピアノと管弦楽のためのコンチェルト」演奏の大成功、本当に本当におめでとうございます!!!!!

あの角野さんを以てして、多分本気で「引き受けた事を途中で後悔した」と言わしめたこの楽曲及び楽譜。
ピアノパートでの初っ端からの複雑な変拍子。更にはオケとの副拍子などが絡み合う、演奏する側にとってとても難解なこの曲。
世界的に見ても演奏する奏者自体が少ないらしい。。

聴く方にもプレッシャーを感じるこのチャレンジ。素人の私でも音源を聴いた時にこの音楽の本当にギリギリで緻密な感じを受け取っていたから。。
(しかも角野さんはNOSPRのタイトなツアーでショパンピアノコンチェルトを11回弾ききった約2週間後!!!)

実はこの公演が決まったとお知らせがあった頃、何度かこのコンチェルトを聴いてみた。
その時のアデスは私にはとても難しく、音楽が全くバラバラに聴こえた。
そしてそれは遠い世界に思えた。

その後、角野さんのピアノ曲やクラシック動画、小曽根さんの生演奏、そして初めてのクラシックコンサート(ショパンコンチェルト)の経験を経て、改めてアデスを聴く。

衝撃だった。

「何このめちゃくちゃカッコいい音楽、そして世界観!!!!!」

これは角野さんがどう弾かれるのか絶対聴きたい。

また飯森マエストロはこの公演のお知らせで知ってから、今年のピティナコンクールのグランプリ演奏の指揮を勤められたり、テレビ出演されたのを拝見して、明確に振られる指揮とそのお人柄に是非ともマエストロの音楽も聴いてみたいと思った。

しかし。公演日は平日。
そして当然ながら東京で行われる。

田舎に住む私が聴けるわけがなかった。

けれど今回ばかりは何故か聴きたい思いが強くなる一方。。。

思い起こせばNOSPRツアーで聴かせて下さったあのコンチェルトはクラシック表現として新しさや角野さんの考え方を感じたし、彼のラボ(YouTubeメンバーシップ動画)を見た後に、改めてアデスを聴いて受けたその衝撃がずっと消えなかったのだ。

このアデスの演奏はきっとこれからの角野さんにとっての節目となり大一番になるのではないか。
多くのファンの方がそう思われたと思う。
私もそうだった。

その演奏を、僅か20分程のコンチェルトをどうしてもこの目で見届けたくなった。

まだ行けるか半信半疑なまま、何かに背中を押されるかのように行く段取りをした。

自分でも信じられなかったけれど、ここで行かなければ私自身もまたこれまでと変わらず日々の事をくよくよとしながら、毎日を何となくやり過ごしてしまうことは簡単に想像出来た。
長引いたコロナ禍で本当に弱ってしまった精神。
東京に出ることすら一大決心。
本当はやりたいこともやらなければいけないことも、ちゃんとやりたい。
そんな自分への思いも込めながらも事を運ぶ。

SNSのフォロワーさんのフォローもあり、何とか準備が進んだ。(仕事の都合などちょっと神憑りな事も!)
公演のチケットも残り僅かの中から取った。
更には直前に急用が入るアクシデントに見舞われた。が、もう心は決まっていた。
何があっても行こう。
開演に間に合う時間に何とか片がついた。
当日たくさんの種類の緊張に包まれながら列車に乗り込む。

東京駅で待ち合わせていた、一緒に来てくれることを快諾してくれた妹のお陰で会場に着いた。

初めて訪れたサントリーホールの華やかなエントランスに胸が高鳴る。
会場も賑やかに人が溢れていて、もうここから別世界を感じることが出来た。

ホール内に入ると10列目ではあったがほぼ端の席で、ステージへの視界は殆ど期待していなかった。
しかしステージにそって弯曲に並んだ客席は更に傾斜があり、ステージも観客席より下の方に設置されているため視界がしっかり開けていてとても有り難かった。

SNSでこの日行くことを事前に皆さんにお伝えしていて、本当に嬉しいことにたくさんの方が声をかけて下さった。どの方も素敵な方達ばかりで、こんな唐突な私の事でも笑顔で応じて下さった。


開始前のアナウンスが鳴る。
オーケストラの方達がステージ上の各通路の扉を開けて入場される。
たくさんの暖かい拍手が皆さんを出迎えた。


因みにわたしがアデスコンチェルトを数回聴いた時(指揮:アデス トーマス ピアノ:キリル ゲルシュタイン)の感想はこちら。

この曲自体その世界観にハマるとほんとにカッコよくて。
演奏終了後に角野さんが仰ってた、正しく短い時間の中に、たくさんの要素が散りばめられた聴き応えのある曲。
宇宙を感じる、哲学のような質感も感じる(あ、哲学は知らないです汗)そして何よりも3次元の世界が音で表されている凄さ。

楽器やフレーズの間にある音同士の空間が脳の中に浮かび上がるのが心地よく、映像化可能なのではと思えるくらいの描写感。けれど映画音楽とはまた違う世界線の表現の深さ…(映画音楽の否定ではない)

協奏曲の形がちゃんとあって、2楽章のロマンス的な旋律から3楽章で主題が繰り返されて盛り上がる感じまで、その枠組みで聴くととても耳に馴染みやすかった。

更に更に、勝手にかなりシンプルな音数だと思うのだけど、それだけでこんなに複雑で大きな世界観を表現できてしまう凄さ……どう考えてもアデス様天才ですよね…(因みにアデスさん見た目もオシャレ!)

本番の話に戻ろう。

いよいよ飯森マエストロ、角野さんが登場。
角野さんの表情は明るい。
皆の拍手から何となく伝わる緊張感。
私もゴクッと息を飲んだ気がする。

ここから本番の印象の感想。

※予習は殆どしていないこと、またオーケストラの楽器の音ひとつひとつを聞き分ける力がない上に、今回特にピアノに意識を持っていってしまったので鑑賞にとてつもない偏りがあることをお許し下さい。。

角野さんと飯森マエストロ、パシフィックフィル東京の日本で初めてのコンチェルトが始まる。

【第1楽章】
出だしのあの変拍子、角野さんのピアノは実に軽やかにさらりと入ってのけられたように聴こえた。
(しかしその時の正面で見ておられた方が、角野さんが指でカウントを取ってられた事を後で教えて下さった。この曲への緊張と意気込みを感じる)
オーケストラの音もピアノに合わせ抑え目めにされていると感じた。
お陰でピアノの音がしっかり聴こえる。
あっという間にその世界へ誘われる。

とにかく角野さんのピアノが軽快だ。
けれど音に形があって温もりも感じる。
ただ軽いのではない。
オーケストラと掛け合いの緊張の瞬間も違和感なく。
各パートに確実に指揮を振り分ける飯森マエストロの背中が頼もしい。

またピアノの低音を響かせる角野さんの腕に力と気が入るのが分かる。
目まぐるしく世界が変わるフレーズにこちらも付いていく。
彼の表情やピアノを弾く体勢がそれによってどんどん変わる。
角野さんの好きそうなフレーズがあったり、オケとの思いっきりぶつかるフレーズがあったり。

もういつの間にか拍子が複雑だという事は何処かへ行ってしまっていた。

バイオリンの伸びやかな音に角野さんのピアノが合わさると心も揺さぶられる。
瞬間を逃すまいと楽譜を見詰めるコントラバスの方の表情も印象的だった。

目を閉じていたら、あ!これはいつもの角野さんの音だ!と思えるところがあって思わず嬉しくなってしまった。
明るくてうきうきするような、安心感すら覚えるあの音。そんな角野さんの音は1音で人を笑顔にしてしまうことを再確認。
けど残念ながら今日は一瞬でおしまい。

あっという間にたくさんの楽器の音が角野さんのピアノに重なり、最後の大きなひとつのまとまりになった。
マエストロが高く腕を振り上げると全ての音が止む。バイオリンの弓が揃って止まる。

Bravo!!!

心の中でそう叫んでめちゃくちゃ拍手したくなってたまらなかった。

【2楽章】
切ないフレーズは私の耳にはさらりとこなしたように聴こえた…それよりも何よりも印象に残ったのは不協和音ギリギリの、ひとつひとつ踏みしめるようなあの音階と和声の連なり。。。
ギュッと心臓を掴まれる。
私の感情のクライマックスはここだったかもしれない。
ピアノの蓋の向こうに覗く角野さんの、音を確かめながら目を閉じたり上を見上げる表情がとても刹那的で。。
ピアノだけが響く時間も、彼の正確なリズムはちゃんとオケが鳴る時に合わさっていた。

そして今日は何よりもオーケストラを信じて、ピアノとオケの音符の狭間に飛び込んで思いっ切り鍵盤を鳴らす彼に、彼自身の気持ちの強さを感じた。

それがめちゃくちゃカッコよかった。

そして鳴らされた音をしっかり受け止めるべく待ち構えていたオーケストラとの、音の信頼関係が出来上がる瞬間にとても感動した。

更には角野さんがピアノで作った、くぐもった渦を、飯森マエストロの操るオーケストラが空間に昇らせて弾けさせる。これが正に化学反応みたく痛快で!!!

【3楽章】
角野さんのペース。
THE宇宙を思わせる最初のフレーズの音はもう彼の音色のひとつだと思っている。
ああこれピアノで鳴らされているんだって改めて驚いてしまう音。

そしてあのガーシュウィンを思わせる軽快なフレーズはもう堂々としていて聴いている方も自然と楽しさが込み上げる。

このコンチェルトは本当にアデス様が色んな楽器の音の設計をして、それぞれが点で瞬間的に繋がって影響しあって引っ張りあう、そんな私のイメージ。そこから大きくなったりうずくまったり、急にはじけたり。
その音の繋がりの変化を存分に感じながら、そして楽しみながら弾く角野さんの笑顔は、やっぱりこちらまでも楽しくさせる。

またどうしてもショパンコンチェルトと比べてしまうのだけど、この楽曲の演奏では曲調の落差が断然大きい。
オーケストラが強目の音を轟かせる。
ここぞで椅子から跳ねて力を込めて弾く角野さん!!

かと思いきや急に立ち止まるようなフレーズが現れただただその世界に圧倒される感じ。

けれど振り返れば角野さんが、分かりやすいように、大きな大きなスクリーンにずっとずっとストーリーを映し出して下さってるようなそんな感覚があった。
ドラマティック、という言葉が思い浮かぶ。
また全体を通して、あちこちに飛ぶリズムでも、全てがずっと1本のほそいほそいほそい糸で囲まれてるように私には聴こえたのだった。

オーケストラと(わざと)ぶつかる以外は本当に濁った音がなくて、私が予習した音源よりは繊細な、でもきっぱりとしたタッチで音階が鳴らされる。オケとの鮮やかなハーモニーが華やかに盛り上がりつつ終焉を知らせる。
最後の最後の瞬間はもう何が何だか分からなくて、気づいた時には飯森マエストロの指揮の腕が上がり、角野さんは後ろに体重を掛けた体勢で、オーケストラの皆さんも動きが止まっていた。

お、終わった…。凄い…!!

晴れやかな笑顔でマエストロやコンミスとタッチを交わす角野さん。
スタンディングオベーションでその成功を讃える観客席。
オーケストラの皆さんも角野さんに惜しみ無い笑顔と拍手を向ける。
彼は正面を向き直し、深々とお辞儀をしてたくさんの拍手に応えた。

アンコールは暫く悩まれた時間を置いて「I got rhythm」。
Jazzよりのお洒落な演奏に更にしあわせな気持ちが増す。
最後は弱音で終わった音に照れ隠しがあったように思えてそれがまた微笑ましすぎた。
(オケの皆さんからも幸せな笑い声が聴かれた)

改めて惜しみない拍手が送られる。
角野さんもマエストロが紹介するオーケストラの方々に合わせて拍手を送っていた。

本当に角野さんも飯森マエストロも、オーケストラの皆さんも感無量の表情だった。
私達も最大の賛辞をと彼らがもう出てこられなくなるまで(笑)拍手を送り続けた。

終了直後の彼の声。
無事終えられたことをストレートに喜ばれる笑顔にこちらも本当に嬉しくなった。
改めて大変だったのだなと思った。


しかし。。。
また、あれ??なのである。
そしてそれは思い出す程に。

彼のアデスについてのtweet。

そう、演奏する側からしたらこの曲の難解な拍子が1番の特徴という捉え方。
そしてラボでも語られていた6分の2拍子に代表される独特の拍子の表記。

それらは今までの楽譜表記では表せられなかったグルーヴ感が譜面に書かれていると。
これがこの時までのこの曲の鑑賞ポイントだと信じていた。(だってかてぃんさんもそう説明して下さったし。。笑)
さらにTwitterのフォロワーさんご紹介の記事によれば、アデスがガーシュウィンへの思いを込めて書いた協奏曲との事。
クラシックに取り入れられたJazzのようなグルーヴ感。
ノリ。
演奏前は私はそれを主体に楽しもうと思っていた。
グルーヴ感と言えば角野さんの右に出るピアニストは居ないとの認識からだ。
何なら演奏すれば勝手にそのグルーヴが出てきてしまうのだろうとまで思っていた。

しかし公演終了後、フォロワーさんと話してて気付いたことがある。

そう言えば私はあの曲でノッてない。

リズム感に自信があるわけではないけど、私が音楽を楽しむ1番の要素はノリである。理屈とか音楽性が分からない私にはそれが1番受け入れやすいから…。

思い出せばその後の惑星(「ホルスト」)では明らかに自然と体が揺れ、拍子さえ取ろうとする自分が居た事を思い出す。

角野さん、オーケストラとのリハーサルを終えた時にこんなことを仰られていた。

こちらのtweet、私が彼のラボ拝聴後に聴いたアデスのコンチェルトの衝撃と似た感覚を覚えて嬉しく感じた。

と同時に、彼の表現がまたひとつここで変化したのではないかと推測されるのだ。

リズム以外の要素も絡み合うことで表されたアデスの音楽の世界。
それに気付かれて素直に呟いて下さる彼がまたとても素晴らしいと私は思う。

だからかわからないけれど、彼はノリは横においておいて、ひとつひとつのフレーズをとても大事に弾いていたように思えた。
逆に言うと、自然と出てしまうと思っていたグルーヴすら、彼はもうコントロール出来るのかもしれないとまで。

角野さんの生演奏を聴いたこれまでの印象は、無理に音楽を大きくしない。
何なら今まで必要だと思っていた部分を「実はなくても成立するしその方がすっきりするよ」と言わんばかりに潔くカットされていると感じる事が、聴く側への聴きやすさ、そして楽曲に対する新鮮な聴き心地に大きく繋がっている気がする。

しかもそれは私達への余白をもプレゼントして下さっているように私には感じる。

彼の奏でるクラシック音楽の不思議…来年のソロツアーのタイトル"Reimagine"の意味も気になるところ。

何よりも本当に息つく暇もない中、大一番を大成功で成し遂げられた彼は更に広く大きく音楽の世界に解き放たれるだろう。
そしてこれからもっともっとたくさんの人を笑顔にされていくだろうことが想像できる。

こんな弾丸ツアーが叶うことはそう暫くはないけれど、彼の音楽や考えに触れて喜びを頂ける機会はこれからもきっとたくさんあるはずだ。

僅か20分のコンチェルトの為に突き動かされて一番時間がかかる県から訪れた東京はやっぱりとても楽しくて、そしてその20分が、持ち帰ってからも私の中でずっとずっと幸せのバブルを弾けさせてくれている。

そして今日入ったお知らせはこの感動が近々ラジオで聴けるとのこと!!

これは是非もう一度聴かねばですね。

ここまで長くなってしまいましたが、読んでくださりありがとうございました!!
飯森マエストロ、パシフィックフィルハーモニア東京惑星 ホルストについては後日!!