見出し画像

女ひとり、安達太良へ

生きていて初めて、世界にひとりきりだった。
そんな去年の夏の、とある1日の話。

去年の夏休み、私はひとりホームから東北新幹線に飛び乗った。向かう先は、福島の安達太良山。深田久弥による日本百名山にも選ばれた山の1つだ。
コロナ禍で家にいてもろくに出かけることが出来ないので、それならば人に会わない場所、誰もいない場所に行こうと思った。

本数の少ない電車とバスを乗り継ぎ、登山口までたどり着く。土日はロープウェイのある登山口にはバスが出ておらず、唯一バスのあった登山口へとたどり着く。
このとき、3時間に1本しかないバスの時間を間違えてて、既に昼を回っていたので、当然他の登山客なんていない。

ただ避難小屋で宿泊予定だったので、どうにか間に合うだろうとたかをくくり、歩きだした。

登山口を入るとすぐにスキー場が目に入る。
もちろんこの時は8月なので、雪はなく、雑草が生い茂った中にリフトが見えるという新鮮な光景。今回はこの開けた坂を登っていくわけではないので、スキー場を横目に針葉樹で覆われた森へ入っていく。

夜露のせいかドロドロになった土の上を進み、足の幅しかない細い丸太の橋をソロリソロリと渡り、もののけ姫に出てきそうな一面苔に覆われた水場を越える。息が上がり、ふぅ、と立ち止まるとと、途端に両手両足に10匹ずつくらいの蚊が止まるので、慌てて歩みを再開する。

スタートは夏のスキー場、新鮮だ
登山道はすぐに泥濘んだ森の中へと変わる

歩いても歩いても、誰もいない世界。
自分の息づかいしか聞こえない世界。

薄暗い静寂な森を抜け、クマが出ないか怯え、開けた場所に出るたびに「ここにテントを立ててしまおうか」と考える。トンボの世界に迷い込んだ?と錯覚するような道がいくつもあった。

少し臭い川の水を飲んで、人の通る道なのかすら怪しいほどに生い茂った道を、顔を手で多いながら通っていく。草花についた雫で全身はびしょびしょで、通り雨が追い打ちをかける。

もののけ姫を彷彿とさせる水場
トンボの世界に迷い込んだような道
植物が生い茂り、道がどんどん見えくなる

木々の奥から鳥の鳴き声が聞こえ、
大きな大きなオニヤンマが空を横切った。

ようやく少し稜線が近づいてきて、景色が見えるようになった道を歩いていると、心に思考する余裕が生まれてしまい、とはいえ不安や疲労から生きてる意味などについて考え出してしまいまい、1人で大号泣をしながら歩いた。別の登山者が来たら、ぎょっとするだろうなと思いながらも、心が求めるままに泣き続けた。

このまんま生きて帰れるのかとか、なぜここにいるのかとか、そもそもなんのために生きてるのか、とか、思考の中に迷い込んだらそこからどこまでも続いていく。

景色が少し開け、小鳥の声も聞こえる
通り雨のあとの透き通った空

なかなか目的地にたどり着かない心と体と、急かすような空のピンクと強い風。
小鳥の鳴き声の聞こえる岩の道を進み、身長より高い笹のトンネルをくぐり、岩を登り、振り返ると薄花色の空を背に箕輪山のシルエットが美しい。

日が傾き、美しく染まりだす空と箕輪山の斜面

そこから少し岩を登ると、ようやく避難小屋が姿を表しホッとするけれど、同時に稜線のため嵐のような強風が吹き付ける。
避難小屋は、広くて立派な小屋だった。重いドアを開け、ひどく疲れてしまったので持参したワインやおつまみにも手を付けずに、inゼリーだけ飲んで寝袋を広げ、吹き荒れる風の音を聞きながら、眠りについた。

翌日は目覚ましもかけていなかったが、目を覚ますと空がうっすら明るくなりだしていて慌てて飛び起き、ご来光を臨んでから二度寝した。

お世話になった避難小屋
雲海からのご来光
振り返ると染まる磐梯山(翌日登りました)

朝はすこしゆっくりめのスタートをしたら、ここに来てようやく私以外の登山者に出会った。

私以外の誰かがいる。そんなごく当たり前のことにひどく安心し、胸を撫で下ろす。その人は、まるで登山者ではないかのような身軽な服装でスタコラサッサと先へ行ってしまった。

2日目は気持ちが軽くなり、しかも良い天気だったのでたくさん自撮りをしながらのんびりと山頂を踏んだ。火山の噴火のあとは迫力満点だったし、夏色の緑がとても気持ちよかった。

火山の噴火のあとの沼ノ平
振り返ると避難小屋
雲が流れてきて急に景色が変わる
山頂では真っ白だった(この後また晴れる)

山小屋の温泉に寄ってから下山。
最後はバスを逃しそうになり、全力疾走。最終バスではないけれど、逃したら次は3時間後なので恐ろしすぎて、1時間のコースタイムを30分に巻いた、、、笑😂

夏の安達太良山はどこを歩いても美しい山だったし、五感で色々なことを感じ、考えさせられた女ひとりの山歩きでした。

山小屋で硫黄臭い温泉に浸かった
とても気持ちよかった!

ありがとう、安達太良。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?