見出し画像

図書館がつくる、幸福度を高める社会

司書になってもうじき2年。今後の方向性について書いてみます。


1.まちづくりと図書館づくりのいいとこ取り

「まちの魅力を知り、これからのまちづくりをみんなで考えるプラットフォーム」として図書館を育てたい。この思いで活動をしてきました。
ところが図書館畑で育った司書さんからはまちづくりに偏るのは違う、といった視線を向けられることもあります。何とか両方の考え方を結ぶスタンスがないかと考えました。

図書館的な考え方とまちづくりのいいとこ取りをした中道の立ち位置。具体的にはどんな視点で、どんな取り組みができるでしょうか?

キーワードは、アイデアをもつ人を育てることです。

2.ミクロなまちづくり・地域おこしの限界

2-1.吹田や明石だけ潤う!ではいけない

まず強調したいのが、自治体単位ではなく、近畿ブロックや日本、世界単位での視野をもつこと。

まちづくり、というと宇治市など個々の行政区分の中で住民団体や行政が地域おこしをするイメージがあります。

  • 現金給付などの子育て支援

  • 地場産業のPR

  • 企業誘致

  • コミュニティカフェづくり

などがそうですね。僕の身近なところでも、吹田市や明石市は子育て支援策で人口が増加し、商業活性化やにぎわい創出がもたらされています。

ところが、こうした自治体単位でのまちづくりは人口という「限られたパイの奪い合い」になる傾向もあります。1つの自治体が元気になったからといって、他の自治体が割りを食っていては日本の中で足の引っ張り合いをしているようなものです。

まちづくりを超えた「社会づくり」のプラットフォームになるのが図書館です。

2-2.持続可能な社会づくり~ミクロからマクロな視点へ

あなたの街で育ったアイデアが、日本・世界を元気にする

社会が発展し、誰もが幸せに暮らせる国になるには独創性のある人材育成が必要です。生まれ故郷を出て戻ってくることがないとしても、ふるさとで学び育つなかで身につけたアイデアが回りまわって地元に潤いをもたらすこともあります。

  • パティシエになり、宇治茶を使った製品を東京や海外で広める

  • エンジニアになり、安い経費で公共交通を維持できるシステムを開発する

  • 写真家になって宇治市の隠れスポットや食をSNSや本で発信する

こんな方法でも結果として宇治市が潤えば万々歳ですし、場合によっては日本全国が儲かることにもなりうるわけです。
なんとなく日本が停滞している、なんとなく景気がよくない…こんな空気感の今は、世界を相手に新しいアイデアで挑む人材を育てるチャンスにもなるでしょう。

宇治市に住む、宇治に愛着を持つ関係人口でいることも大事ですが、「宇治で育ったから世界を変えるアイデアを生み出せた」と思い出してもらえる街であってもいいなと思います。

2-3.中心でも辺境でもない、ちょうどいい空間

実は挑戦しやすい立地です

ちなみに我が宇治市、新しいことに挑戦するにはなかなかいい立地です。

Iターン人材が地域となじめずに短期間で去っていく事例、いっとき話題になりました。思い切って新天地でチャレンジするにも勇気がいるしリスクもありますよね。顧客が少ないとアイデアの還元も限定されてしまいます。
かといって大都会の中心地で事業を始めるのも、顧客は見込めますが地代は高いし競争相手も多いです。

宇治市は都会でもなく、かといって田舎でもない。京都や大阪からほど近く、高速道路を考えれば中京圏にも近いちょうど真ん中にあります。

産業振興会館にあるうじらぼでも、スタートアップや起業を目指す人向けの支援をしています。京都と言えば保守的なイメージもありますが、京都市より宇治市は、古いものにプライドをもちつつ新しい挑戦も受け入れる風土があるのではと思います。

3.人を育てる図書館サービスとは

新芽から人を、アイデアを育てる

図書館サービスにもいろいろありますが、特に赤ちゃんから現役世代までを対象にしたサービスに力をいれるべきだと僕は考えています。

3-1.本とつながる(1階部分)

就活で島根県立図書館にインタビューした際、ビジネスやまちづくりに情報を生かす分野に力を入れては?と質問したところ、担当者の方から「そのためにも子どものうちから本に触れることが必要」との答えが返ってきました。

当時はまだ呑み込めませんでしたが、僕も子どもの時から読書の習慣があったから、こうして本を読み、人と出会い、それをもとにnoteを綴ることができています。

宇治市を含め多くの図書館でスタンダードな子ども向けのサービス。これが人材育成の1階部分になります。

3-2.まちに愛着をもつ(2階部分)

必ずしも関係人口でなくてもいい、と書きましたが、アイデアの下地としてふるさとの歴史や産業を知ることは決してマイナスではありません。

宇治なら茶業や源氏物語、普茶料理などの文化があります。国立国会図書館デジタルコレクションや、キーワードから文献を連想検索してくれるWebcatPlus、地域経済の分析に使えるRESASなどを活用しながら情報発信し、活用を促せば、自分たちの住む街のいいところと課題を把握することができるでしょう。

宇治市図書館では、参考資料室に眠る資料を展示で紹介することで、スモールステップから活用を促しています。

3-3.何かやりたい!アイデアの後押し(3階部分)

図書館学を履修していると、乳幼児・児童サービス、ティーンズへの読書支援、高齢者サービスなどがある一方で、大学生~社会人向けのサービスがないことに気づきます。この世代をしっかりサポートしていくことで、10年20年かけて日本を、世界を変えるアイデアを育てることになります。

「ビジネス支援サービス」が一部の図書館でなされていますが、就活本や経済統計書を置いてるだけのところも少なくありません。中高生の読書離れが指摘される中で、難しい分野の本を手に取るのはなかなかハードルが高い。

堅苦しく考えなくても、従来の図書展示を作る際に少し視点を変えれば、手軽に資料の活用につなげることができます。

  • もっと効率的な働き方やツールの使い方を知りたい

  • 資産運用のやり方が分からない。投資信託の仕組みややり方を知りたい

  • 料理を少しでもうまくなりたい

  • 外国の文化や歴史を知りたい

こんなことでも大歓迎。投資信託の場合、積み立て投資などをするだけに見えますが、日本経済や世界経済の成長にお金を出すことになるので十分社会づくりに寄与しています。
料理がうまくなって起業してみようかな、となるかもしれないし、外国の文化を知り、実際に旅行したことがきっかけで新しいビジネスを立ち上げるかもしれません。
あくまで手近な資料からスモールステップで読書に親しんでもらい、徐々に情報活用の幅を広げる支援をしていく戦略を描いています。

まちづくりに取り組む各部署の情報にもアンテナをはりつつ、様々な方向に情報活用の種をまいておく。できれば展示と合わせて趣旨が伝わるメッセージを出すのがいいですね。

4.具体策

理念について長々と書きました。ここからは具体策です。

4-1.大学生はコレ、新社会人はコレ

宇治市図書館では、子ども向けのブックリストや「中高生はコレ!」の取り組みでティーンズまでの本と人とをつなげる取り組みをしています。
これを延長する形で、大学生や新社会人に読んでほしい本をリストアップすれば、久しく読書離れをしていた世代が再び本とつながる橋渡しになると考えています。

僕自身30歳過ぎなので、社会人はともかく大学生のトレンドがつかみきれないところがあります。
そこで、宇治橋通で活動する京都文教大学の学生さんや、うじらぼのメンバーにおすすめ本を電子申請フォームで募ることで、アイデアの芽が一番伸びる世代と本とを、同年代の視点から結びつけることができます。

4-2.子育ち支援

子どもを育てる側からの視点はあっても、育つ側の視点にはなかなか立ちにくいもの。いろんなものに興味をもつ出発点もまた本です。
体験型の講座や調べ学習に使える本、調べ学習とまではいかなくてもいろんなものに関心をもてるような本。これは児童書担当になったら吟味して充実させていきます。

子どものころに好きだったことって案外大人になってもそのまま好きが続いているものです。根っこの部分で興味関心のターゲットを複数示すことが子育ち支援になると考えます。

子どもの頃からの教育に力を入れ、高学歴で手に職をつけた人材を増やす方向性は、北欧の「良き納税者を増やす」ことで国を豊かにする考え方にも通じるものがあります。

4-3.趣味の展示、小説・文学

これも従来からの展示や企画で幹になっているとこですね。現役世代に話を聞いていても、余暇の時間に仕事と関係ない読書を嗜む方はけっこうおられます。
好きなジャンルや作家から読書の習慣を持続させるのはもちろん、物語からでも新しい発想やアイデアは生まれるので、こうした本の良さを伝える手段にも磨きをかけたいですね。

個人的には本のおすすめPOPにCanvaの生成AI活用を始めました。短時間で複数のPOPを作成できますし、頭の中のイメージをAIがイラストや写真にしてくれるのでとても重宝しています。

https://www.canva.com/

4-4.他セクションとの連携、ツールの活用講座

これはまちづくり寄りの分野です。特に産業振興課や市民協働分野のセクション、広報、歴史、健康、子育て部門は図書館となじみやすいです。
上記でふれたRESASなども機能の割りに使いこなせる人が少ないイメージがあるため、図書館やNPOでスマートフォン講座の延長のような形でできないか挑戦してみます。

5.アイデアを生み出す世界市民を育てる仕事

世界市民を宇治から育てる

これまで西粟倉村や豊岡市竹野地区、高島市などでかかわったローカルベンチャーの方々は、それぞれ独自のアイデアでビジネスをされていましたし、苦労はしていてもアクティブにやりがいを持って動いていると感じていました。

そうした人がそれぞれの地域に増えることで、地域経済は元気に育っていきます。
もっといえば、地域で培ったアイデアをもとに域外も含めた広い市場に打って出る、企業に入って新しいシステムやツールを開発し、全国や世界に広める人材が増えるほど、日本の先行きは明るくなるでしょう。

固定的な考え方から脱し、働き方を変えること。小さな行政区分にこだわらずに暮らしを豊かにするビジネスを生み出すこと。そのために図書館司書として、子どもから現役世代まで、前川恒雄さんモデルの図書館的な考え方を包摂しつつ、まちづくりを超えた「社会づくり」の考え方で図書館づくりを進めていきます。

日本の人口は減っているけど、世界全体の人口はまだまだ増えています。国境を考えなければ活動の舞台はどこまでも広いです。
広いフィールドで活躍する人財が生まれる場所。そんな宇治市をみんなで育てていきましょう。


この記事が参加している募集

ふるさとを語ろう

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?