59冊目: 地球の景色
本を頂いたので、ありがたく読ませていただきました。建築家の人が書いた本をこうしてがっつり読むのは初めてです。
結構分厚い本で始まりは2014年から、藤本壮介さんが見た景色、そしてそこで感じたことなどが述べられています。
地球の景色
アフリカ大陸の「喜望峰」
岩山と低い植物の景色が広がる南アフリカの喜望峰で波に洗われた巨大な岩の塊を見て、建築と自然の差を考えた。
自然は壊れ続け、変化し続ける。それに対して、建築は完成しなくてはならない。
人工物はある完成形を持たざるを得ないという意味において壊れることが許されていない。
ベルリン
ベルリンの街は緑に溢れている。
逆にイタリアの街には緑はないそう。
これを藤本壮介は「イタリアの街は緑がなくても快適だが、ドイツの街は緑がないと成り立たない」と解釈した。
都市のスケールが人に寄り添っていれば、そこに緑を持ち込む必要はない。逆に都市が漠然としていれば、人と都市の間を埋めるように緑を持ち込む。
著者が影響を受けているもの
物理学
物理学への知見があるからなのか、本書でよく使われる言葉がある。例えば、共鳴やメタモルフォーゼ、エーテルや次元など、なかなか理解が難しい表現も多かった。
本書で面白かった箇所
映画と建築
UCLAの建築を出た学生の中でも優秀な学生はどんどん映画産業に就職するようになっているそう。建築の素養とセンス、コンピューターを操る技術を持つ人が、映画の中、特にSF映画では地球の常識など無視して、完全なる自由を与えられる。そのとき、人の想像力はどこまで広がるのか。
この問いは面白いと思う。今の常識が未来にもそのまま当てはまるとは限らないし、だからこそ今から想像力を解放して創造することには十分価値のあることだと思う。
思考について
この言い分が正しいかどうかは分からないけど、本書を読んでいると藤本壮介の頭の中は忙しそうだと思う。常に建築のことを思考し、思考しすぎた結果、少し思考に偏りや癖、傾向がある。
私は思考停止推奨派なので、相容れないと思いつつ、そういう考えもあるのだなと思えたのが面白かった。
建築と地震について
藤本壮介は、自身がデザインしたブダペストのHouse of Musicを訪れた際に「素材や空間がどっしりしている」と感じたそう。そしてそれは、ペラペラでいて、重々しくない。
それは地震のある場所とない場所で立つ建築の決定的な違いかもしれない。
地震のある日本の建築は全てが揺れ動くことを前提に作られている。一方でヨーロッパなど地震のない国では、様々な納まりがただ素材が組み合わさっているという素直さと安定感がある。
この箇所は写真では分からない建築のオーラというか存在感というか、感覚的なところを、現地で実際に見て感じとって表現されているのでなんかしっくりきた。
美しい街の5原則
常に自然と豊かに関係している
自然にできた地形と人口の構築物が合わさったことで他にはない階段の多い都市がドゥブロヴニクにはある。
これによって地形に守られている感覚や遠くまで視界が伸びる景色が広がり豊かな空間となる。小さなスケールから大きなスケールまで有機的に関係し合っている
人の生活がある
日常の生活が生む乱雑さはデザインされたものだけでは生まれてこない。新旧の共存
外観
表現が独特で理解できないことも多くあったけど、きっと世界中を飛び回って見た景色の多さから導かれた原則なんだと思うと、興味深い。
インテリアとしての建築
スイスの事務所とコラボした際に、プロジェクトの進め方に大きな違いがあった。スイスの事務所では、建物のボリュームとマテリアルからスタディが始まり、著者は内部空間から検討が始まった。
そしてスイスの建築家はひたすら延々とボリュームのスタディをしていて、一向に内部のプランが出てこない。
日本では建築物を境界として内部と外部を分けていて、スイスでは都市全体を壮大な内部として、丁寧に建築を配置している。
この文章を読んでいる時、確かに大学でヨーロッパ出身の教授のスタジオをしていた時に都市とボリュームのことを強く言われたのを思い出して懐かしくなった。
感想
特に面白かったのは藤本壮介が旅した記録をスケッチと共に記している箇所や実際に訪れた建築と、その時の感情を書いてある箇所。
建築は写真で見ても分からない凄みがあるからこそ、実際に生で見た人の感情を知ることができるのは読んでいて面白いし、行ってみたい場所がどんどん増えていく。
逆に思考の整理のために書かれたような文章はまとまりがなく正直読みにくい。著者の思考や思想が強く出ているので、藤本壮介という建築家に興味があれば読んでいて面白いと思う。
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