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一人酒

 一人酒もいいものです。
 簡単なつまみを用意して、後は、気楽に動画かなんかを見ながら。
 そんな時、ふと頭に浮かぶのが、こんな光景だったりします。
 ほんのり酔ってきたら、もう、いい感じの宴会気分ですね。

  大き目の食卓を埋め尽くすように、色とりどりの料理を盛った皿がずっしりと並べられ、シャンデリアの光にキラキラと輝いている。
 どこかしら懐かしい光景に出会ったときのような気がして、ほんわかと美味しい匂いがそこかしこに満ちてきた。
 ああ、確かに、あのデパ地下の総菜売り場をそのままワープさせたみたいだ。熱気と幸福感がぐるぐると瞬きしている。
「さて、何から手をつけようか」
 男の無邪気さが場を和らげていた。
 熱々のスープは少し冷めかけていたが、深い味わいで心を溶かしてしまいそうだった。
「美味しいね。やはり、気心の知れたひとと一緒に食事をするのは、最高のご馳走だ」
 その言葉に偽りはなかった。
 同じものを等しく分かち合うことは、狩りの時代から最も大切にされてきた儀式のようなものだから。
 それが互いの絆を再確認し、ともに戦い、ともに生きることの誓いでもあったのだ。
「ああ、もう十分ですわ」
「そうおっしゃらず」
 デザートには、十三種のスパイス替わりのフルーツの盛り合わせとケーキやタルト、パフェ、マカロンなど、多彩なスイーツバイキングが用意されていた。
「やはり、締めは、ワインよりもシングルモルトがいいね」
 男の顔が輝きを増し、目が生き生きとしている。
 
 今夜のモルトは、昼顔のように、少し酸味が効いている、そんな気がした。
 それとも、ペパーミントの残り香か、寝雪に埋もれた薔薇の花か。
 女は、高精細の液晶画面にボルドーの香気をしどけなくくゆらせていた。

 すると、このあたりで、夢見心地はさらりと消えてしまいます。
 冷蔵庫の缶ビールもどうやら底をついたようで、後は、おやすみを言うだけです。
 独り寝は少しわびしい気もしますが、誰に気兼ねすることもなく、コタツの中にもぐり込んでしまえば、もう、それで今日の任務はすべて完了です。
「皆さん、おやすみなさい」
「いい夢を見ましょうね」


 

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