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詩集 晩夏香


   傘

 荒れ果てたわたしの草原にも
 それとなし風は吹いている

 砂丘のまんなかには
 ゆうべ吊るされたばかりの月の遺骸が
 青い闇の壁に圧し拉がれ黄色く滲んで見える

 罅割れた湖底を掘り返す
 好色な記憶の尖兵たち
 わたしは修復不可能な旗をそれらの港みなとにひるがえし
 一切の敗北を認めようとするのだが

 風はそのまま吹きすぎる
 痛罵の唾を吐き棄て呵責なき専用貨車に詰め込まれ
 わたしはひとり荒野に連行されそこで放置される
 その夜の夢の中で獅子と女道化師がまぐわゐを始め

 けさも痛いほどの未成熟な眠りの反動で
 彼女は不機嫌な夏の朝食を強いられる
 彼女の中にもそこかしこ風は吹いている

 風は倍音で共鳴すると聞いたことがある
 自然は必ずしも裏切らない
 戦いはすべて延長戦へと雪崩れ込み
 風はそこにも吹いている

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