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ドラマ劔 その7 秘密の花園

 彼岸とは、この世とあの世との離隔を越えようとする悲願の花なのか。

 テレビドラマは最終回を録れ!
 最終回は、すべての伏線が回収され、テーマ(主題)がくっきりと明示され、謎めいた謎が解かれ、事件っぽい事件が解決する(はずだ)。
 癒し、慰め、赦し、励まし、歓喜、悲哀、流石に怒りと嘆き、落胆と失望は(業界では)禁句だろうが、兎にも角にも、見事なまでに大団円が用意される。新たなシーズンの再来を予告して終わる思わせぶりなものもときにはあるが。
 名残りを惜しむ間もなく、余韻を存分に楽しむこともできないまま、エスカレーターのように、次なるシーズンへとドラマ世界は進んで行く。
 散る花とて実をつけ、実を落とすまでは、花は咲かない。
 時分、時分に、花は咲き、花は散る。
 されど、季節は時を味方に、季節の花を変えていく。季節を怨むわけではないが、別れの季節に、心はそぞろ。
 記憶に深く刻まれるドラマは、そんなに多くはないだろう。
 今という時世と切り結び、もがき、そこから、新しい景色、見たことのない風景を切り拓く、そんなドラマに出会えたなら、自らの幸運に感謝しなければなるまい。
 見逃したドラマ、読み落とした本は、たくさんあるに違いない。
 いつか、あの時代を思い起こすときは、その手立てに、録画した最終回はなってくれるかもしれないから。
 それまで、無事保存できるかは、保証期間、賞味期限と相談だが。

 韓流で記憶に残っているドラマは、「シークレット・ガーデン」 ハ・ジウォンとヒョンビンとの共演、魂の入れ替わりがもたらすドタバタ恋愛劇っぽかったが、映像がお洒落で、センスの良さを感じるドラマだった。劇中流れる音楽も、限りなく流麗で、繊細、かつ、優美だった。
 残念ながら、冬ソナは、社員旅行のホテルで小半時ほど見たが、特に、続きを見たいとは思わなかった。酔っていたせいもあるだろうが。
 「100日の朗君様」 名子役と謳われたナム・ジヒョンの演技が冴え渡っていた。世子嬪役のハン・ソヒの美しさは他に例えようがない。
 彼女が宮殿を追われた後の、その結末(ラスト・シーン)も比類なく美しいものだった。人間という存在そのものに対する信頼が芽生える、そんな思いに駆られた。

 NHK 第44回創作テレビドラマ大賞「星とレモンの部屋」を見る。
 ひきこもりの子の親が亡くなったとき、その人はどう立ち向かうのか。ひきこもっていた部屋から出ることはできるのか。
 人間の尊厳というものは、どんなに貶められようと、辱められようと、決して損なわれてはならない、すべてはその決めつけ、刷り込み、烙印、徴表(しるし)付けにあらがい、立ち向かうことから始まる、強いメッセージが、全天を潤すかのように、星の光、か細い光となって降ってくる。
 その力は、亡き人の不完全(人は常に不完全な存在であることを免れない存在)だが深い愛に応えようとする自らの愛に促されたものだ。
 ひとつ母から差し出されたレモンがみずみずしい香りを放っている。窓からは花びらが……
 胸に迫る作品だ。


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