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レモーノを射止めたのはミエルの勇気

『君の言葉がわかりたい』の主題は、恋愛ではなく、誰かと共に歩むことと、その道中で色々と気付き、学ぶことだ。
恋愛ではないとはいえ、ミエルはレモーノに性欲込みの多様で熱烈な感情を抱いている。
心身共にさらけ出せる、唯一人の特別な相手になることを、ミエルはレモーノに求めている。
それを恋愛感情と呼ぶのか、ミエルも私も決めてはいない。

ただ、一応書き留めておきたいのは、レモーノをミエルの傍に引き留めているのは、ミエルの容姿や経済力、身分、知能などの「他の人でもわかるミエルの良さ」ではない。
第三章で「レモーノと一緒に生きたい。君と一緒なら、どこでもいい。君が他の国に行きたいなら、僕も君と一緒に行きたい」とストレートに告げられた、ミエルの言葉だ。
「全てを失うことになっても、レモーノと一緒に生きたい」と言い切った勇気に、レモーノは応えている。
レモーノは、その後、ミエルの願いを受け止め、ミエルに命を捧げ、彼に降りかかる苦難の半分を自分が引き受けると神に宣誓することになる。
レモーノに「自分に命を捧げるなんて真似していいのか」とミエルが怯えるシーンも出てくるが、そもそも全てを投げ出す勢いで体当たりプロポーズをしたのは、ミエルである。

確かに、ミエルを対人恐怖症の臆病な人として設定している。
しかし、ミエルのイメージがミツバチに由来するように、愛する人のためならどこまでも勇気を出せるのが、彼の隠れた強みである。
誤解や失態を重ね、互いに罪悪感に塗れているレモーノを引き留めなくても、ミエルにはその後も出会いがあっただろうし、レモーノとの関係も運命の恋ではない。
それでも、ミエルは、レモーノと共に生きる道を進むことに、一生を賭すほどの勇気を使った。
ただ一言に、ミエルはレモーノを愛しているからだ。
ミエルとレモーノの信頼関係は、愛と勇気と努力で築かれている。
人間が最後に縋るのは、結局、その三つだ。

この世界には、80億もの人がいる。
恋愛に時間を使わずとも、誰か一人に絞って、心身をさらけ出し、一生を賭すような勇気を振り絞らずとも、寂しさや孤独を感じずに暮らすことができる。
それでも、私は、ミエルのような勇敢な人間が描きたかった。
ミエルには、試練と苦痛と共に、愛と勇気と努力を与えた。
一人は寂しい、傍にいてほしい、自分とこの世で唯一つの関係を築いてほしい、その気持ちを抱き、相手に伝えることは、単純なことであるのに、多くの人は「理」の文字のつく金槌で粉々にする。
理屈、屁理屈、合理性、理性、理由諸々の理を使って、人と寄り添い、同じ生を歩んでいく道を否定することは、いたって簡単なのである。
そうして、一人でも生きていける、一人でも楽しい、誰かと一緒にいたって邪魔なだけだ、自分の思い通りにならなくて不愉快なだけだと、へそを曲げ、孤独でも生きられる自分に酔いしれるのだろう。
それもまた、一つの生き方だ。

レモーノのように、人の勇気に真摯に向き合える存在と出会う可能性は、なかなかに低いかもわからないが、私もあなたも、生きているのは一度きりの人生だ。
一緒に生きたいと思える相手と出会っているのなら、射止めることに全力を出し切ってみるのも、人生の醍醐味だ。
私は、『君の言葉がわかりたい』を読んだ方にも、読んでいない方にも、愛の温もり、勇気の灯火、努力の輝きがもたらされることを願っている。


🍋🍯作品紹介


使用する言語の異なる二人が出会い、共に暮らす物語です。
二人の努力と歩みを、一緒に見守っていただければ幸いです。

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製本・電子書籍配信も考えておりますので、noteの記事のご購入やキロさんのサポートは、皆様の無理のないように、応援のお気持ちでお願いいたします。

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