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医薬品業界のプロセス開発職と生産技術職の違いについて

25年度卒の学生さんが専攻真っ只中のなか、それより下の学生さん達はどのような職種で応募しようか迷っていることと思う。
私は原薬メーカーで生産技術職、プロセス研究を5年半ずつ経験しているが、それぞれの仕事内容について軽く説明しようと思う。
大学、大学院で研究している学生さんには製薬企業や原薬企業の就活で職種選択をする場合、創薬研究(メドケム)、プロセス研究、生産技術(この2つをまとめてCMCと呼ぶ会社もある)、品質管理、この4つに迫られることが多い。
私が就活するとき、メドケムと品管、この2職種にはイメージがつきやすかったが、プロセス研究や生産技術についてはネットで調べてもイメージがつきづらく敬遠してたところもあった。
この記事が多くの就活生の職種選択の一助になってくれれば幸いです。


⚫︎医薬品の開発ステージ

この記事をご覧になる方はご存知の方も多いと思うが、下記に開発ステージをしめす。


エーザイ(株)より資料抜粋

この図の探索研究にあたるのがメドケム、開発研究にあたるのがプロセス研究、生産技術、一部の品質管理業務になる。

⚫︎創薬研究(メドケム)職

ここに関しては専門外なので、あまり詳細には語れない。
大きいものでも数g程度スケールで実施する点では、大学の研究室と大きく乖離はしてないものと想像している。
新規候補化合物を見つけ出すため、HTS(ハイスルプットスクリーニング)、QSAR(構造活性相関)最近などはAI創薬なども活用している模様。また低分子化合物だけでなく近年はあらゆるモダリティが候補対象となるため、これからはさらに広範かつ専門性が必要になってくると感じている。

⚫︎プロセス研究(開発)職

メドケムで汲み上げた製法をより商用な製法にしていくのがプロセス開発職の仕事です。
大きくわけると業務は下記の通り
・合成ルート探索
 -精製法の確立
 -溶媒の変更
 -特殊な設備を用いないプロセス変更
 -危険な条件、過激な試薬を用いないプロセス
 -QCDの観点で適した原料が調達しやすいプロセス
・スケールアップによる影響確認
・原料サプライヤーの調査
・非臨床実験(場合によって第1相試験)の原薬供給

では、1つずつ説明していく。

①合成ルートの確立

メドケムから上がってきたプロセスにはこういうケースがある。
・合成ルートが長い
・全て精製法はシリカゲルカラム
・ハロゲン系溶媒やジオキサンなど特化物を反応溶媒にしている
・環境負荷のかかるガスが発生する
・手に入りづらい試薬を使っている
・ハンドリングが難しい反応
このような課題を反応条件で改善できるのであれば条件検討のみ、ルートを変更したほうが良いのであれば合成ルートを組み直します。

②スケールアップによる影響確認

製造スケールまでは確認しないまでも、二層系の反応(固液反応など)、晶析(結晶を析出させること)や濾過性などを把握します。
いわゆる単工程操作(反応、分液、晶析、濾過、乾燥)の化学工学式を用いて、製造スケールの予測をし、より製造しやすい製法へと変えていきます。

③原料サプライヤーの調査

①にもつながることですが、QCD(Quality、Cost、Delivery)、すなわち安価で高品質、かつ調達しやすい原料を用いて製造できるようにしておかないと患者さんに高い薬を提供することになる、また供給不足になって迷惑をかけるということが起こります。
そこで、原料商社などを通し、原料サプライヤーをみつけてもらいます。原料によって不純物のプロファイルが変わってしまうので、少量サンプルを購入し、評価を実施します。

④非臨床試験の原薬供給

①〜③を考慮したうえで動物実験で使用する原薬をつくります。ヒトに投与するわけではないためスケールはそこまで大きくありません。

有機合成、化学工学、分析研究、安全工学、少し生産管理的な知識が必要なのでこの部署には色々なバックボーンをもつ人が必要となります。色々な人達と議論を重ねていく上で幅広い知識もつくことからすごく勉強にもなります。
製薬会社はプロセス開発部門を外注(CDMOに)する傾向にあるため、市場では重宝されている傾向にあります。

⚫︎生産技術職

主な仕事は治験に必要になる原薬をつくる仕事になります。
大きくわけると業務は下記の通り
・スケールアップ検証
・GMP対応
・治験薬製造
・バリデーション
・製造部門への移管

①スケールアップ検証

下のフローをみていただくと、非臨床試験と比べ治験には大量の原薬が必要になる。そして、治験が終わると当局(日本ではPMDA、米国ではFDA)の承認申請が終わると商用生産に入る。
プロセス研究(開発)部門でスケールアップによる影響は確認しているが、実際使う生産設備に忠実に再現しているわけではない。(攪拌羽根の位置、種類、反応缶の容量に対するプロセス液の量によっても撹拌効率は影響したりするので)
そこで生産設備にあわせたものでスケールアップ(実機のスケールダウン)検証を実施する。
(検証結果から適切な生産設備を選ぶということになる)

金沢医科大学病院より資料抜粋

②GMP対応

薬学部の学生さんなら大学一年生の時に授業で聞いたことがあるだろう。(むしろテストのために用語しか覚えていないことだと思う。)
原薬工のサイトにはGMPの意義について簡潔に示されている。

工場ではGMP関連書類を多く作成する必要があり、ここでは全て書き記さないが、3つほど例に挙げる。
・作業標準書
誰がやっても同じように作れるようにしたレシピのようなもの。論文のように簡潔に実験項をまとめ、チャンピオンデータをのせるわけではない。丁寧に書かれた実験ノートに近いイメージ。
ラボでの実験は「何℃でかけた」くらいのデータしかとらないが、製造では工程管理幅「何℃〜何℃の範囲で反応させる」を決める必要があり、その設定根拠に関するデータ取得も生産技術職の大事な仕事です。
・製造記録
作業標準書をもとに現場担当者が記録するための雛形書類。
使った原料のロット、使用量、作業の実施した時間などトラブルの時に後から原因追求しやすいような記録にしておく。
・洗浄評価に関する書類
同じ設備を使う次品目にコンタミさせないように洗浄方法と残留がないかの測定方法を決めます。
その原薬の薬理活性をもとに残留基準値を決め、現場作業者に洗浄してもらいます。

③治験薬製造

フェーズ1〜3に必要な治験薬、原薬をGMP製造します。現場担当者をうまく指揮して作る仕事です。年上の現場の方の経験に基づく意見もうまく取り入れながら、しかし理論に基づいた意見もきちんと相手に理解してもらう必要があるのでコミュニケーション能力はある程度ある方が楽かもしれません。
治験薬なのでトラブルはつきもの。GMP的な諸手続きを踏みながら、ラボで検討するのも仕事の1つです。

④バリデーション業務

これも大事な仕事の1つです。

少し難しいことを書いてますが目的についてはこの通りで、3ロット作って同じような品質を保つことができているかを確認します。

⑤製造部門への移管

前2つの職種も次工程への移管をしますが、きちんとGMP書類を残す必要があること、また、次工程は有機合成などの化学に関する学識を持ってないことが多い現場担当者であることからここでの移管は重要な業務になります。

⚫︎品質管理職

定型業務についてここでは示すつもりはありません。上記バリデーションの一貫で分析法についてのバリデーション実施業務を行ったりします。
ただ、品管の業務は医薬品、原薬を作る上で大変重要でその作った製品が出荷していいものか判断するための試験データを取得します。これを怠ると昨今話題になっている異物による健康被害問題にも繋がるところだと思います。

⚫︎最後に

正直私は学生時代のとき、新規の創薬化合物を探索できる創薬研究に比べると、プロセス研究や生産技術の仕事はやりがいがないように感じてました。私は企業のメドケムで勤めたことはないですが(創薬シーズが少ない中見つけるのは楽しいかもしれない)プロセス研究や生産技術も学問的にも奥が深く、また大学・大学院で学んだ知識も活かせるのですごくやりがいがある仕事だなと感じています。
まあ会社員である以上結果は常に求められるので苦しいこともありますが笑


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