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【AND PET】#24 別れのつらさを知っていますか?

ぼたんが旅立ちました

我が家の猫、ぼたんが2022年4月4日に旅立ちました。
 
体調が悪いようなので病院に連れていき、即入院となった翌日の夜。お見舞いから帰宅してすぐに病院から急変の連絡をもらいましたが、間に合いませんでした。死因は、免疫が赤血球を破壊して起こる「免疫介在性溶血性貧血(IMHA)」という病気。あまりに急過ぎて、病名が確定したのはその数日後、病院が外部に依頼していた血液検査の結果が届いてからです。
 
翌日の4月5日は、ぼたんが我が家に正式譲渡されて8回目の記念日。保護猫のためはっきりとした誕生日は分かりませんが、保護施設からは2010年4月生まれと聞いていたので享年12歳ということになります。
 
それから2カ月以上経ちますが、未だにぼたんのことを思うと、飼い主としての至らなさが申し訳なくて、いないことが悲しくて、涙が止まらなくなります。病気や葬儀のことなども文章に残しておきたいとは思うのですが、しばらく時間がかかりそうです。

斎場で見上げた空は、前夜の雨が嘘のようにスッキリと晴れていました。

ペットロスがこんなにつらいとは

ぼたんが旅立ったその日から、時と場所を選ばず涙が出たり、夜中に目覚めたり、歩いていて突然足が踏み出せなくなったり、胸に痛みが出たりと、これまでにない心と体の変調がありました。
 
C’MON C’MON」という映画を観た時は、「一緒に寝ていい?」とベッドにやってくる子どもの姿がぼたんと重なって泣きました(泣くようなシーンではない)。音楽を聴けば米津玄師の「Lemon」の歌詞に号泣です(そういう歌ではない)。ペットロスがひどいだろうとは薄々思っていましたが、まさかここまでとは……。

4月下旬、近くの公園で見頃を迎えた牡丹の花。同じ名前の花というだけで泣けてきます。

ペットを失ったダメージによる心身の不調を「ペットロス症候群」といい、主な症状には次のようなものがあるといわれています。

  • 眠れなくなる

  • 食欲をなくしたり食べ過ぎてしまったりする

  • 激しく落ち込む

  • 孤独や不安を感じる

  • 何事にも意欲や興味を持てなくなる

  • 胸苦しさや息苦しさを感じる

  • 胃や胸、頭などが痛む

  • 疲れやすくなる

  • 自分を責めてしまう

深刻な症状が2カ月以上続くなら医療機関の受診を考えた方がいいとされますが、私自身、徐々に回復はしているものの未だに続く症状もあります。果たして2カ月程度で治まるのが普通なのでしょうか。

ペットロスへの医師介入に関する論文(※)によると、医師の介入を要するリスク群と判定される人の割合は、死別直後で59.5%、2 カ月後で56.7%、4 カ月後でも40.7%にのぼります。その論文では、その人の年齢やペットとの関わり方、家族関係などが影響することも指摘されており、この割合だけで「ペットロス症候群は2カ月で治まるものではない」と判断するのは早計でしょう。とはいえ、つらい状態が長く続く人が多いのも事実です。
 
(※)ペットロスに伴う死別反応から医師の介入を要する精神疾患を生じる飼主の割合. 木村祐哉, 金井一享, 伊藤直之, 近澤征史朗, 掘泰智, 星史雄, 川畑秀伸, 前沢政次. 獣医疫学雑誌.2016;20(1):59-65

別れを乗り越えるプロセス

泣いてばかりいる私に、愛猫を失った経験をもつ友人たちがかけてくれたのが「日にち薬」という言葉でした。瀬戸内寂聴の説明を借りれば、「歳月が薬になり、時間が心の傷を癒やしてくれる」という意味になります。
 
別れを受け入れ、乗り越えるプロセスとして有名なものに、心理学者のフロイトが提唱した「喪の作業(仕事)」があります。精神科医のボウルビィがその過程を4段階に分けて整理したものによると、ショック状態になる(第1段階)、現実を認められず失ったものを取り戻そうとする(第2段階)、現実を受け入れ絶望や失意が大きくなる(第3段階)、思い出が肯定的なものとなり立ち直ろうとし始める(第4段階)というプロセスを経て、人は前に進むとされています。
 
誰もが同じプロセスを踏むとは限らないでしょうが、別れによってもたらされる様々な感情に向き合いながら時間をかけて乗り越えていくというのは、日にち薬にも通じると思われます。ぼたんを失った当初は、悲しさと寂しさ、自分に対する怒りしかありませんでした。でも日が経つにつれ、ぼたんに感謝する気持ちがだんだんと大きくなってきています。「喪の作業」的に言えば第4段階に入ったとみられますが、これも日にち薬によるものなのでしょう。
 
お見舞いに行った時、酸素室にいたぼたんは私の顔を見るなり立ち上がって、「ここから出して」「家に帰りたい」というように大声で何度も鳴きました。それを「元気そうだ」などと思ってしまい、最期に側にいてあげられなかった私は救いようのないバカですが、そんな飼い主でも助けを求められる家族と認め、一緒に暮らした我が家を帰りたい家だと、ぼたんは思ってくれていた。
 
帰っておいでと毎日呼び掛けている一方で、もうぼたんには会えないことも分かっています。そう遠くない未来に私はまた猫と暮らし始めるでしょう。「こんなにつらいなら、もう猫とは暮らさない」などとは100%思わないくらい、ぼたんと過ごした日々は幸せでした。
 
ありがとう、ぼたん。

文・横山珠世
女一人と猫一匹の暮らしから人と猫が共に健康で幸せに生きていく術を考える、株式会社ジャパンライフデザインシステムズの編集兼ライター。『セルフドクター』や書籍などの制作・発行に携わる。


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