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瀬尾夏美 「声の地層: 災禍と痛みを語ること」

ツアーが終わり、11月に瀬尾夏美さんから届いていた新刊「声の地層: 災禍と痛みを語ること」をようやく読むことができた。 能登半島地震の渦中にある今、ぜひ手に取って頂きたいことと、内容が素晴らしくて140文字では足りないので、微力ながらこちらに書評めいたものを残しておきます。 瀬尾夏美さんとは2011年、東日本大震災の年に、東北で出会った。 彼女は、創作上のパートナーで学校の同級生でもある映像作家の小森はるかさんと二人で、僕の目の前に現れた。 おそらくそれは演奏現場だったと思

数字で簡単にわかるニッポンの少子化問題

本記事は、日本の少子化の現状を「数値に基づいて」より少しでも多くの人に知ってもらうことを目的に、少子化を専門とする人口学者を含む3名のメンバーの共著で書かれています。 はじめに2023年の12月、 政府は「こども未来戦略」で少子化対策の強化を打ち出しました。岸田首相は2030年(代)までを「少子化対策のラストチャンス」として、対策が議論されています。 ニュースやメディアで、日本は深刻な少子化社会だという情報に触れることがだいぶ増えてきたかと思います。少子化が起こっている、

辛気くさいメリークリスマス、あるいは今、つらい人への讃歌

先斗町にお気に入りのオーガニックワインバーがある。まだ訪れたのはわずかだけれど、無事に客として認めてもらえて以来、どうにもこらえきれない辛さがあると思い出すのはその店だ。 こぢんまりとした店内でワインをいただきながら、「せや、パンこねとかな」と忙しなく働くママさんを見ていると、分かりやすい慰めがなくとも、なんとなく気持ちがほぐれてくる。こんなありがたい経験をするとき、たくさん飲んで売り上げに貢献できる体質でよかったな、などと思う。 「都会は冷たい」という人がいる。帰りに寄

弱く、もっと弱く

 7割箱に詰められたくらしが残った3割のくらしを際立たせている6月の部屋でこれを書いている。旅に出たら旅に出る前のことは二度と書けなくなるから。  2018年3月に越してきて、京都でのくらしは4ヶ月の途中下車もあったが5年になる。大阪にもなんだかんだ5年くらいいたので不思議な気持ちだ。そうか、実家を出てから10年なのか。この間に暮らした家は実家以外3つ。置かせてもらった職場は6社。2010年の終わりから本づくりを始めて12年と半年、今月はじめてわかりやすく躓いた。結構頑張っ

素人がちいさな出版社を立ち上げるとき役に立つ本の紹介

ふたり出版社を起業して7か月経ちました。すごい。正直半年で潰れるかもと思ってました。なんとまだ生きています。赤字だけどね…。 今回は仕事の役に立った本を紹介してみます。ぼくはマジで商業出版のやり方も流通の流れもISBNも決算も、本当になにも知らない状態で始めて、しかも知り合いに出版社の方がいるとかでもなかったので、これらの本にはとても助けられました。 起業する前は「そもそも何を読んで勉強すればいいのかすらもわからない」という感じだったので、この記事がそういう方のお役に立て

頼りなく外へ出る|まちは言葉でできている|西本千尋

唐芋通信  記憶が確かであれば、子どもが2歳になるかならないかの頃、近所に住んでいた友人が、「奥田直美さんという方がね、編集していてね」と言って『ちいさい・おおきい・よわい・つよい』(『ち・お』)という育児書を見せてくれた[*1]。 「直美さんは、京都の西陣でね、ご夫妻でカライモブックスっていう古本屋をやってらして。直美さんが石牟礼文学に親しいことからね、カライモなんだって。カライモは、ほら、熊本とか、南九州の方言でサツマイモのこと!」「西陣で、カライモブックス、そうな

「庭文庫」さんが泊まれる本屋になりました!

4月最初の土曜日、恵那市にある本屋「庭文庫」さんから「ついに泊まれる本屋になりました〜」という連絡をもらったので、さっそく行ってきました! 今回はクラファンのリターンということで宿泊させて頂きましたが、振り返ると「最高!」の一言しか出てこないお宿でした。 一日限定2組ですので、ぜひ皆さまお早めにご予約ください◎ 庭文庫さんでは夕食の提供はなく、また近隣に飲食店やスーパーもありませんので各自でご準備が必要です。 恵那駅の徒歩圏内にお店はたくさんありますので、食材を揃えてから

手を伸ばせば届きそうな幸せこそ限りなく遠い

晴れたあたたかい春の午後、満開の桜の下で、「死ぬなら今だ」とはっきり思った。別に生きていたくないわけではない。悲しいことも苦しいこともない。ただ、もし自分の命が終わるのだとしたら、この景色の中で死ぬのが良いなと思った。だって最高じゃん。こんな絶景の中で笑って人生の幕を閉じることができたなら、まさに卒業します!って感じじゃん。久しぶりに、たしかな望みを持った。 春に死にたくなる人が多いと聞いたことがある。五月病なんかとも関係があるのかもしれないが、詳しいことはわからない。春の

赤信号と猫の店

地元の市街地の車線も信号機も多い国道沿い。少し長めの赤信号のおかげでちょっとした楽しみをみつけたのは2年ほど前。 今ではそこの赤信号でひっかかることを期待しながら仕事帰りの車を走らせている。 そのお店は白い二階建てのつくりで、色あせた看板に店名、日用雑貨、文具などと大きくかいてあるのだが、外から見る限り商品らしきものは奥の方に少しだけしかない。 お店が閉まっている日は、ひと昔前お昼のサイコロトーク番組に出ていたライオンちゃんと、その奥さんと子どもたちであろう四人家族のライオ

「東京大改造」は持続可能な開発か?|まちは言葉でできている|西本千尋

 「クレーン車だね、いま、クレーン車あったよね、大きいねえ、いっぱいあるねえ。ビルもあったよねえ」3歳になったばかりの子が目を大きくして画面を見つめている。めずらしくわたしたちは、19時半に偶然、テレビの前にいた。NHKクローズアップ現代。特集は東京大改造[*1]。「ママ、まちづくりのテレビをやるの?」「うん、そうみたいだね」6歳はわたしの緊張を嗅ぎ取ったのか、静かに画面を見つめていた。 「東京大改造~大規模開発の舞台裏~」  渋谷、「100年に1度の大規模再開発」――。

育児の勘の価値と言語化の必要性について

研究者は先行研究、先行文献を調べるのが当然とされています。 そして、それらに基づいて、事象を分析し、発見していきます。 でも、育児や家事のような分野に関しては (それ以外にも、あてはまる分野は多いと思います) 経験による知恵の集積があるにもかかわらず、 それらが十分に言語化、研究対象化されていないために 研究に活かされないのです。 特に女性が担ってきた分野は 「当然のこと」「母親ならあたり前にできること」 「女子供、つまり誰にでもできること」 とみなされてきました。 学

素敵さを、お手本にして。

こんな風に書いたら、随分暗いなぁと思われてしまうかもしれないけれど。昔から、誰かと過ごした後はいつもちょっと切ないような気持ちになります。もっと一緒にいたい恋しさとか、楽しい時間が終わった寂しさとはまた別の切ない気持ち。この気持ちについて話すのは、今日が初めてです。話してみたら意外と「わかるわかる」ってなるのかもしれないし、やっぱり「どうして?」って首を傾げられるかもしれませんね。 この日記を読んでくれている皆さんは、どうでしょうか。 私はそういう気持ちをこっそり抱えたま

パパママ銭湯について 2022

はじめに2019年8月、高円寺・小杉湯でスタートした企画『パパママ銭湯』。いま手元にある資料をみる限り、すでに500名を超える方にご参加いただいているようです。いつもご参加ありがとうございます。 どういう企画かというと、ご協力いただける東京都内の銭湯さんで、開店前もしくは定休日の時間を『パパママ銭湯』タイムとして貸切にしていただき、その時間は保育士や育児経験者、地域や子育てに関わりたいと思うスタッフがお子さんの入浴をサポートしますよ、というもの。入浴料以外は料金を取っておら

飲食店での会話が聴き取れない。

飲み会が苦手だ。 といっても酒が飲めない訳ではないし、お喋りが嫌いな訳でもない(むしろ大好き)。ただ、仕事で人が集まる場に行き、その後みんなで打ち上げに……という場面で私は迷わず「失礼します!」と退散するので、ノリが悪いと思われた(言われた)ことは数え切れず。 ここしばらくは疫病でそんな機会もご無沙汰になり、内心ホッとしている、というのが正直なところなのだけど。 ── ただ、これには自分なりの深刻な理由がある。参加したくないというか、むずかしいのだ。多くの人が同じフロ