見出し画像

画壇の明星(11)・シャガールと電気代

古本屋さんで見つけた1951-1954年の月刊誌『国際文化画報』。
特集記事【画壇の明星】で毎月一人ずつピックアップされる世界の巨匠たちは、70年前の日本でどのように紹介されていたのでしょうか。

今回は『国際文化画報』1952年(昭和27年)6月号です。

********************

2022年の東京は短い梅雨が明け、6月だというのに猛暑日が続いています。
連日報道されているのは、熱中症への注意と電力需給ひっ迫のニュース。
「電力の需給ひっ迫」なんて…発展途上の国だけに起こる問題だと思っていたのですが、現代日本の重要課題になっています。

そして70年前の『国際文化画報』にこんな記事を見つけました。

『国際文化画報』1952年6月号・六月の言葉

主婦は叫ぶ
 “衣” は少々豊かならんとするも
 “食・住” いよいよ苦しく
 いつの世にか “わが暮らし楽” とならんや。

電気代の「再、再、再値上げ」に対して、主婦連合会の奥様たちが反対の署名を募っているようです。
プラカードには
 「家庭電気料金値上げ絶対反対」
 「電気の値上げは物価つりあげのもと」
 「二度の値上げは数字のカラクリ。みんなでくひとめませう」
 「家計簿は赤字赤字。値上げは家庭泣かせ」
とあります。

それもそのはず、調べてみると…。
それまで電灯1kwhあたり11銭であった電気料金は、地域割りの9電力会社体制が発足した1951年8月、7円60銭に値上げされています。理由は物価上昇と資本増加のため。そして1952年5月(まさにこの記事が書かれた時)には、1kwhあたり9円69銭に値上げされたのです!たまりませんねぇ。

それにしてもプラカードが豆電球の形をしているのが可愛いです!。
一般家庭でテレビ、冷蔵庫、洗濯機などの家電製品が浸透していくのは 1960年代に入ってからというのですから、署名を集めるのに皆の共感を得るためには電気の象徴=豆電球なのですね。
主婦連合会の皆さま。70年経っても 電気代はますます家計の負担になってきています。まだまだ “わが暮らし楽” な世の中は遠いようです。

**********

さて、今回の【内外 画壇の明星】はマルク・シャガール。

全面にシャガールらしい作品が掲載されています。どんな枠にとらわれない その描写も独特なのですが、とにかく色遣いが美しい✨です。

私のシャガール NO.1 作品は、なんと言っても2019年にパリのオペラ座(パレ・ガルニエ)で観た天井画。

マルク・シャガール『夢の花束』(1964年)

その時の感想を次のように投稿していました。

シャガールが生み出した色彩の魔法によって、天井はステンドグラスのように華やかに神々しく輝いています。そこからゆっくりと降りそそぐ光は、柔らかくあたたかく、シャンデリアをも照らすような神秘的な力を持っています。
見上げる我々はゆっくりゆっくり、夢の世界へ吸い込まれていくのです…。
『夢の花束』、素敵な命名ですね。

過去の投稿より

読み直してみると、たどたどしいながら その時の感動を素直に言葉にできているような気がします。

1952年【画壇の明星】の記事に、シャガールの言葉がありました。

「私は幻想とか象徴主義とかの言葉を嫌う。私の心の内部の世界こそ現実だ。現実の世界よりはづっと真実のものだ」

ふむふむ。シャガールは夢や幻想を思い描いていたわけではなく、天井に描かれた世界はすべてが現実であり、彼の魂そのものだったのですね。
70年前の記事から新しい発見をもらいました!

1887年に生まれて97歳まで生きたシャガールは、1952年はまだ64歳。現役バリバリの画家で、天井画『夢の花束』を描く12年も前だったの⁈。
そんなシャガールを取り上げた日本の月刊誌『国際文化画報』に拍手喝采です。

ユダヤ系ロシア人でフランスで活躍したシャガール。。。別の機会にもう少し深掘りしてみたいと思います。

**********

さて。今月号に折り込まれていた作品がこちら。

ピエロ・デッラ・フランチェスカ『十字架の森を礼拝するシエバの女王』(1452-58年)

おおーっ!イタリア初期ルネサンスの画家、ピエロ・デッラ・フランチェスカですか。通ですねぇ。
私は以前noteに投稿してから彼の大ファンになったのですが、70年前の読者がこの作品を見てどう思ったのか…。興味があります。

彼の “高貴なる単純さと静かなる偉大さ” がわかりますか?
 
**********

<終わり>

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?