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インドネシアにローソンの灯を増やせ! 異業種から転職した男が挑んだ 過去最大の出店チャレンジの軌跡

2019年7月からインドネシアに駐在している佐藤さんのミッションはインドネシアでの店舗開発。その過程でこれまでに経験したことのない数々の困難を乗り越え、2023年は店舗数を激増。現在も出店拡大を目指してチャレンジ中です。目標を達成するために必要なことや仕事の喜び、チャレンジすることの素晴らしさについて語っていただきました。

アジア・パシフィックカンパニー / 佐藤さとう 琢弥たくや
1983年、栃木県生まれ。大学卒業後、住宅販売会社や不動産・建設会社で営業を3年経験した後、2011年10月にローソンに入社。北関東開発部で6年半RFC(リクルート・フィールド・カウンセラー)として出店候補地を見つけて所有者と交渉、社内調整、工事業者調整など店舗がオープンするまでの一連の業務を経験した後、2018年3月にアジア・パシフィック事業本部に異動。フィリピン、タイ、インドネシアへ出張し、現地で店舗開発支援に従事。各事業会社へ店舗開発にかかわる組織・仕組・戦略作りのサポートを行う。2019年7月からインドネシア駐在。店舗開発マネジメント及びコンサルタントとして活動中。

インドネシアで店舗開発

──佐藤さんは2019年7月にインドネシアに赴任したとのことですが、与えられたミッションと仕事内容を教えてください。

インドネシアでのローソンの出店数増加をミッションに、店舗開発の仕事に取り組んでいます。最初は出店候補地の検討・選定から、身一つでインドネシア中を飛び回って地主さんとの賃貸交渉など、出店までの一連の業務を行っていました。そもそも知名度が低く、ローソンとは何かというブランドの話から始め、現地の人にこちらが想定した店舗イメージを理解してもらった上で店を作らなければならなかったので、責任重大でした。加えて、現地で採用したスタッフの育成やマネジメントも重要な仕事でした。これに関しては今も同じです。

直近は私自身が直接動くことは減り、出店戦略の策定や人財教育などがメインの仕事になっています。ただ、空港や駅などに出店する大型案件の場合は、現在も直接地主さんとの交渉を行うこともあります。

──現在チャレンジしていることは?

赴任した当初の店舗数は45店舗でしたが、その後コロナ禍での停滞期を経て、2021年末に65店舗、2022年末には192店舗まで増やしました。2023年度はそれを超える過去最大の出店にチャレンジしており、現時点では600店舗以上にまで伸ばしています。

最大のカギは人材育成

──その爆発的な伸びを実現させた理由は?

たくさんありますが、メインは現地スタッフの育成ですね。出店をあまりしていなかった時代は、店舗開発スタッフが5人前後しかいなかったのですが、現在は30名まで増えました。彼らに対する教育が店舗拡大の最大のカギだと思っています。

──特に苦労した点は?

現地で採用した店舗開発スタッフの9割が学校を卒業したばかりのコンビニビジネスについて全く知らない人たちなので、どこから教えたらいいのだろうっていうところから始めなければならなかったことに一番苦労しました。言語が違うので、自分が伝えたことを理解してもらえているだろうと思い込んでいて、指示通り動いてもらえなかったということも多々あります。

──それはどのように克服したのですか?

彼らに店舗開発の知識やノウハウ、テクニックについて教える前に、この店舗開発という仕事の魅力を伝えた方が良い!と気がついたのです。そこから月20日間以上、新人スタッフと一緒にインドネシア中の出店候補地を巡りながら、彼らの思っていることをヒアリングし、意見交換するのと同時に、店舗開発という仕事の魅力やおもしろさを伝えました。それからの成長がすごく早かったですね。 仕事に興味を持つことで積極的に学んだり、自ら出店候補地の物件を見に行くようになったのです。

加えて、最初に一つひとつの作業の意義や目的をしっかりと伝えるようにしました。例えば、出店候補地を検討する際、出店後の売り上げを予測するために、付近の交通量を長時間かけて調べます。その物件の前を歩いている人や走っているバイクなどの数を数えるのですが、長時間かけて数えるってかなり大変じゃないですか。単に「やってください」と指示するだけでは不平不満につながるので、最初にプロジェクトの全体像を話して、全体の工程の中で今いる地点を示すようにしました。この作業は何のためにやるのか、やらないとどのようなリスクがあるのかということをその都度、時間をかけて丁寧に説明したのです。

──「やらされ仕事」ではいつまで経っても成長しないということですね。

その通りです。キャリアマネジメントも同じで、まずスタッフに目標を聞いた上で、「そこに到達するためには、今君にはこういうスキルや能力が足りてないよね」と助言します。そして、「それらを身につけるためにはこういうことをやらなければならないよね」と伝えます。このように、仕事もキャリアも全体像を示しながらマネジメントをすることにこだわりました。

このような面談を最低でも1週間に1回、多い時は2日に1回繰り返しました。くどいと言われながらもやることによって、目に見えて自分から能動的に動くようになり、結果も出せる組織に成長していったのです。

数々の壁を乗り越えて

──店舗開発という実務の中で特に困難だったことは?

インドネシアに限らず、ローソンの出店地はどこでもいいというわけではありません。売り上げが見込めるエリアじゃなければ、出店しても意味がない。我々がインドネシアで狙っているメインターゲットは若年の中間所得層以上の人たちです。ただ、インドネシアは経済格差が大きい国なので、出店できるエリアがものすごく狭いのです。なので、まず若年中間所得層以上の人たちがどこにいるのか、エリアポテンシャルを理解するのにすごく時間がかかりました。

次に、出店候補地が見つかっても、その地主さんを探すことが難しいのです。日本の場合は不動産の登記情報は一般公開されているので、法務局に行けば知りたい土地の所有者情報は誰でも簡単に得ることができます。しかし、インドネシアの場合、登記情報が一般公開されていないのですよ。例えば、出店希望物件が空き家の場合、その近隣の家を一軒一軒飛び込みで訪問して、
「この空き家の家主さんの連絡先を知りませんか?」
と聞いて回るという探偵みたいなことをやらなければならなくて。地主さんにたどり着くまでにかなりの時間と労力を要するのです。

さらに、そこから地主さんと交渉しなければならないのですが、了承を得るのがまた難しい。一番大変なのは賃料の交渉ですね。そもそもインドネシアの地主さんって、郊外の土地であっても投資家など富裕層が所有していることが多く、交渉のスタイルも「この金額以下では貸せない」とイエス・ノーがはっきりしています。賃料の折り合いがつかず、頓挫したというケースも少なくありません。

──出店までは壁の連続というわけですね。

そうですね。でもこれまで夢中でやってきたので、自分ではそんなに大変だったという意識はありません。こうやって客観的に見てみると確かに難しい仕事だなと思いますね(笑)。

──その壁をどうやって打破して出店数を伸ばしてきたのですか?

例えば地主さんとの交渉では、一度断られてもあきらめず、何度も足を運んで話をすることが非常に重要です。その時、ローソンの社員としてだけではなく、私という一個人として接するようにしていました。また、地主さんからの質問に対してすぐに回答することも心掛けていました。こういった小さいことの積み重ねで、私という人間を信頼してもらったことで、最初は土地を貸すのを拒んでいたけれど、最終的には了承してもらったこともたくさんあります。

当初は非常に難しかったのですが、ローソンの店舗が徐々に増え、知名度も高くなるにつれて、家主さんから
「最近ローソン、勢いあるね」
と出店するのを承諾いただいたり、賃料を少し安くしてくれたりということが増えていきました。

コロナ禍でも「今できることを」

──2019年から2021年末にかけては出店数が減少していますが、やはりコロナ禍の影響ですか?

その通りです。私がインドネシアのジャカルタに着任したのが2019年7月で、2020年からコロナが蔓延しその後ロックダウンが始まりました。その時、世界でも渋滞がひどいと言われているジャカルタでも、ピタッと人も車も消えました。そういう状況なので、当然、既存店舗の売り上げも激減し、とても出店できるような状況ではありませんでした。

そんな状態が約2年間続いたのですが、心境的にはかなり苦しかったですね。自分に与えられたミッションをこなせないわけですから。俺は何のためにインドネシアに来たのかと……。私だけではなく、現地スタッフも非常に苦しみ、退職した人もいました。

しかし、何も仕事をしないと気持ちが落ちるばかりなので、出店できないものの、今できることをやろうと心を奮い立たせました。スタッフたちと一緒にあきらめずにあらゆる角度から店舗開発に必要な情報を収集し、エリアポテンシャルの調査に取り組んだり、出店候補地を積み上げたりしたのです。

スタッフたちを
「コロナはいつか明ける。今やっていることが、必ずその時報われるから頑張ろう」
とずっと励ましていました。

それほど苦しんだだけに、コロナが明けた2022年3月くらいからは、私だけじゃなくて、店舗開発のメンバーも喜びを爆発させ、楽しみながら店舗開発に取り組みました。その結果が昨年と今年の店舗数の激増なのです。苦しい状況の中、8割くらいのスタッフが残ってくれて、彼らが今すごく活躍してくれている。最初は何もわからなかった彼らが成長して、今では逆に私に意見を言ってくれたり、自ら考えて出店した店舗の売り上げが予測通りの結果になった時などは、ものすごくうれしいしやりがいを感じる瞬間ですね。

みんなが幸せになれば自分もうれしい

──これまでのチャレンジの中で特にうれしかったとかやりがいを感じたエピソードを教えてください。

私が着任してから2年ほど通訳をしてもらった方が、2022年4月から店舗開発の責任者になったことです。通訳をみっちりやったことで、店舗開発に関する全ての知識やノウハウを覚え、
「店舗開発は面白いから、通訳だけじゃなくて、店舗開発にチャレンジしてみたい」
と言ってきたので任せてみたんです。その後、急速に能力を発揮し、責任者として30人以上のチームをまとめられるようになりました。今年、店舗数が600を超えたのは、彼の業績と言っても過言ではないほどの大活躍でした。これが一番うれしいことですね。

もう一つは、今まで出店できていなかった東ジャワ地区のジョグジャカルタやスラバヤに今年初めて進出できたことです。これにより、ジャワ島全域へのローソンの出店が実現。この瞬間はすごく感動しました。何よりうれしいのは、インドネシアのスタッフの皆さんがローソンをものすごく愛してくれていることです。

実際に私もスラバヤやジョグジャカルタに出張していろいろとフォローしたのですが、現地のお客様が喜んでいることに加え、開発スタッフたちが、
「自ら見つけた土地にローソンが開店して本当にローソンで働けて楽しい!うれしい!自慢したい!」
という感じですごくキラキラ、生き生きして働いていました。その光景を見た時は思わず目頭が熱くなりました。我々のような日本の会社が、遠い地に来て、広範囲に数多く店舗を出店したことで、お客様をはじめ、店舗開発のスタッフや店舗従業員を含めた地域の皆さんに喜んでもらえたことに本当に感動しました。それと同時に、インドネシアに来て、このプロジェクトをここまで頑張って、諦めずに取り組んできてよかったと心から思いました。

──そのエピソードはローソングループの「私たちは“みんなと暮らすマチ”を幸せにします」という理念をまさに体現していますね。

実はローソンに入りたいと思った理由の一つもその理念に共感したからなんですよ。私にとっては、お客様、地主さん、家主さん、オーナーさん、従業員の皆さんなどすべての関係者に喜んでいただいたり、幸せになっていただくということが、店舗開発という仕事の醍醐味です。この想いがあったからこそ、インドネシアでも実現できたと手ごたえを感じています。

想いをもって海外に飛び出してほしい

──実際に海外駐在を経験してみて、海外で働くことのメリットとデメリットは?

まずメリットとしては、日本では経験できない仕事ができるという点に尽きます。例えば日本にいると、自分が中心となって出店戦略を決定したり、組織を作り上げるような仕事はトップ層しかできないのですが、インドネシアなどの海外に駐在員として赴任すると経験できます。もちろん困難なことも多いですが、それも含めて、日本にいたら身につかないスキルや能力も獲得でき、ビジネスパーソンとして大きく成長できます。それが最大のメリットですね。だから多くの人に海外での勤務に挑戦してほしいですね。その時、自分なりの目的や目標を明確にしておくことをお勧めします。そうすればつらいことや苦しいことも乗り越えられると思います。

デメリットは環境がガラッと変わること。特に私の場合は食が大変でした。インドネシアの料理は辛いものが多く、私は辛いものが苦手だったので、駐在当初は体調を壊すことも多かったです。今は慣れて全然平気で食べられますけどね(笑)。

──今後の目標を教えてください。

インドネシアで人をゼロから育てることに大きな喜びを感じたので、将来的にはこれまで身につけた知識やスキル、ノウハウを伝え、海外で店舗開発を展開できるような人財を育成する仕事がしたいと考えています。

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