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月と太陽の友情は存在するのか。

「無事、朝が来てくれた」と、狼男は安堵した。
彼の住む森に、今日も穏やかな太陽が顔を見せる。
朝が来ると木こり小屋で軽い朝食を済ませてから、すぐにタバコ畑の様子を見に出かける。それほど広くないが、狼男はそこが好きだった。朝日を浴びた土のにおいと、緑の力強さを感じることができるから。
それから、自分で巻いた紙巻きたばこを煙草ケースに詰めなおす。
彼が考案したシガレットペーパーは愛煙家からも好評だった。

吸血鬼は、「もうすぐ夜が来るな」と目を覚ます。
幸せの後に来る波打ち際のような静寂にはなれたが、それでも悲しみは押し寄せる。そんな永遠に生きる彼女は、表情を変えることも少なくなった。
華やかな出会いと別れでダンスをする時代は過ぎ去り、自由という檻の中で時間を吟味する日々が続いていた。
だが、それも悪くない。上着のフードをかぶり、キャップと日傘を使って住処を後に歩き出す。

ふたりは決まって夕暮れに会った。
平穏と緊張が、ひっくり返る前のオレンジ色の世界に、一息つくために。
狼男が紙巻きたばこを二本取り出す。
吸血鬼はそのうち一本を抜き出してから、夕暮れのやさしい日光に指先を出す。煙を上げて指が焼け、火が付く。
ふたりは、その指に顔を近づけ煙草に火をつける。そして、少し笑い合う。

紫煙が空に消える。
反射する光も、吹き飛ばすような風も無くなった。
ただ消える。
楽しい思い出と記憶を、彼らの心にだけ残して。

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