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『宵山万華鏡』 森見登美彦

『宵山万華鏡』
森見登美彦 2012年 集英社

わたしの1番好きな森見作品。森見ワールド全開。
学生最後の夏、これを読んで宵山に行くと決めたの。

涼やかで、どこか懐かしい夏の表情が変わるのを見ている気分だった。

暮れゆく夏の刻一刻を描き、祭りに浮き足立つ街の酔いに浸し、ときに京の都に根を巡らす異世界へいざなう。森見登美彦という人は、あぁそんな夏もあったと思い出す欠片を人の心に落としていくことがとてもうまい。

いまこの瞬間から零れ落ちていく掌いっぱいの夏の情緒、さながら万華鏡のよう。
二度と同じ彩りは現れないけれど、たしかにあったあの夏の日。誰の心にも少しのざわめきをもたらす思い出に目を細めたくなる。一瞬の夢々しい気分が永遠を紡ぐ。

手を伸ばせば夏が掴めそうなあの感覚、そういう情緒のよすがたる場所であれ。

気だるい宵山の熱気に包まれるように、物語の醸す情緒に呑まれる作品ほど尊いものはない。
古都に思いを馳せる夏は何度でもあればいい。


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