episode:0 湖は悪くない
はじめまして。
Lakeside Stories の横塚哲也と申します。
中禅寺湖好きが転じて、鱒釣りの歴史や文化、先人たちの想いを受け継ぐとともに、湖のより良い未来をデザインし、次世代に繋げていくため、Lakeside Storiesという任意組織を立ち上げました。
今回は設立に至ったエピソードをご紹介します。
最初なので、経緯も含めて長めの記事です🙇
1 自己紹介
まずは私の自己紹介をさせてください。
釣り好きが転じて、栃木の水産業を盛り上げるため県庁に入庁し、中禅寺湖の釣りと出会いによって人生が豊かなものになりました。
釣り人の人生価値を高めることができる中禅寺湖を、より良い状態で次世代に繋ぎたいと思い、Lakeside Storiesを立ち上げました。
ずっと探してきた“自分の存在意義”を見つけられた気がしています。
2 中禅寺湖と向き合う日々の中で気づいたこと
原発事故と中禅寺湖
2011年3月に発生した福島第一原子力発電所事故によって、県内全域に放射性物質が降り注ぎ、2012年2月には中禅寺湖の鱒たちから食品の基準値を超える放射性セシウムが検出。
湖の魚を食べることが禁止され、中禅寺湖漁協や地域の人々の暮らしに大きな影響を与えました。
通常は「禁漁」となるのですが、奥日光は日本のフライフィッシング発祥の地であり、中禅寺湖は“鱒釣りの聖地”と称されることから、漁協は大きな決断をします。
①先人達が築いた釣り文化を未来に繋ぐこと
②湖に釣り人を呼び、地域経済を回すこと
③東京電力の補償金に依存せず自立すること
を目標に、異例のキャッチ・アンド・リリース(C&R)での釣り解禁を開始しました。
一方で、奥日光は放射能汚染の実害と風評被害を受け、漁協や組合員は、明日の生活がどうなるかも分からない不安な日々を過ごしていく。
僕は行政として、放射能汚染の状況、生態系バランスの変化や組合員・釣り人の意識など、目の前のことを見える化し、湖の利用のあり方を漁協と一緒に模索していきました。
しかし、原発事故によって、漁業や釣りのルールが大きく変わり、課題が山積し、釣り人と漁協、釣り人同士のトラブルも増えていきました。
湖は悪くない、悪いのはひと
2014年のある日、漁協の理事会でトラブルへの対応を夜遅くまで議論した後、帰り際に越後屋の俊夫さんから呼び止められます。
「横塚さん、ごめんね。揉め事ばかりで、嫌になったでしょう。漁協のことは嫌いになってくれていい。」
「でもね、どうか、湖のことだけは嫌いにならないでくれないか。湖は悪くねぇんだ。」
この一言に魂が震えた。
湖や魚たちは何もしていない。
原発を作ったのも、事故に伴うルールを作ったのも、人間。
そして、湖の利用を巡って対立しあう人たち。
何かがおかしい。
いや待てよ。
僕も、釣り人からの苦情をたくさん受けてきたけど、話の根っこを掘っていくと、「中禅寺湖のことが好きで好きで仕方がないんです!」と訴えているようにしか聞こえない。
この熱量をプラスに変えることができれば、湖を良い方向に変えていけるんじゃないか?
明治時代から釣り文化を守ってきた漁協と
日本で最も熱意のある釣り人たち。
みんな“中禅寺湖が大好き”という共通項がある。最大の強み。
だからこそ、課題を解決し、“聖地のその先”へ進んでいけると確信しました。
3 湖が直面する危機的状況
C&Rが導入された2012年以降の主な状況変化を記載します。
これらの課題解決は誰の仕事でしょうか。
4 他人事から自分事へ
漁協と行政が課題解決を図るべきですが、対応しきれていません。
ではどうするか。
僕は、行政や漁協と連携しながら、課題解決を担う第3のプレーヤーの存在が不可欠だと思っています。
僕は、「行政兼釣り人」という稀な立場だからこそ、危機的状況に気づき、
「自分にしかできないことがあるはず。自分がやらなきゃ。」
と勝手に使命感を抱くようになりました。
そして、幸せなことに、こんな面倒臭い僕に「共感」してくれる仲間と出会い、歩み始めることができました。
「漁協が○○しないからダメなんだ」、「行政は何をやっているんだ」と他人にベクトルを向けていては、何も変わりません。
湖のより良い未来を願うなら、課題を自分事として捉え、主体的に行動できるかどうか。
今後の取組を通じて、湖の釣りに関わる全ての人が、“成長から成熟へ”と価値を転換できるような仕組みをつくり、業界に一石を投じたいと思います。
5 おわりに
僕は、この時代に生まれ、豊かな自然環境の中、美しい鱒たちが生息する中禅寺湖に出会い、価値のある人生を送ることができている。
この先、20年、50年、100年後
自分たちの子供や孫、その先の世代の人々も、中禅寺湖の釣りに出会い幸せな時間を過ごすことができるのだろうか。
生態系の変化や気候変動など、巨大なものに向き合うことになるけど、これを引き起こしたのは自分たち。
うちらのツケを次世代に押し付けていいのか?
子供や孫の前で言えるか?
死ぬ時に後悔しないか?
釣り人だからこそ
アウトドアパーソンだからこそ
気づくこと、できることがあると信じている。
先人たちや漁協へのリスペクトを常に忘れず、
常に自分にベクトルを向けていく。
最後に
湖の課題を自分事として捉え、主体的に行動している釣り人がたくさんいます。
・チャリティーTシャツや募金箱で資金を集め
地域に寄付する人
・湖のゴミを回収する人
・SNSで地域の魅力を発信する人
・釣果に関わらず湖畔に立ち続ける人
・鉛の使用を控え環境負荷を低減する人
・リリースや自主禁漁などにより鱒類資源への
影響を軽減する人 など
僕もみんなに負けないよう、自分らしく実践していきます。
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