『ポエティカル行路』 2023.11.15

2023.11.15 (明治通り、端から端まで)

麻布十番へ向かう地下鉄が地震のため四ツ谷で止まる。大きな揺れを感知したとのアナウンスが車輌に流れる。

緊張と緩和、地下鉄が再び動き出し、どうやら無事歩き出せそう。

麻布通りを南下し、古川橋へ。レコードに針を落とすように歩き始める。

天現寺の歩道橋を渡る辺りで、しばし無心で歩いてみようと思う。

秋の気配、色と匂い。
気を落ち着かせると、心も緑や黄に染まっていく。Liquid Roomの前を通過しながらそのことをメモに残す。

街がすーっと流れ込んでくると、歩行が浮遊感のあるものとなって楽しい。

渋谷駅近く、左足に痛みを感じるが、それでも歩き続けると痛みが何処へ消えていく。

目が世界を見つけるままに、一つのことに気をとめず、眼差しに旅をさせてあげると歩行は細かな発見の連続となる。

目には常に新しいものを見つける機能が本来備わっている。それに信頼すればいいのだ。

千駄ヶ谷辺りで友人からもらったりんごを一つ齧る。

橋の上、神田川の匂いをかいで池袋へ。

時々すれ違う知らない人の取り繕っていない表情をいいな、と思う。走る都電の音が耳に心地良い。

昨日、渋谷で外国から旅行で来ている家族の一人、10才くらいの少年の歩く足音が若鹿のそれに似ているような気がした。そんな不思議な気づきのことを幾度となく歩きながら思い出しているのでここにメモしておく。

人の中に野生があり、僕の野生の耳はそれを聞きとったのかもしれない。

池袋の喧騒を避けるためにこういったファンタジーが発動しているのだろうか。

駅前に立ちThe Big Issueを売るおじさんに500円を渡し、一冊手に入れる。奈良美智さんの描いた『Midnight Tears』という作品が表紙。

街は姿を変え、進むごとに変身していく。

普段あまり歩かない未知のテリトリーを歩く。

西巣鴨を過ぎ北区へ入ると下町の雰囲気から少し無機質な景色となったり、人々が身につけている服の感じも変わる。

振り子のように景色も揺れる。

飛鳥山に到着。
近くの店で今年初めてのクリスマスソングを聴く。

東京は歩いてみると一つの街ではなく、たくさんの街の集合体だと気づかされる。Tokyo Cities(東京都市群)、そう呼んだ方がふさわしいように思う。

田端辺りで友人からもらった二つめのりんごを食べる。

歩行はゆったりとした旅の形態だが、それでもちょっと速すぎると感じる時もある。

気持ちと体のスピード感のズレなのかもしれない。目的地が近づくと気がはやる部分もある。

荒川区に入り、三ノ輪を過ぎ、亀戸の方へ。言問橋(ことといばし)という橋の名が気になる。

だんだん疲れもあり僕は無口になっていく。もともと一人で歩いているのだから、誰かと話していたわけではないけれど。内側が無口になっていくのを感じる。

陽が傾いていく。

そういえば、夢の島に向かっているのだな、今さらながらあらためてそのことを思う。

景色の中に工場や煙突が混ざり始める。古い工場を眺めていると夢を見ているような気がしないでもない。

白鬚橋を越えて隅田川を渡る。
水がたっぷりとあり、一羽のカモメが空を飛んでいく。

いつも眺めているのとは反対のサイドからスカイツリーを眺めている。

くるんと東京をまわる面白さ。
横移動する人力観覧車、万華鏡のように街が回る。

湖畔へ向かった時より、距離に対して歩く時間がかかっているように感じるのは、都心の時の流れが速いからか。

真っ直ぐな道と曲がり続ける道では勝手が違うのかもしれない。

もうここは江東区なのだろうか。進開橋の上に立つ。夜の橋は足元に川が流れていたりすると色気がある。

湾岸道路という標識が見えてくる。

目的地があると辿り着きたいと想う気持ちも強まるのだな、と気づく。

純粋に歩くことを目的としているような僕の歩みであっても途中で終わらせたいとは思わない。

最後までやっぱり辿り着きたいのだ。

夢の島公園を抜け、道の終わりに僕はやって来た。

海が近い。でも、今日はここで終わりだ。

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