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セックスワークと公的福祉と社会生活。

ここ最近、10代の家出少女をはじめとした、若年層の貧困女性を対象とした支援団体に関して、連日連夜様々な人がコメントを出していたり、ネットバトルが繰り広げられている。
特に、定期的な新宿歌舞伎町を拠点とした活動をする団体に関しては、問題の争点を逸脱した誹謗中傷も繰り広げられていたりもする、

さて、今回話題にしたいことは、このようなことではない。

セックスワークやナイトワークに従事していて、冒頭に述べたような「支援団体」が救おうと考えている人たちについての話だ。

一般社会と切り離された生活に慣れる危険性

まず、本業として長い期間セックスワーク、ナイトワークに従事している人の中には、地元コミュニティや親族等とのつながりや、一般的な業種に従事している人との日常的な関わりが著しく乏しい人も多くいる。その中には、当然暴力的な家族やパートナーから逃げてきた人も多く含まれるだろう。
そのような人が長い間セックスワーク、ナイトワークの閉じたコミュニティの中で、お金を稼ぎ、生きていくことを経験しない場合に、何が起きるだろうか。

まず、一般社会の「普通」とされる業種での働く意欲が著しく低下してしまう、従事したとしても短期間で辞めてしまうという問題だろう。
今まで大きな収入を安定せず高頻度にまとめて得る生活をしていると、一般的な収入を得る生活が馬鹿馬鹿しく感じてしまうということはある。たとえ月や年単位の総額で考えれば、明らかに自分のスキルでできる一般的な業種で働いていた方が多いにもかかわらず、慣れない業務へのストレスや、実収入となる遅さによって、元居た業種に戻ってしまうことは、よくあることではないかと思う。

次の問題として、ナイトワークおよびセックスワークに従事する人の中には、自分が一番売れていた、順調に仕事ができていた時の収入、体調を基準として生活水準を考えてしまう人も少なからずいるだろうということだ。
これは私の知人のケースであるが、チャットレディで月100万円以上をコンスタントに稼げていた経験のある人で、その収入を基準に生活を考えてしまうので、その業種で売り上げが落ちたり、別業種でそれに近い収入を考えようとして、無理してそもそも働けない状態になる、ということを繰り返している。
確かに一般社会で働いている人でも、収入は落ちても生活水準を落とせない事に苦労する人はとても多い、しかしながら、この業種はよりその傾向が顕著になるのではないだろうか。
そしてこの問題は、これら業種に従事していた人が、公的福祉に引っかかりにくい、また公的福祉からドロップアウトしてしまう原因ともなっている。

最後の問題として、一般的な社会から隔絶されてしまう故、搾取構造や暴力の被害に遭いやすいことだろう。
社会から隔絶されているということは、女衒行為で稼ぎたい人や、恋人として振舞って、その人から搾取したい人にとっては、とてもいい環境である。自分自身を信じ込ませたり、その人にとってその業務しか自分に価値が無いと思わせられれば、搾れるだけ絞ることは容易であるだろう。

自称フェミニストの方々は社会福祉に繋げればいいと言うけれど。

さて、このような搾取構造に捉えられてしまって、心身をすり減らしてしまう女性を、公的福祉に繋げることで、その搾取構造から引き剝がそう、という活動があり、それに賛同および支援する人も沢山いる。
しかしそのような人の中には、簡単に社会福祉に繋げられるし、繋げればすべてにおいて救われる、そういう安易な考え方の人も見受けられるし、救われた例にしか興味が無いのだろうかと思う人もいる。
また、そのような安易な発想に反発を抱き、執拗に支援団体を誹謗中傷する人も多々いるのも悩ましき問題だ。だが、そんな簡単な問題では全くないのが、公的福祉に繋げるという問題だ。

まず、そもそも健全なる社会的繋がりに乏しい人たちに、公的福祉への最初の接触を図らせること自体が、難易度の高いことであることは理解できるだろうか。
例えば、精神的に誰かに支配されている場合、まず公的福祉の選択肢という情報が届かない。更には、あっても遮断されてしまうのが行く末だろう。
また、公的福祉による支援で生活することを蔑視している人などは、たとえ自分がそれが必要である存在だとしても、その蔑視によって社会福祉へのアクセスを難しくする要因ともなり得る。
そもそも、社会福祉が必要な人たちには、情報収集という能力自体が乏しい人たちも少なからずいることも、十分考えなければならないことも、また問題となることある。

次に、公的福祉の情報にアクセスできたり、それを勧められたとして、公的福祉を選択しないという問題だ。
これは先ほど話した私の知人の話だが、彼女はメンタルクリニックに通っていて、その主治医から、生活保護を受ける場合は、受けるための書類を書くので、できれば心身の療養のためにも生活保護を勧められたことがあるらしい。また、私自身も彼女自身がそれなりに活発に動ける間に、セックスワークで収入を得ようとするよりも、生活保護を受けるために動いてほしいということは勧めた。
しかし、彼女は体調が良好な間はセックスワークに出勤することを優先し、その業種の収入の高さに夢見て、体調を崩しほぼ寝たきりになったりを繰り返しており、一向に社会福祉と繋がることで、生活を安定させ、自分の精神的にケアが必要な部分を治癒させようとしていない。
このように、本人の公的福祉を受けたいという強い意志が無い限り、それに繋げることはなかなか難しい。このケースと同様に、支援したい人が一向に支援を拒もうとすることで、実際にとても苦労をしている、支援団体で実務をされているボランティアなどのワーカーさんは多いのではなかろうか。

3つ目に、公的福祉を受けるためには、できるだけ昼間の社会生活をおくらなければならないという点だろう。
行政の担当者、及びそれに委託されたソーシャルワーカーの方は、基本的に一般社会の動く時間帯で動いている、たとえ昼間は疲れてずっと寝ているような人に対しても。この生活時間帯が違うことも、公的福祉に繋げることへの困難のひとつであろう。
公的福祉と繋がるための、その昼間の少しの労力というものすらも、彼女たちには貴重であったり、煩わしいものであったりする。
そのように、昼間の活動ができないことによって、彼女たちは社会福祉からこぼれていってしまう。

最後に、公的福祉に繋がれたとしても、継続させることの困難さが生まれてくるという点だ。
先ほど述べた通り、公的福祉というのはある意味「昼間」の世界である。その昼間の世界と収入を得るために繋がっていなければならない、このことが多大なストレスになってしまう人が少なからずいる。
また、公的福祉というものは多くの収入はもたらされない。この収入の少なさが、公的福祉を受ける上での大きなストレスになってしまう人もいる。当然比較対象は、収入が良かった頃の自分と生活である。
このように、公的福祉に繋げたところで、それを継続させることもなかなか困難だったりもする。当然、その中には折角つながることのできた公的福祉のネットワークから、簡単にドロップアウトしてしまう人もいる。

このような困難と、おそらくたくさんの無念を見ながら、実際に実務的に支援にあたっている人には、私は敬意しかない。
そして、このような困難があるということを理解して、「全て福祉に繋げればいい」などと自称フェミニストの方々は言えるのだろうか。
また、このような困難を乗り越えて、そして行政手続きへの困難も乗り越えて、公的福祉に繋げている人がいることをアンチフェミニズムの方々は知っているのだろうか。
また、団体の代表などを名乗って、自分の社会的知名度や地位を上げようとしている人がいるとすれば、その下に血の滲む努力をしている人がいることは、ちゃんと敬意を持っているのだろうか。
公的福祉は万能ではないし、公的福祉にアクセスできることを嫉妬することも馬鹿馬鹿しい。私はこのような血の滲む努力で公的福祉に繋がれた人は、元の世界に戻ることが無いよう願うだけだ。

最後に、私のセックスワークに関する考え。

まず結論から言うと、女衒行為はまず滅びてほしいし、そのような人たちに頼らなければならないセックスワーカーが一人でも減ってくれることを強く願う。
更には、暴力的に支配したり、金銭面を強く依存するようなパートナーやホスト等の存在のために、自分自身を傷つけてセックスワークをしている当事者がいなくなって、自分自身たる立派な自我を持って生きられるようにあってほしい。
極論を言えばセックスワーク自体が不必要である社会になることが理想であるが、実際に豊かな社会にて実現されているものは皆無に近い。であるからこそ、それぞれの人が少なくとも社会福祉という最後のセーフティーネットすら眼中になくなってしまうことだけは、日本ではなくなってほしいとも思う。

そして最後に、多くの女性が幸せに自己への自信をもって、生きられる社会ができてくれることを願いたい。

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