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ライブハウスに音楽好きが一人帰ってきた話(2023/07/16 GG2023レポート)

2020年3月、ライブハウスが世間から悪者にされた。
まだ市中に新型コロナウイルスの感染が広がっていない中で、大阪のライブハウスでクラスターが発生してしまったからだ。

あの日以降、ライブハウスから自由なダンスは奪われてしまった。
その間、ライブハウスでは「SAVE OUR SPACE」などの活動が行われた。

けれども、「ライブハウスを迫害するな、音楽を守れ」みたいなスローガンが私には受け入れられなくて、個々のライブハウス存続に関するクラウドファンディングや、グッズ販売などには全く参加できなかった。

確かに、私はパンデミックの前は本当に何度もライブハウスで音楽を楽しみ、踊り、お酒を飲んできた。
ライブハウスの音楽に心救われた経験は沢山ある。
とはいえ、私は勝手にステージの上に立っている人たちが流す音楽に熱狂しているだけだ。
申し訳ないけど、ステージに立つ人たちから、勇気や生きる活力をもらったという感覚は一度もない。

あくまでも、私は板の上に立つ人たちを見て、爆音を聴いて、勝手に涙を流したり明日への元気をもらったりしただけの、たいへんにおめでたい幸せ者というだけだ。

そんな気持ちを代弁してれたかのように、私の一番愛するバンド、GRAPEVINEのボーカル田中和将が、ある雑誌に寄稿したエッセイで、一人のミュージシャンとして、自分の音楽で勇気を与えようとすることは、あまりに烏滸がましいことであるゆえ、自分に対して禁じていることだと語っていた。

その言葉におめでたい幸せ者の私は、また救われたような気がした。

そんなGRAPEVINEを、またライブハウスで楽しむ機会が私にもやってきた。
しかも、対バンに盟友Dragon Ashに、後輩バンドであるACIDMANもいる。
私は迷わずにチケットを手配して、当日会場であるZEPP Hanedaに向かった。

さて、前置きが長くなったが、当日のライブレポと、ライブハウスや音楽にかける思いを書かせていただきたいと思う。

GRAPEVINE ライブレポート

今回私が行ったイベント「GG2023」、これはもう10年以上の歴史があるイベントであり、ラジオDJなどをしているジョージ・ウィリアムズが主催しているイベントだ。
そんな「GG」に初参加となるGRAPEVINE、主催のジョージの前説からも、古い付き合いながら、GGには新しい風を起こしてくれることの期待が語られていた。

そして現れたトップバッターGRAPEVINE、その一曲目は、フェスなどのイベントでほぼ必ず一曲目に演奏される曲「FLY」、あまりフロアが一体となって熱狂するナンバーの少ない彼らにとっては、わかりやすく盛り上げられるこの曲に、フロアの熱も上がっていく。
次に「Alright」を演奏した後、主催のジョージにクレーム言うようなMCを挟み「目覚ましはいつも鳴りやまない」とダンスナンバーを続けた彼らが4曲目に演奏した「SPF」を聴いて、私はその日の都心は気持ちいい青空に照りつけられた猛暑日であり、あまりに当日のロケーションに相応しい選曲を聴いて、このバンドが狡い奴らだと感じた。

その後は「Gifted」「ねずみ浄土」と一昨年リリースのアルバムから演奏した彼らが、終盤に差し掛かるステージで演奏した曲は「CORE」、バンドとしては少し異色なプログレッシブな一曲で、ライブでは8分近くの演奏時間がある、そんな一曲をくらわされたフロアは歓声というよりかは驚愕化のような反応を見せ、そんなフロアに向けて、デビュー曲「覚醒」と彼らの代表曲「光について」を演奏して、GRAPEVINEはステージから立ち去った。

私は久々に彼らの演奏を聴いたこともあるが、トップバッターから心が騒ぐ演奏を投げつけられて、心が落ち着くことはなかったし、フロア自体も心にざわつきを残されたまま、少し困惑している空気を私は感じていた。

ACIDMAN ライブレポート

さて、私は学生時代に野外フェスなどのコンサートイベントでアルバイトしていたこともあり、お金を払って見たことはないものの、演奏だけは聞いたことのあるアーティストは何組もある。しかしながら彼らACIDMANは今まで一度も生演奏を聴いたことが無い。
正直、私が当日一番楽しみにしていたバンドはACIDMANであることは、嘘偽りなく言えることだと思う。
そんなACIDMANを、ジョージは「Dragon Ashと並ぶ、出演回数第二位のこのイベントにおける盟友」のように紹介していた。そのおかげで、彼らを見る覚悟はしっかりできたとは思う。

しっかりと出囃子を聴かせて、ゆっくりと入場してきた彼ら、そして満を持して演奏したのはデビュー曲「造花が笑う」、GRAPEVINEがざわつかせた空気をすべて自分たちが掴むような、とても鋭利なセッションに、フロアは最高の熱量で答えた、その証に、サビではこの日の彼らのステージで唯一ダイバーまで出た。
その一曲で何もかも味方につけたような彼らは、「アイソトープ」「Rebirth」「FREE STAR」と新旧の名曲を混ぜたセットリストと、途中のMCではジョージの物真似も披露しながら、フロアを暖かく沸かせた。

その後、ボーカルの大木さんがふと、今年春亡くなった坂本龍一さんのことを語りだし、「自分たちには教授と作った一曲がある」「もっと前からこの曲を色々な場で演奏すべきだった」「教授に認めてもらった唯一のロックバンドとして演奏する」と言って、奏でだした「風追い人(前編)」は、彼らの誇りと責任を感じさせる、寂しくも力強い美しい響きであった。

そして、再び口を開いた大木さんは、自らの持つ宇宙への興味や愛を語り、本年度開催されるアジア地域の天文学国際会議のテーマソングとして選ばれた「Alma」を演奏して、続けて「夜のために」「ある証明」を響かせてステージを終えたACIDMAN。

彼らが立ち去った後のフロアは、心地よい爽快感と、彼らの持つ宇宙が広がっている気がした。

Dragon Ash ライブレポート

ACIDMANのステージが終わり、爽快な空気のフロアの中で、私のいる前方エリアはまた違った雰囲気が漂っていた。
GGというイベントを立ち上げるきっかけを作ったバンドにして、このイベントにおいて最もオーディエンスを盛り上げてきたDragon Ashを見るため、そして激しくモッシュダイブをして踊るため、待っていたファンたちが、ACIDMANやGRAPEVINEを眩しく見ていた人たちと入れ替わるようにやってきたのだ。
そう考えると、もしかしたらこのイベントで一番アウェイだったのは、Dragon Ashだったのかもしれない。

そんな空気感がガラッと変わったフロアの前に現れたジョージは、「一番ステージを見て感動する、いつでも何度でもそのステージを眺めていたい存在」として語り、立ち去ったステージ上にはもうDJのBOTSがおり、おもむろに「Entertain」のイントロを流しだした。
そのイントロに促されるようにセッションに加わっていくように現れ、セッションに参加していくメンバーたち。会場のモッシュピットのボルテージも上がっていく。

そんなモッシュピットにぶつけられた「FLY OVER」とHIDEのカバー「ROCKET DIVE」は、彼らを熱狂させ、多くのダイバーを出すのに最もな曲だった。激しく歌うKj、激しくモッシュダイブするピット、最近の彼らの曲を知らない私でも、かつてモッシュピットで楽しんでいたころを思い出し、そのボルテージを最高潮にさせるには時間はかからなかった、さらに「NEW ERA」の前にKjが言い放った「どんな踊り方だっていいんだ」という言葉は、燃え盛る炎にガソリンを注いでくれるようだった。

そんなKjがこの日まともなMCとしては初めて長々と語りだしたことは、1997年にその日先にステージに立ったGRAPEVINEらと回ったツアーで、名古屋のライブハウスでの思い出のことだった。そのMCを「GRAPEVINEもACIDMANも自分たちも今も板の上に立ち続けて、ロックバンドが一番かっこいいことを証明しているから」と言い残し「ダイアログ」を演奏し、その後に続けるようにKjがライブハウスへの想いを語って、最新曲「VOX」と「Jamp」、そして私も知っている「百合の咲く場所で」が演奏された。
ライブ定番曲である曲に大きな歓声が上がったことは間違いないし、私も堰を切ったようにDragon Ashのファンだけではない人たちがダイブする姿に、つられてモッシュピットの上を転がっていた。

その熱狂が明らかに最高潮に達したモッシュピットや客席に対して、MCの最後に「ACIDMANやバインのファンも、ダイブしたことが無い人生よりも、ダイブしたことある人生のほうが少し音楽が好きって言える人生じゃないかな」と問いかけた後に演奏されたのは、勿論彼らのアンセム的曲「Fantasista」、この時本当に元通りのライブハウスの原風景を感じたし、煽りに載せられてダイブしてしまった。
そんなKjが「ライブハウスは誰でも平等でいられる場所」とこの日最後のMCを残して「A Handred Emotions」を演奏し、とんでもないボルテージの残ったZepp Hanedaのステージから立ち去って行った。

ライブハウスに帰ってこれて最高だと思った夜

疫病禍が始まって、去年から野外イベントには参加したし、年末には久しぶりのライブハウスのコンサートとしてZepp Nagoyaにも行った。けれどもいずれも制限があってすこし窮屈さを感じていた。

そして今年に入って最初に行ったクラムボンのツアーで、会場のボトムラインの計らいで客席も一緒に歌うことを許されて、各制限が事実上撤廃された5月に観たのストレイテナーのツアーでは、久しぶりに少しだけモッシュピットを味わうこともできた。
けれども、いくらかのバンドがいて、それぞれの音楽、それぞれのダンスが楽しめるイベントで、これだけ自由に楽しめたことは本当に久しぶりだったと感じる。
だからこそ、クラムボンやストレイテナーの時にも感じたりはしたが、本当に手放しでライブハウスに帰ってこれたと思ったのは、GG2023のひと時だったと胸を張って言える。

だからこそ、このメンツで、7年ぶりに自分のイベントを再開してくれたジョージには感謝しかないし、終演前に3バンドすべてをあつめて記念撮影した後「また来年も集まってやりたいね」と言い放ったジョージの言葉を信じたいし、もし機会があればまたGGのイベントに参加したいと思える最高の夜だった。

皆さんも、この夏、様々な制限が撤廃されたライブハウスに、足を運んでみてはどうだろうか。

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