抱きぐせはつかない
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ありがとうございます。
お母さんを笑顔にするお仕事の人、
子育て専門助産師なとりです。
今回は抱きぐせについて考えてみます。
抱っこしてばかりいると
抱きぐせがつくと言われていたのは
もう昔のことと思っていましたが
今でも言われているようです。
やはり母乳問題と同じように
世代間のギャップが大きな要因と考えますが
なぜそのようなことが過去に言われていたのか
歴史と別の角度からの解釈をお伝えします。
※母乳問題についてはこちらに書いてみました
〈抱きぐせとは?〉
「そんなに抱っこばかりしてたら
抱きぐせがつくから気をつけてね」
こんなことを言われたことがあるお母さんが
今でも多くいることに驚いてしまいます。
赤ちゃんを抱っこばかりしていると
抱っこしないと眠らないとか
抱っこするとすぐに泣き止むことを
「抱きぐせ」と言っているようです。
また
抱っこをし続けることが
お母さんの負担になってしまうため
抱きぐせはつけないようにするのがよい
とされていました。
抱っこは甘やかしと考えられていたため
赤ちゃんを抱っこばかりしていると
・気の弱い子になる
・甘えん坊になる
・わがままになる
・落ち着かない子になる
・自立心が育たない
などと言われていたようですが
どれも科学的な根拠はありません。
ここで一つ疑問があります。
本当に抱きぐせなんてあるのでしょうか。
〈ずっと昔の子育て〉
子育ては時代の流れの中で
大きく変化を続けています。
アメリカの子育てを歴史的にみると
厳しいしつけから寛容なものへと
時代を追うごとに変化していきます。
かつては授乳や排泄、睡眠などは
時間で規則的に厳しく管理することが求められ
離乳が遅れることや
子どものおもらしは許されない
とされていたといいます。
1928年に心理学者のジョン・ワトソンは
「幼児の心理ケア」の中で
[子どもに抱っこやキスをしないこと]と
子どもと触れ合わないことを推奨しました。
さらに20年近く経った1946年
小児科医のベンジャミン・スポックによる
「スポック博士の育児書」が出版されます。
子どもの自立心を育てるためとして
[添い寝をせず
赤ちゃんのうちから別の部屋で寝る]
[抱きぐせがつくので
赤ちゃんが泣いても抱っこしてはいけない]
というような育児法が書かれています。
この「スポック博士の育児書」は
世界中で大ベストセラーとなり
日本では1966年に初版が翻訳出版されています。
さらに1980年には当時の厚生省が
この子育て理論を母子手帳に採用したことで
私たち日本人は大きく影響を受けたのです。
こうした親とのスキンシップを奪われて
育った子どもたちは
・不安や恐れが強い
・人を信頼できない
・家族やほかの人との関係が築けない
・攻撃性がある
・感受性に乏しい
・周囲のことに関心が持てない
といった問題を抱えて成長し
自分が親になってからも
子どもとの接し方がわからなかったそうです。
※「スポック博士の育児書」は改訂が重ねられ
内容が変わっている部分があります。
〈抱きぐせはつけた方がいい?〉
現在の母子健康手帳の「育児のしおり」には
『抱きぐせがつくと心配する必要はありません』
と書かれてあります。
抱きぐせという言葉は
最初から「良くないもの」として
否定的に捉えられてきましたが
最近では抱きぐせはついてもいい
と考えられるようになっています。
では抱きぐせがついたらどうなるのでしょうか?
おそらく日本で初めて「抱きぐせ」について
書かれたと思われる昭和初期の書物には
次のように書かれてあります。
「神経質な赤ちゃんは抱きぐせがつきやすい。
抱っこしていれば眠っていても
寝かせると目を覚ますので
むやみに抱っこしないように。」
(文意はそのままに要約しています)
しかし先ほども示したように
抱っこされずに育った赤ちゃんは
イライラや不安感が強く
攻撃性があり自己肯定感が育たなかった
といったことが言われるようになります。
これは泣いても自分の要求が通らない
と学習してしまうので
泣くだけ無駄だとあきらめてしまううえに
自分は無力で無価値な存在だと
思ってしまうからです。
抱っこは
肌と肌の触れ合い=スキンシップです。
スキンシップを積極的にした赤ちゃんと
そうでない赤ちゃんでは
発達や情緒面で違いが生じる
という研究結果が出ています。
スキンシップによってお母さんも赤ちゃんも
「安らぎと絆」を促進するオキシトシン
というホルモンが出ます。
もちろんお父さんの場合でも同じです。
『抱っこでしあわせになる』という
からだのしくみを持って
私たちは生まれてきているのです。
赤ちゃんは泣くことで抱っこや空腹を訴え
その欲求を満たしてもらうことで安心感を得て
欲求を満たしてくれた相手に愛着を持ち
自分が愛されていると実感するのです。
泣いたら抱っこしてもらえるとわかっていて
赤ちゃんが泣くなら
それは「くせ」ではなく
赤ちゃんがしあわせに成長している証。
抱っこしてほしいと赤ちゃんに要求されたら
抱っこをしてあげればいい
そこにはメリットが数知れずある
という実に単純なお話です。
抱っこしてほしいのも
抱っこしてあげたいのも
どちらも自然な欲求ですから
「抱きぐせ」なんて言い方は
ふさわしくないと私は思うのです。
〈抱きぐせの「癖」とは〉
抱きぐせなんてない
だから抱きぐせはつかない
というのが私の考えです。
でもここで一つ
気になることがあります。
先ほど紹介した
「抱っこしていれば眠っていても
寝かせると目を覚ますので
むやみに抱っこしないように。」
という記述です。
この寝かせると目を覚ますことを
いつからか「背中スイッチ」
と呼んでいるようです。
「癖」とは
『習慣化している、あまり好ましくない言行』
のことをいいます。
この「好ましくない言行」が
抱っこをするという行為ではなく
抱っこの仕方だとも考えられます。
実は私は
いつも思っていることがあります。
生まれたばかりの赤ちゃんを抱っこする
お母さんやお父さん
あるいは家族やお友達
みんなぎこちないのです。
抱っこする人の関節から
きしむ音がしそうなほど動きが不自然で
肩や肘が上がった姿勢になるので
抱っこに慣れていないのが一目でわかります。
「赤ちゃんの首を手のひらの真ん中で支えて」
と目の前でやってみせても
手のひらには後頭部か首の下がのっています。
自分の身体から30㎝ほども離れたところで
赤ちゃんを持ち上げただけの状態で
かたまっているお父さんもよく見かけます。
このとき赤ちゃんは
人体浮遊のイリュージョンのように
まっすぐな台の上にいるかのように
背中がピンとのびてしまっています。
少し大きくなった赤ちゃんを抱っこするときも
赤ちゃんのからだがまっすぐ上を向かず
抱っこしている人の方に軸がねじれていたり
のけ反るような体勢だったり
肘と体の隙間から
赤ちゃんの腕がだらんと下がっていたり。
要するに抱っこは
抱っこする側が
やりやすいように抱っこしているだけで
赤ちゃんが抱っこされやすいかどうかは
あまり考えられずにいるわけです。
赤ちゃんは背中が丸くなって
お股が正面にきて
M字型に脚が開いて
横から見た時に
アルファベットのCのようなカーブを
描く姿勢が心地よいのです。
先ほどのような抱っこをされたあとで
お布団に寝かされたとき
それまでの抱っこでついた「癖」で
痛みを伴ったり不快に感じたり
するのではないでしょうか。
大人でも
正座をしたあと足がしびれるように
肘枕をしたあと
手がしびれるようにです。
抱っこに依存する抱きぐせではなく
抱っこされた体勢でからだについた「癖」が
赤ちゃんには負担になっているかもしれない
というあくまで私個人の見解です。
もちろん肌が離れた不安もあると思いますが
いずれ「背中スイッチ」や「寝かしつけ」をテーマに
またあらためて考えてみたいと思います。
背中スイッチもありませんから。
〈あとがき〉
今回は抱きぐせについて考え
文中にたくさん「抱っこ」と書きましたが
抱っこ=スキンシップと捉えていただき
必ずしも抱っこしなければならない
という意味ではないことをご理解ください。
ただ自動授乳マシンにまかせて
抱っこどころか赤ちゃんに触れず
目も合わせず声もかけず
自分はスマホを見ながらの授乳では
スキンシップにはなりません。
もしあなたが自分のお母さん
あるいはお義母さんや周りの人に
抱きぐせがつくと言われて困っているなら
ぜひこの記事を読んでもらってください。
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