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帝王切開は「じゃない方」?

ご興味を持ってくださり
ありがとうございます。
お母さんを笑顔にするお仕事の人、
子育て専門助産師なとりです。

帝王切開シリーズ4回目は
帝王切開に関する
「あやまった思い込み」について
助産師の目線からお伝えします。

これから帝王切開をされる方だけでなく
妊娠中の方や
周囲に妊婦さんがいるという方、

そして過去に帝王切開でお産をされた方にも
ぜひ読んでいただきたいと思います。


〈なぜ帝王切開が特別扱いされるのか?〉

帝王切開はお産の種類として
特別な方法として扱われがちですが
以前の投稿で帝王切開は
数あるお産のスタイルのうちの
1つにすぎないとお伝えしました。

帝王切開は手術であるため
公的医療保険が適用されますので
その点においては
特別扱いなのかもしれません。

ですが経膣分娩においても
たとえば吸引分娩の場合は医療行為が伴うため
公的医療保険が適用されます。

私がこの投稿で言う
「帝王切開の特別扱い」とは

『帝王切開でお産をした女性が抱く
 経膣分娩への期待とのズレ』や
『帝王切開を経験していない、あるいは
 正しく理解していない人たちの先入観や
 偏見といった非好意的なスタンス』のことです。

〈帝王切開を受け止められない〉

助産学生の頃
別の施設で臨床実習をしていた
同級生の受け持ち妊婦さんが
お産の経過中に緊急帝王切開になりました。

お産の後で振り返りをしたところ
産んだ実感がないことから
こう話されていたそうです。

「自分の子って感じがしない。
 よそから持ってきた赤ちゃんを
 『あなたの子よ』って渡されたみたい。
 お腹は小さくなってるのに
 私の赤ちゃんはどこにいるの?」

自然分娩を望んでいたのに
できなかった。
この子は本当に
私から産まれたのだろうか?

自然分娩に対する期待が
帝王切開をしたことで
挫折感や喪失体験へと
変わってしまうのです。

帝王切開をした女性からは
こんな言葉が聞かれることがあります。

「帝王切開でごめんね」
「下から産んであげられなかった」
「私は陣痛の痛みに耐えていない」
「ダメな母親」

母親になり切れていないと自分を責め
不本意なお産は心の傷になってしまうのです。

喪失体験は
経膣分娩でも起こりますが、

帝王切開の場合は
お腹にキズがあるため痛みや不快感を伴い
思うように身体を動かしたり
赤ちゃんのお世話をしたりできず
より多くの否定的な感情を体験し
後悔と不満の経験となることがあります。

緊急帝王切開の場合は
なんの準備もないまま
突発的な理由で行なわれるため
否定的感情も強いとされています。

予期せぬ体験はトラウマとなり
PTSD(心的外傷後ストレス障害)にもなりえるのです。

この否定的な受け止めは
産後うつ病とも関連するとされていて
その後の育児へも影響するという
報告もされています。

※同級生の受け持ち妊婦さんは
 担当の助産師とともに
 帝王切開でお産をした事実と向き合い
 様々な感情を解放し適応するための
 心理的な援助がなされました。

〈帝王切開でお産した女性への心ない言葉〉

帝王切開の場合
否定的な感情が強くなることは
ご理解いただけたと思います。

このような状況をさらに悪くする
周りのこんな発言があるようです。

「帝王切開は出産じゃない」
「楽に産めて良かったね」
「帝王切開は母親失格よ」
「次はちゃんと産んでね」
「お腹痛めて産まなきゃ意味がない」
「帝王切開なんてだらしがない」
「帝王切開ってかわいそう」
「産んだ気がしないでしょ」
「産みの痛みは知らないのね」
「一番楽な産み方だよね」
「痛くなかったでしょう」
「産道を通っていない子は肺が弱い」
「産道を通っていないから我慢強くないらしいよ」
「帝王切開で生まれた子は元気に育つのかしら」

検索すればするだけ出てきて
きりがありません。

こんなことがあるなんて
今回初めて知り、大きな衝撃を受けました。

友人や姑、ママ友
あるいは家族や姉妹といった身近な人
さらには夫からこんな心ない言葉をかけられたら
どうでしょう?
傷つきますよね。

そもそもここに挙げた例には
一つも真実はありません。
迷信です。

ではなぜ帝王切開でのお産は
こんな言葉をかけられてしまうのでしょうか?

〈帝王切開は「じゃない方」〉

お産の方法は
「経膣分娩」と「帝王切開」の
2種類という考え方が一般的です。

『女性の身体から新しい生命が誕生する』
という神秘的な出来事としては
どんな方法であっても同じなのですが、

経膣分娩イコール自然分娩
のような捉え方で
帝王切開は自然分娩「じゃない方」
といったあしらいです。

事実、私の手元にある
産科の参考書には
全体で400ページほどある中
帝王切開の記述はたった2ページ。

インターネットでも
自然分娩については
多くの情報が得られますが
帝王切開については
情報が少ない上に
安心できる情報がほとんどありません。

今は4人に1人が
帝王切開でお産をしているというのに。

こうした情報の支配によって
「経膣分娩」は良くて
「帝王切開」は悪いと
印象付けられてしまったり、

帝王切開に関する世の
「あやまった思い込み」によって
『帝王切開は残念なお産』と
位置づけられている感があります。

帝王切開をはじめ
お産に関する不確かな情報を
まるで自分が勉強して得た知識のように
扱う人が実に多いのです。

また1960年代に
お産婆さんによる自宅出産から
病院でのお産が主流になると
陣痛促進剤や帝王切開といった
医療が介入するお産が増え
これに抵抗があった人たちが
今も帝王切開に否定的な考えを
根強く持っているのだと思います。

〈昭和の産科医の伝統をのこしてほしい〉

戦後の昭和時代にはベビーブームという
赤ちゃんの誕生が急増する現象があり
第1次期の昭和24(1949)年には270万人
第2次期の昭和48(1973)年には210万人の
赤ちゃんが生まれていました。

しかしその後は減少し続け
平成28(2016)年には98万人と
100万人を下回り
令和5(2023)年では76万人(速報値)にまで
減少しています。

かつてはどんなお産でも
「下から出せる(経腟分娩)」というほど
昭和の産科医は知識だけでなく
お産の経験があり技術も持ち合わせていました。

これだけ出生数が減っているのですから
現場の産科医が経験できるお産の数も
減っているということです。

帝王切開は
赤ちゃんを無事に誕生させるために
必要な医療行為です。

2000年に海外で発表された
「骨盤位(逆子)は帝王切開の方が
 経膣分娩より赤ちゃんが元気である」
という研究結果をきっかけに
アメリカの産婦人科医会が
骨盤位の帝王切開を推奨し
日本でも骨盤位の多くは
ほぼ無条件に帝王切開になりました。

日本の産婦人科診療ガイドラインでは
次の条件がそろえば
骨盤位経膣分娩を選択することを可能としています。

 1)骨盤位娩出術への十分な技術を有する
   スタッフが常駐している
 2)妊婦に経膣分娩の有益性と危険性について
   説明し、同意が得られている

ですが実際のところは
「考慮される」という推奨レベルで
骨盤位の経膣分娩を否定はしないけど
帝王切開が望ましいということのようです。

事実、私も骨盤位のお産は
2例しか立ち会ったことがなく
介助の経験はありません。

若い助産師であれば
骨盤位の帝王切開に
疑問を持たないかもしれません。

産科医でも骨盤位の経膣分娩は
見学すら経験がないかもしれません。

必然的に条件の1)がそろわず
その選択はほぼ不可能である
というのが現状でしょう。

『骨盤位経膣分娩を行わないものは産科医にあらず』
と言われた時代を生き抜いてきた昭和の産科医は
その確かな技術を持っているのです。

その「わざ」や経験知を継承し
後世に伝える機会をも帝王切開に奪われ
失われていくのは残念でなりません。

〈あとがき〉

帝王切開がこれだけ増えたのは
医療技術の進歩によって
安全に行なわれるようになったからです。

帝王切開でのお産を
ネガティブに捉えるのではなく
お母さんと赤ちゃんの健康を優先した結果
必要であったこととして
「帝王切開で産んでよかった」
「帝王切開で産めてよかった」と
受け入れることが大切です。

もしあなたが帝王切開でお産をして
何年経っても後悔しているならば
その気持ちを隠さず
誰かに伝えてくださいね。

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