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【考察】樋口円香の、美しさの形。【シャニマス】


じゃあ秘密を教えるよ。とてもかんたんなことだ。

ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。


───いちばんたいせつなことは、目に見えない。


新潮文庫『星の王子さま』サン・テグジュペリ
河野万里子/訳 より引用

◇     ◇     ◇


本記事では樋口円香のPSSR『オイサラバエル』のコミュ、それに伴った樋口円香自身の人間性について触れていく。
そのため、ネタバレを考慮しない。
また、個人的な解釈を含むため激しい解釈違いを含むかもしれない事や、読み切るのにかなりの時間を要する解説とも考察とも言えない怪文書である事に注意されたし。

また基本的に、以前に書いた樋口円香の考察記事に則って本記事も進行する。
一度この記事を目を通していただいて、解釈違いがなければこの記事を読む、としたほうが地雷を踏まずにすむかもしれない。

1.手の変幻

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あるがままではなく、そこに無いものを見ようとしてしまう。

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本来、そこに無いものを。
目には見えないものを。
欠けたものを見ようとしてしまうから、完璧になる。

勝手に自分の中で足りない部分を補完して、自分の都合が良いようにしてしまう。

だから完璧になる。

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たとえその姿形が黄金比という美の象徴であったとしても。

きっと本当の魅力は目に見えない部分にこそあるのだと。

その姿形を象った輪郭からでは見ることの出来ない部分、欠けた部分にこそ魅力がある。

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人が都合良いように解釈し、想像し、創造し、ひとりひとりの中で完結し、完成する。

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「皮肉ですね
 欠けたことによって完璧と言われるなんて」

例えば、全てが可視化された世界だとして。

最初に美しい部分を見たとして、他の部分も美しいに違いないと勝手に期待して。

全てが可視化された世界では美しくない部分も見えてしまって。
独りよがりな期待は裏切られたと吐き捨てる。

ならば、全ては見えない方が良いのではないか。

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「完璧なものは目には見えないのかもしれない」

人はいつか老いる。物はいつか朽ちる。

全てのものに終わりがいつか訪れるなら、完璧なものなど存在しない。
姿形ある、輪郭を伴ったものは完璧とはいえない。
全ての存在は滅びるようにデザインされている。

ならば。

欠けたことによって。いや欠けているからこそ。

目には見えないからこそ、その人の中でその存在は完璧になるのだ。

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完璧な姿のまま、美しい姿のまま、存在を終えたとき。

美しいと思わせて、美しくない部分を見せなかったとき。

美しくない部分は目には見えなかったとき。

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目には見えない部分がある時、それはひとりひとりの心の中で『勝手に』補完され、美化された『思い出』になって。

完璧になる。

美しいものの、まだ見えてない部分もきっと美しいに違いない、と。

そう補完してしまう。

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思い出は穢れることはない。

完全に孤立した世界で、他の影響を寄せ付けない。
『思い出』は、ひとりひとりの心の中で美化された完璧な存在になる。

そう、永遠に。

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結局これはなんの話なんですか、と円香は問う。

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腕が欠けているから、目には見えないから完璧だと言われている彫刻『ミロのヴィーナス』の話だとプロデューサーは答える。

そして、こう付け加える。

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「美しいものの話」

◆ ◆ ◆

ミロのヴィーナスはその両腕を失った。

腕の喪失は、世界との関係を失うこととされているが、ミロのヴィーナスは失った腕で夢を見せた。

見るものが求める、ありとあらゆる腕を、ひとりひとりに見せたのだ。

そこに無いもの、そこに見えないもの。
それを人は求めてしまう。


2.インビシブル

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やはり、姿形あるものはいつか朽ちてしまう。

時間は、全てをいつか終わりへと導くようにしか出来ていない。

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円香とプロデューサーは、撮影で廃墟の美術館に来ていた。

撮影の監督は、この美術館は時間によって秩序が失われた、そういう場所なんだと言った。

監督の言っていたこと、円香はわかったか?とプロデューサーは彼女に問うた。

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あまり、と円香は答える。

監督のような考えがあることは理解しているが、同じ気持ちになれるかはわからないと円香は言う。

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廃墟の美術館の天井が崩れ雨が入り込み、水たまりができる。

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水たまりから、草が生え、水は泥と混じり底が見えず……

とても綺麗だ、と。

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監督と同じ気持ちにはなれない、何が綺麗なのかわからない、と円香は尋ねようとする。

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が、円香は「わかります」と監督に答えていた。

GRAD編の記事を書くことがあれば、細かく考察するかもしれないが、樋口円香という人間は『言葉に誠実』だ。

大事な所で嘘をつける人間ではない。

円香が、監督へ向けたこの「わかります」は嘘ではない。

努力してきた物を、自分で積み上げてきたものを失うことを恐れる円香。

なにかに必死になればなるほど、失うものも大きくなる。

だから私は泣くほど何かに必死になれない、とかつて彼女は言った。

だから、これは、廃墟だ。

変化をやめ、錆びつくことを自ら選び、変化を恐れた廃墟だ。

しかし、その廃墟に雨が降り込み、その雨が草木の新しい命を芽吹かせる。

たとえ、もがき苦しむことになったとしても、泥臭くても。

たとえ、失ったときに取り返しがつかなくなるほど、底がみえない絶望が待っていても。

先に進むと決めたのは樋口円香だ。

『水』は樋口円香の涙だ。

この場合では、廃墟に降り込む雨、つまり泣けるほど必死になれるなにか、『樋口円香の激情』の事を指していると思われる。

何かを失うくらいなら、何にも必死にならず、何にも入れ込まず、何にも挑戦せず、変化を受けつけない『廃墟』でいい。

そう思っていたはずなのに、『廃墟』の天井は崩され『雨』が降り込み、新しい命が芽吹き始めるのだ。

『樋口円香の激情』については『ピトス・エルピス』の考察記事を書いた時にまた詳しく書きたいと思う。

樋口円香が廃墟の美術館の美しさを「わかります」と言ったのは偶然ではない。

円香自身が理解してなくても、本能的なところで、『樋口円香の激情』が、泥臭いものの美しさというか、監督の感性を理解している。

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円香は、監督の意図を汲みたいと思ったのは嘘じゃないと話す。

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それを聞いてプロデューサーは、椅子を取ってくると答える。

天井が崩れた奥まで見たかったという監督と、その意図を汲みたいと思う円香。

プロデューサーは、円香が崩れた奥まで行くのではないかと、心配しているように見える。

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「そうしたら落ちる前に、掴んでくれるんですよね?」

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(……まだ本当の円香はつかまえられないか)

『腕を掴む』

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『円香のことは』
『掴もうとしてはいけない』

PSSR『カラカラカラ』や『Landing Point』などの数々のコミュで、円香を掴むというワードが登場する。

円香が隠したがっている本心や気持ちに、強く踏み込むこと。

『本当』の円香を捕まえること。

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プロデューサーが掴む円香の手を、彼女は強く振りほどく。

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「俺が助けるよ……勝手に助ける」

『樋口円香の激情』はまだ樋口円香自身が気付いていない、もしくは気付いていないフリをしている、人に知られたくない繊細な所だとわかる。

円香を掴むのは、そういう意味がある。

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「でも振り払うんだろう?」

「よくおわかりで」

このやりとりでは、数々の対話を経てお互いの縮まった距離感、あるいはある種の信頼関係と言ってもいい、円香とプロデューサーのなんとも言えない関係性を感じる。

プロデューサーも円香のことを少しずつわかりはじめているし、円香もプロデューサーのことを少しずつわかりはじめている。

このプロデューサーという男は、人が困っていたら迷わず手を差しのべることが出来る男である、と。

きっと円香は、自分のその手をとるくらいなら溺れることを選ぶだろう、と。

お互いがお互いを理解している。

◇ ◆ ◇

そうして廃墟の美術館で一人になった円香は目を閉じ、『かつて』に思いを馳せる。

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この場所のことなど何も知らないのに

かつては賑やかな声、ひとびとの希望が溢れていたのだろう

未来が輝いていたのだろうと勝手な想像をする

廃墟の美術館の、まだ廃墟ではなかった頃。

この美術館が、人々からどんな希望を託されて生まれたものなのか。
この美術館が、人々にもたらした希望は。

廃墟となった今となっては、『それ』は『目に見えない』けれど。

目には見えない『それ』に思いを馳せる。

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そういう自分が

疎ましい。

目には見えないそれは、あまりにも美しいから。

勝手に補完され、勝手に期待され、勝手に穢れることのない思い出になって、勝手に完璧な存在になる。

そして期待したものと違ったとき。

勝手に失望する。

そんな自分が。

疎ましい。

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終わるために始まったわけじゃない

それでも

それでも。

いつかは終わる。

全ての存在は滅びるようにデザインされているから。

◇ ◆ ◇

コミュタイトルにもなっている『エントロピー』とは情報量のことである。

廃墟の美術館に触れて、廃墟としての情報を得るだけでなく、廃墟の美術館がまだ廃墟ではなかった頃にまで思いを馳せることが出来れば美術館から受け取る情報量【エントロピー】は増幅する。

樋口円香は、目に見える物の、目には見えない所にまで思いを馳せる人間だと、この廃墟の美術館でわかる。
彼女におそらく『捨てられないもの』があるのは、思い出や過去、つまり、『目に見えない物』に価値を見出しているからなのだ。


2.5,捨てられないもの

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幼い頃は浅倉のことを『とおる』と名前で呼んでいた円香。

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いつからか、『浅倉』と呼ぶようになる。

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それでも、心の中では。

心ではまだ『透』と名前で読んでいる。

彼女は、目には見えない『思い出』に、過去に、幼馴染との関係に、並々ならぬ想いがある。

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知ってる
わかってる
私だけは

浅倉透を

sSSR【雨情】では幼馴染全員で交換日記をしていた事が語られる。

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交換日記をよく止めてたのは雛菜でしょ、と悪態をつく円香。

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「最後、ほんとに止めたのは円香先輩じゃなかった〜?」

交換日記を本当に最後『終わらせた』のは円香だった、と答える雛菜。

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「どうせいつか終わるんだから、いつ終えたっていいでしょ」

終わる。

交換日記が。幼馴染の関係が。人生が。

いつかは終わりがくる。
永遠などない。
全てのものはいつかは終わってしまうから。

それならば。

本当の『終わり』が来る前に『止めて』しまえば。

『思い出』にしてしまえば。

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「……よく覚えてるね」


コトバンクより出典


wikipediaより出典

3.剥製

花を育てたりしたりしたことはありますか。

インタビューを、円香は受けていた。

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「毎日、水を換えたり、日に当てたり……」

「それでもしおれてしまうこともあって」

手間をかけて、時間を割いて、相手を想う。

費やした時間が、それをかけがえないものにする。

それでも、花はいつか枯れてしまう。
全てのものは滅びるようにデザインされているから。

人も同じだ。

親に大切に育てられ、愛を受け取り、希望と期待を受け、本を読み知識を蓄え、教養を備え、人と関わり、心を育み、人として成長していく。

それでも、人は、いつか死ぬ。

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「というか、枯れてしまうから、
咲いている時が余計に大切に思えるというか」

むしろ、全てのものはいつか滅んでしまうから。

いつかは終わってしまうからこそ、今を大切にしようと思える。

終わりを、強く意識するからこそ。

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「だからこのお店のドライフラワーを見て、驚いたんです」

円香は、もう1つの生かし方に気付く。

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「花の色がちゃんと残っていて」
「あ、茶色じゃない
うちで枯らしてしまったものとは違うって」

「こうやって生かす事もできるんだって」

美しいものの、美しいものだけを。

終わりあるものを、無理矢理生かすやり方もできるんだって。

切り取って、閉じ込めて、いつまでも香る思い出にする。

いつまでも。

そう、エタータルに。

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切り取り方。閉じ込め方。

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『コツは』
『蕾は避けること』
『しっかり水を与えること』

蕾は避けること。

手間をかけ、時間を費やし、想いを募らせ、かけがえないものになるまで育てます。

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『そうしてもっとも鮮やかな瞬間に』
『吊るすこと』

そして育てた、かけがえないものがピークな時に。

美しいものの、もっとも美しい瞬間に。

美しいものに、美しくない部分は必要ありません!

『終わり』から切り取られたそれは、いつまでも枯れる事なく、『思い出』となり、いつまでも色褪せず、いつまでも香り続けることでしょう!

むしろその思い出は、現実よりも美化され、より美しいものとなるでしょう!

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ね、綺麗じゃないですか。

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(綺麗?)
(本当に?)

……本当に?

花はいつか枯れる。

そんな当たり前の事から外れて。

自分の都合で、独りよがりに、自分勝手に、相手の気持ちなんて関係なしに。

切り取って、閉じ込めて。

先に進むことなく、答えを永久に保留にして、それに気付かないフリしたまま「美しい美しい」ともてはやす。

本当にそれが正しくて、綺麗なものなのだろうか?


◇ ◆ ◇

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「あの……
円香さんは屋上好きですか?」

sSSR【斜陽】では果穂の、夕焼けを見つめる円香との出会いが語られる。

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「だれかと会うためなのかなって
でも、そうじゃないみたいだなって」

果穂は、『誰かと会うため』に円香は屋上にいるのかなと感じていた。

そうじゃないみたいだ、とも。

果穂は想いに耽ることを『たそがれる』と誤用してしまうことを円香に指摘されてしまう。

たそがれ。

黄昏。

偶然にも果穂が誤用した『たそがれ』には円香が見つめる夕暮れという意味がある。

そして『たそがれ』には『誰そ彼』という側面も持ち合わせている。

果穂が円香は『誰かと会うため』に屋上にいると感じたのも、必然性があるかもしない。

でも、屋上には誰もいない。

そこにいない。

目に見えない。

『誰かと会うため』に屋上にいたとしたも、誰ともきっと出会えない。

ならば。

円香は、目に見えない『思い出』と会うために屋上にいるのかもしれない。

やはり、そういう意味では円香は屋上で『たそがれ』ていたのかもしれない。

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果穂は綺麗な夕焼けを写真に撮りました、と円香に見せる。

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「あなたには、空がこんなふうに見えているの」
「あたたかい色」

果穂が撮ったその写真を見て円香は言う。
こんな色をしているの、と。

少なくとも円香には夕焼けに、あたたかい色を見いだせないようだ。

ならば、円香には夕焼けはどう見えているのだろうか。

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「今日がちゃんと終わらないと
次が……始まらないよね……?」

明日がちゃんと来るためには、今日が『終わらない』といけない。

夕焼けとは、今日が『終わる』ことを告げる象徴そのものだ。

円香は、『終わり』を見つめている。

円香は、『終わり』と向き合っている。

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「それなら、まずは終わろう」
「……今日をちゃんと」

明日を迎えるためには、今日を終わらせる必要がある。

明日を『始める』ために必要なのは、ちゃんとした今日の『終わり』なのだ。

『終わり』が切り離された永遠の今日には明日が来ない。

『終わり』の次には、新しい『始まり』がくる。


4.輪郭

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「しばらく揺れるかもしれない
ごめんな」

「今回は電波が入る場所らしいから」

「……連載が終わっちゃうのが残念だな」

プロデューサーは車内、円香を気遣う言葉をかけ続ける。

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あなたの言葉は
一体、どこまで本当なの

円香は思う。

プロデューサーの言葉はどこまで、心からの、目に見えないところからの言葉なの、と。

円香は問う。

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あなたは、欠けた部分に完璧を見るの、と。

思い出や過去にあなたも縋っているの、と。

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あなたは、おそらく

あなたは欠けたものを
そのままに愛する人では

きっとそうではない。

あなたは、思い出や過去に縋る人ではない。

あなたは、美しいものの、美しくないところに目を瞑る人ではない。

あなたは、美しいものの、美しくないところですら、そのものの美しさだと受け止める人だ、と。

人間誰にだってある欠点や、隠したい本心、人に触れられたくない部分ですら、愛しいと言える人だ、と。

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過去ではなく今を見る人では

美しさが目に見えないものだとしたら、あなたは目に見えるものまで美しいと思える人だ、と。

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枯れた花を、
枯れたまま美しいと思う人では

醜い部分を持ち合わせた美しい誰かを、受け止める人だ、と。

ドライフラワーの、枯れた姿を見て、かつての姿に思いを馳せない。
かつての美しさを見ない。

目に見えてしまうもの、美しくないものでさえも、ただありのままを愛せる人だ、と。

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「あなたには大切なものが多すぎるのでは」

「その時、自分の手が届くものだけでも必死に抱えるんじゃないかな」

あなたは、抱えきれる全てを抱え込んでしまう人だ、と。

美しいものも、美しくないものも。

目に見えるものも、目に見えないものも。

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日は沈む
花は枯れる

完璧なものは、完璧だから
完璧ではない

ミロのヴィーナスのように、欠けているからこそ本当の意味で完璧になるのならば。

欠けていないものは、本当の意味で完璧になれない。

永遠にはなれない。

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ただ、形のないものなら
時間にとらわれることがない

だから結局、
美しいものは

なら、不完全なものは

形のないものは。輪郭を伴わないものは。

欠けているものは。不完全なものは。

思い出は。過去は。

目に見えないものは。

ひとりひとりの中で完璧になれる。
勝手に補完して、勝手に完結して、美化され、穢れることのない思い出になって、永遠になる。

ドライフラワーは永遠になれない。
あまりにも完璧すぎるから。
欠けているものが、ないから。
既に美化された思い出が、求めているものが、目に見える形で、ありありと映し出されているから。
輪郭を伴った形あるものだから。

形あるものは、いつか滅んでしまうから。

だから結局、本当の意味で美しいものは、『目には見えないもの』なのだ、と。

彼女はそう結論づける。

彼女にとって『美しさの形』とは『形のないもの』なのだ。

◇ ◆ ◇

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「真面目で誠実、少しだけユニークで、
商店街のみなさんからも大人気な好青年……」

「完璧な自己プロデュース……一流ですね
ミスター・プロデューサー」

プロデューサーは、人が良すぎる。

それはもう、気持ちが悪いほどに。

あまりにも『完璧』すぎる。

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「あなたは欠点も愛嬌に変えて、
結果『いいひと』『すごいひと』にしか見せないですよね」

欠点すら美徳に変えてしまう。

プロデューサーには、欠けているところがない。

あまりにも人間離れしていて。

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(あなたは心をさらけ出しているようで
本当のところが、私には見えない)

「本当に信用ならない」

あまりにも人間離れしていて。

完璧すぎて、信用ならない。

欠点が、欠けているところが、ない。

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「立派な肩書きをもらっても……形だけだから、結局、何をするかでしか語れないんだ」

「……だから、俺は頑張るしかないんだよ」

プロデューサーという肩書き。『形』。
輪郭があるもの。

それ自体に対した意味はなく、行動でのみ誠意を表わせることが出来る。

『形』という目に見えるものに価値はなく、『誠意』という目に見えないものに意味がある。

そう語るプロデューサー。

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「スーツを脱いだら、そんなにできた人間じゃないからさ」

プロデューサーは、俺にも欠点はあるよ、と付け加える。

俺も『完璧』じゃない、円香が思ってるようなできた人間じゃないよ、と。

俺も、欠けた部分があるよ、と。
『目に見えない』ようにしているんだ、と。
プロデューサーであるうちは、スーツを着ているうちは。

そう語るプロデューサーは、やはり欠点がない。

欠けているものがないものは、本当の意味で完璧になれない。

たまに見せる弱さ、人間らしさ、欠点が、プロデューサーを本当の意味で完璧にしている。

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あなたは
愚直で
スーツも
折り目正しく

美しい

『形』も、目に見えないものも大事に出来るプロデューサーは、やはり、美しい。

円香の『美しさの形』に当てはまる部分もきっと少なくない。

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ああ

ぐちゃぐちゃに引き裂かれてしまえばいいのに

ああ、気持ちが悪い。

あまりにも完璧すぎて。

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あなたのやさしいところ、情に厚いところ、
結構ドジだったり、ユニークだったりするところ……
そうやって私を騙そうとするところ、全部嫌いです

全部全部、欠点で。

全部全部、美しいところだから。

ぐちゃぐちゃに引き裂かれてしまえばいい。

いっそのこと、清々しいほどの悪者であれば。
幼馴染と、大切な居場所を奪った悪者であれば。

きっと楽だったかもしれない。

実際、返答や会話の節々からはその聖人っぷりが遺憾なく発揮されている。
正直、プレイヤーとしてプロデューサーに感情移入することはかなり難しい。
あまりにも人間として出来すぎているから。
もう、気持ち悪いレベル。
だから円香が、信用ならないというのもわかる気がする。
だって信じたくない、こんな完璧人間がいること。
こんな眩しい人が側にいたら、自分の醜さが浮き彫りになる。自分の卑しさが恥ずかしくなる。


きっとこの人はそれすら美しい、と言ってしまうのだろうけど。


5.誰そ彼

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円香をイメージして作られたドライフラワーの束、スワッグ。

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「目を閉じたほうが、
この花が良く見える気がする」 

目を、閉じる。

見えないものを見る。

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不完全なものは、不完全だから
不完全ではなくて

欠けているものは、ひとりひとりの中で完璧になって本当の意味で完璧になる。

不完全だから、完璧になる。

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形ではなく、その奥を見る

プロデューサーがとった目を閉じるという行動は、形ではなく、目に見えないものを大事にすることだ。

それは円香の価値観と合致する。

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美しいものは
透明、なのかもしれない

大事なものは。美しいものは。
欠けているものは。不完全だけど完全なものは。

目に見えないものは。

透明なのかもしれない。

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朝が来る

昨日が『終わり』、新しい今日が『始まる』。

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水が滴る
酸素が満ちる

泣けるほど必死になれるなにかを見つける。

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もう空気みたいなものです
そばにいるのが当然だし、楽だし、落ち着くし……

彼女にとって、そばにいて、楽で落ち着く。
そんな存在は『空気』だ。

その『空気』が、満ちる。

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透き通る。

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と お

すきとおる。

透。

浅倉透。

『空気』はそばにいるのが当然だし、無いと死んでしまうものだ。

でも、目に見えない。

彼女にとっての『美しさの形』とは、幼馴染、ひいては浅倉透そのものだった。

樋口円香にとって、浅倉透は『美しさ』そのものなのだ。

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もっと
透明な音じゃないと
美しく

pSSR【ピトス・エルピス】では思うように歌えず、自らの心と葛藤する樋口円香が語られる。

円香は、もっともっと透明な音じゃないと、と声を枯らして叫ぶ。

透明じゃなければ、美しくないから。

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いつもと違う
とても荒くて、単純で、野性的で

そんな円香の叫びは、透明じゃ、ない。

精巧ではなく、複雑でもなく、繊細とは程遠い。

樋口円香は、彼女の歌は、震えるほど感情的なのだ。
透明とは程遠いような。

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透にできることで、私にできないことはない

円香は、目に見えないものに、美しいものに、『透明』に、憧れる少女なのだ。

浅倉透と対等でいるために、必要なことだから。

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[カラ]クレナイ

カラクレナイ。唐紅。

千早ぶる 神代もきかず 龍田川
からくれないに 水くくるとは

百人一首に存在する在原業平朝臣の和歌である。

神のいた時代ですら考えられないほど不思議なことだ、透明な龍田川が(紅葉によって)唐紅に染まるなんて。

そういう意味の和歌だ。

透明になりたい円香は、もう透明じゃいられない。

激しく燃える炎の、唐紅に染まってしまった。



6.円香を自由にしたかった

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円香を自由にしたかった

円香が、魂を削り出すように叫ぶのは、透明になりたいから。

でも、円香は、浅倉透にはなれないから。
魂の叫びには円香の色が、魂が滲んでしまうから。

透明になりたくて叫ぶその声に、色が伴ってしまうのはなにか皮肉を感じる。

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円香にとって価値があるのは何かってことだ

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何か円香の心に響くものは……

浅倉透じゃない、樋口円香。

あなた自身がどう思うか。
あなた自身のことを。

それを、私は知りたいのだ。


7.さいごに

樋口円香を語る上で、まず避けられないのが浅倉透という存在のような気がする。

透明になりたくて足掻けば足掻くほど円香の個性が、色が滲んでしまうのはなんとも皮肉的で、見ていて苦しいものがある。

円香自身がどう思っていて、どう感じていて、何を考えているか。

それが垣間見えたのが【ピトス・エルピス】だと思っている……。

それが本当に大事な事なんだと私は思う。

◇ ◆ ◇

冒頭に『星の王子さま』の引用を入れたが、樋口円香と星の王子さまのシナジーは計り知れないと思った。

有名な『いちばんたいせつなことは目に見えない』のくだりはもちろんのことだが、キツネはもう1つ王子さまに大切な事を教えてくれる。

「きみのバラをかけがえないものにしたのは、きみがバラについやした時間だったんだ」

円香が、幼馴染と過ごした時間こそが、円香にとって『捨てられないもの』たらしめているのだ、と。

ここまで、解説とも考察ともポエムとも言えない怪文書をお読み頂きありがとうございましたごめんなさい。

彼女の事をより深く知りたいと思っている方や、新しくシャニマスに興味を持ち始めた方のの助けに、少しでもなれれば幸いです。


最後に、オタク特有の『なんでも推しのキャラソンに聞こえる病』を発症しているので、樋口円香のキャラソンを紹介して今回の記事を締めくくりたいと思います。

ヨルシカ/準透明少年

凛として花は咲いた後でさえも揺るがなくて
今日が来る不安感も奪い取って行く

正午過ぎの校庭で一人の僕は透明人間
誰かに気付いてほしくて歌っている

凛とした君は憧れなんて言葉じゃ足りないようなそんな色が強く付いていて

どんな伝えたい言葉も目に見えないなら透明なんだ
寂しさを埋めるように歌っていた
誰の声だと騒めきだした
人の声すらバックミュージックのようだ
あの日君が歌った歌を歌う

体の何処かで
誰かが叫んでるんだ

長い夜の向こう側で
この心ごと渡したいから
僕を全部、全部、全部透過して

凛として君の心象はいつの日も透明だった
何の色も形も見えない
狂いそうだ 愛の歌も世界平和も目に見えないなら透明なんだ
そんなものはないのと同じだ

駅前の喧騒の中を叫んだ
歌だけがきっとまだ僕を映す手段だ
あの日僕が忘れた夢を歌う

頭のどこかで本当はわかっていたんだ
長い夜の向こう側をこの僕の眼は映さないから君を全部、全部、全部淘汰して

目が見えないんだ
想像だったんだ
君の色だとか 形だとか
目に見えぬ僕は謂わば準透明だ

今でもあの日を心が覚えているんだ
見えない君の歌だけで

体の何処かで言葉が叫んでるんだ
遠い夜の向こう側でこの心ごと渡したいから
僕を全部、全部、全部透過して

浅倉透を『完璧』な『透明』だとするならば、それに憧れ、近づこうとする樋口円香はいわば『準透明』なのだ。

ありがとうございました。
それではまたどこかでお会いしましょう、ご機嫌よう。

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