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ワンチャン

「魔改造の夜」といふ番組をよく見侍り。主に工学系のエンジニア達が企業ごと、大学ごとにチームを組み、既存の定番グッズを改造するものなり。改造と申すより、「クマのおもちゃにて瓦割りをする」などの無理難題に挑まんとす。ものづくりの楽しさや厳しさを伝へ来たりて、我が好むる番組なり。この中に出で来る「T大」チームが、番組のために制作せし作品を特別に展示すると聞こえ侍りぬ。東京大学の五月祭に行きたり。

番組にて見し作品を色々見せ給ひ、出演していたる学生さんに説明せらる。写真も撮らせ給ふ。その隣の教室にて、「ワンちゃん分解体験」を実施しけり。番組にて「ワンちゃん25m走」に登場せし犬のおもちゃなり。頭を撫でたり、背をタッチすれば様々なる反応あり。ちょうど空きありければ参加しぬ。

ワンちゃんの毛皮を剥ぎぬ。白き本体現る。このあたりまでは、かろうじて「犬」といふべし。その次にネジを外し、中の仕組みを見る。「頭と尻尾つながりて、犬の動きを出し侍り」と女子学生さんが解説せり。モーターやギアむき出しになりたるワンちゃんは、生き物の感なく。いや、おもちゃなれど、いづこより人はからくりおもちゃを生き物と認識するべきか。

またネジを締め、毛皮を被せ、元のごとくワンちゃんに戻す。スイッチを入れて、鳴くことを確認す。いかに鳴きても頭を振りても、「ワンちゃん」は機械にしか見えざりぬ。

工学部の建物を出で、安田講堂まで行きぬ。食堂にて昼御飯を食べむと思ひしが、長蛇の列にてあきらめぬ。コンビニにてパンを買ひて、木陰にて食す。横に、ベビーカーを押せるおじいさん来たり。ベビーカーの中には赤子。この赤子あまりにもぐっすりと眠りたれば、人形にてもあるらむかと疑ひ侍りぬ。微塵も動かず。以前、猿のぬいぐるみに赤子の服を着せて抱きたる人を見かけし後、赤子を見るたびに疑ふ癖つき侍りぬ。

小さき掛け毛布より飛び出せる足は血色あり。生きたる人間なり。

講堂の前にてバンドの演奏始まりぬ。大音量に包まれぬれば、会話も聞こえざりぬ。赤子は、微動だにせず。生まれてすぐに東大に通ふほどの大物なるべきか。

それともやはり、人形なるべしや。

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