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【47エディターズ】11月公開の47リポーターズを振り返る

共同通信では、注目ニュースの背景や、知られていなかった秘話、身の回りの素朴な疑問などを深掘りしたインターネット向けの記事「47リポーターズ」を随時配信しています。

当コーナー【47エディターズ】では、現場の記者が書いた記事の最初の読者であり、その狙いや内容を精査し、時に議論を交わして編集を重ねたデスクが、11月に出した47リポーターズを紹介します。


前回10月分はこちらです。

◆「核燃の村」に残る満州の記憶、開拓の跡

 11月分と言いながら、まずは前回紹介できなかった10月の記事から。青森支局から大阪社会部に転勤してきた中川玲奈記者による10月20日公開の記事です。仙台編集部から、現在は原子力報道室に異動した河村尚志デスクがご紹介します。

山口県上関町で使用済み核燃料の中間貯蔵施設の建設計画が動き始めました。将来この施設が受け入れるものも含めて、使用済み燃料のほとんどは青森県六ケ所村にある日本原燃の再処理工場に運び込まれます。この工場が稼働しなければ燃料の行き場がなくなり、全原発が運転できなくなります。 

なぜこれほど重要な施設が六ケ所村にできたのか。かつての村が貧しい土地だったことを知ると、背景が理解できるかもしれません。戦後、外地からの引き揚げ者が増えたことなどを背景に、政府は全国で緊急開拓事業を実施しました。六ケ所村も開拓の村です。 

中川記者は青森支局時代、仕事の合間を縫って支局から遠い六ケ所村に通い詰め、当時を知る人を探し続けました。取材に応じてくれた村井喜代女さんのルーツは山形県庄内地方。4歳のとき満州で終戦を迎え、帰国する途中、3歳の弟と生後1週間の妹を失っています。長年語ってこなかったというつらい記憶を話してくれたのは、中川記者の情熱ゆえでしょうか。記事が掲載された新聞をお渡しすると村井さんは大変喜び、知人に見せて回ったそうです。
「小3で父が亡くなり、小5で母が出て行き、15歳で自動車整備士見習いとして埼玉県に行った」という田村七郎さんは、今は村に戻り、自動車関連会社を経営。「会社は原燃とともに歩んできた」と語ってくれました。
中川記者が訪ねるといつもコーヒーを出してくれる戸田衛村長の「忘れたいことがいっぱいあるね」という台詞が印象に残ります。 

開拓事業や核燃料サイクル政策など国策の変遷を追いながら、村に生きる人の歴史を描いた意欲作です。 

◆日本人同士の虐殺を描いた映画「福田村事件」の裏で、地元・香川は葛藤を抱えた

11月1日公開の高松支局・牧野直翔記者が書いた記事。

この記事は「記者とデスクのやりとり」として、別のnote記事で取材過程や執筆過程を詳しく紹介しました。こちらをご覧ください。このnote記事を「差別をどう記事にするか」というテーマで、授業で使っていただいた大学もありました。記者冥利につきます。

◆「よさこいは人の温かさと街全体でつくり上げる」感動の連続で、取材のはずが踊り子に

高知支局に1年生記者として赴任した船田千紗記者が書いた記事がこちら。11月5日公開です。大阪社会部の角南圭祐デスクが紹介します。

記者は地方支局に赴任しても、多くが1~2年の短期間でまた転勤することになります。船田記者は、せっかく縁を持てた高知に少しでも溶け込もうと模索する中で、「よさこい」に参加することにしました。
「じゃあルポを書いてみよう」と打診し、参加するきっかけになった居酒屋でのことから、練習風景、本番までをまとめた記事になりました。船田記者も高知にだいぶ溶け込んだのではないでしょうか。それにしてもよさこい、楽しそうですね。高知の風物詩がいつまでも続くことを願います。

◆「曲がる太陽電池」ノーベル賞の期待もかかる日本発技術の驚くべき実力とは

大阪経済部の坂手一角、折原恵理両記者が書いた11月6日公開の記事。大阪経済部の久保田智洋デスクが振り返ります。

名前を見ただけで難解なイメージを持たれそうな「ペロブスカイト太陽電池」について、将来性を大阪経済部の記者が丁寧にまとめた記事です。

経済部の記者を長くやっていると、世界で戦える日本の産業が減っていると感じます。かつて日本がシェア世界一で盤石の地位を確保していた製品が、他国に敗れている。半導体に限らず、そんな状況はたびたび目にするようになりました。
「曲がる太陽電池」は日本発の技術です。日本を支える産業になってほしいのですが、すでに他国も多額の投資をしているようです。

新しい産業や技術は自然に生み出されるものではなく、研究開発や設備に投資をし続けなければ出てきません。
個人がノーベル賞級の発明をしても、その技術を事業化できるかは各国で競争することになります。日本が「将来の飯の種」を生み出し続けられるかは、将来を大きく左右する大事なことのように私は思います。そんなことを感じてもらえればいいなと思います。

◆運転手不足に悩むバス会社が仕掛けた「バズり大作戦」

神戸支局の清水航己記者が書き、11月12日公開された記事。大阪経済部の浜谷栄彦デスクが振り返ります。

路線バスの運転手不足は全国あまねく起きている深刻な問題です。首都圏や関西といった相対的に人口密度の高い地域も例外ではありません。このままだと、多くの人々が移動の自由を奪われてしまいます。この危機的な状況を克服するために、各地のバス会社がユニークな人材募集を始めました。
神姫バス(兵庫県姫路市)のポスターはまるで映画の宣伝のようです。京浜急行バス(横浜市)の募集広告はユーモアがあって、くすりと笑ってしまいます。大分県別府市は予算を気前よく使って交通事業者を後押ししています。
清水記者が、こうした取り組みを疾走感のある文体でまとめました。はっきり言って公共交通はとっつきにくいテーマです。だからこそ明るいタッチで現状を伝えたことに意味があると思います。この記事を読んだ若い世代が、運転手を職業選択の候補として考えてくれることを願ってやみません。

◆「何かあったら責任もてないから」先天性の心臓異常、大人になっても職場が「壁」理解得られず孤立

大阪社会部に春まで所属し、現在は本社のくらし報道部で働く三村泰揮記者が書き、11月14日公開の記事。大阪社会部の関陽平デスクが紹介します。

健康な人との違いは一見しただけでは分からない。けれど、風邪をひいただけで1週間以上寝込むことがある。長距離走や水泳もできない。
そんな人が100人に1人の割合で毎年生まれていると聞いて、皆さんはどう思われますか?

この記事は、生まれつき心臓に異常を抱える「先天性心疾患」の当事者がどんな困難を抱えて生きているか、当事者と支援者の言葉で伝えることを目指した1本です。医療の発達によって生存率が高まった一方、「目に見えない障害」に理解を得る難しさから、職場に定着するのが難しいという壁に直面している様子を描きました。

三村記者は強い問題意識を持って取材に臨みました。離職を防ぐ支援の在り方をはじめ、当事者とともに働く皆さんに役立ちそうな実践的なアドバイスも盛り込まれています。公開した記事には、当事者と思われる方からも多くのコメントが寄せられました。

◆「たのむから本屋やめんといて」町の小さな書店は減り続けるのに、なぜこの店は賑わう?

大阪社会部の田中楓記者が書き、11月27日に公開した記事。角南圭祐デスクが報告します。

田中記者は産休・育休を経て、秋に仕事に復帰しました。現在はいわゆる時短勤務です。そんな田中記者に、自分の都合の良い時間帯に取材し、たくさん人に話しかけ、長文記事を書くという「リハビリ」をやってもらえないかと打診したのが、大阪・谷六の「隆祥館書店」ルポでした。あの店なら、いつ行っても店主とお客さんが本のことで話し合っていて、人と人、人と本との出会いが生まれ続けているからです。皆さんにもぜひ行っていただきたい本屋さんです。

田中記者は、隆祥館書店の人気の秘訣や、苦闘の歴史をきちんと書き込んでくれました。特に「ランク配本制度」は、小さな本屋にとっては非常に苦しいシステム。町に書店は必要です。早急な改善が望まれます。
記事では、町の小さな本屋さんは減り続けていると書きましたが、実は統計には出てこない、独立系書店と呼ばれる個性的な小さな本屋が増えているという現状もあります。そんな話も今後取材してみたいと思います。

田中記者による音声解説もあります。

◆大阪万博、500日前にこの状態で本当に開催できるのか(前編)「理念もマネジメント能力もない」という実動部隊

最後は、大阪・関西万博取材班による11月30日公開の記事です。関陽平デスクが報告します。

2025年大阪・関西万博と聞いて、皆さんが思い浮かべるイメージはどんなものでしょうか。
「費用がずいぶんかさんでいるんでしょ」
「パビリオンの建設が遅れているんだっけ」
「ていうか、万博ってマジで開催するの?」
こんなところが当てはまるのではないかと想像します。
万博を運営するのは国でもなく、開催都市の大阪府や大阪市でもなく、日本国際博覧会協会、通称「万博協会」です。インターネットやテレビで名前を目にしたことのある方もおられるかもしれませんが、誰がいて、具体的に何をしているのか、までご存じの方は多くはないのではないでしょうか。

万博協会の内部で何が起きているか、開幕に向けたかじ取りは万全なのか。そもそも、何でこんなに次から次へと課題が出てくるのか。こうした疑問に答える記事として、協会が抱える課題をまとめました。執筆したのは木村直登記者です。開幕まで500日、という節目に合わせて公開しました。

取材を通じて「寄せ集め所帯」「『顔』となるリーダーの不在」といった、日本社会の縮図のような課題が浮かび上がってきました。木村記者自ら、なぜこの記事を書いたのかという背景を語る記事は12月28日に公開予定ですので、こちらもぜひお読みいただければ幸いです。

また、木村記者が記事の背景を音声で解説するポッドキャストも配信済みです。万博についてさらに関心を深めたい方は、こちらもぜひお聴きいただければと思います。

11月分は以上です!

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