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【47エディターズ】10月公開の47リポーターズを振り返る

共同通信では、注目ニュースの背景や、知られていなかった歴史秘話、身の回りの素朴な疑問を深掘りしたインターネット向けの記事「47リポーターズ」を定期的に配信しています。

【47エディターズ】では、現場の記者が書いた記事の最初の読者であり、その狙いや内容を精査し、時に議論を交わして編集を重ねたデスクがリポーターズを紹介します。

今回は10月に出稿した記事を振り返ります。
映画の副音声のように、記事と合わせて楽しんでいただければ幸いです。


■公明党と「全面対決」する日本維新の会、3回目の「大阪都構想」挑戦はあり得るのか

大阪社会部の木村直登記者が書きました。大阪社会部デスクの関陽平が振り返ります。

大阪を拠点に勢力拡大を続ける日本維新の会は、衆院選ではこれまで公明党に「配慮」してきました。公明党議員が選出されている大阪と兵庫の計6小選挙区には候補者を立ててこなかったのです。

大阪市を廃止して特別区に再編する「大阪都構想」を実現する目標に向けて、公明党の協力が欠かせない状況だったのが理由です。ただし、都構想の賛否を問う住民投票は2回実施して2回とも否決されています。

今年4月の統一地方選後、維新は従来方針を転換し、次期衆院選では公明党と6選挙区で全面対決します。背景には、維新の「創業者」だった松井一郎前大阪市長が政界を引退したこともあります。維新はどこへ向かおうとするのか、3度目の住民投票はあるのかを読み解いた1本です。

木村直登記者は、大阪の行政・政治担当としてここ数年の維新を間近で見て、折に触れて彼らの動向と展望を探る記事を出しています。今回は、不定期で出している一連の企画「維新を読む」の第4弾と位置付けています。

第1弾から第3弾は、上から順にこちらです。

エディターとして原稿を見た私は、維新がいわゆる「地域政党」として誕生する前後の時期を現場の記者として取材していました。発足して十数年の組織であり、「顔」である代表も数年おきに変わり、同じ「維新」という看板を掲げながらもその質は常に変化を続けているように見えます。

変化の激しいこの時代に、こうした「とがった」組織が力を増していくのか、それとも過去の新興政党のようにいずれしぼんでいくのか。少し大げさに言えば、維新という組織は日本社会の行く末を占う観点でも極めて興味深い対象です。その本質に迫る記事をこれからも出していきたいと考えています。


■「少年院に入って良かった」最後の入所者が語った言葉の意味とは

松山支局・山口祐太郎記者、熊木ひと美記者、高松支局・広川隆秀記者による記事です。この記事も関がエディターを担当しました。

新聞社や通信社の記者は、いつでも好きなときに好きな場所で好きな人を取材できる、わけではありません。法律に定められた国や地方の行政組織を相手にする場合、規制という「壁」にぶつかる場面が多々あります。刑務所や少年院といった矯正施設はその代表例で、内実をうかがい知る機会は非常に限られています。

大阪支社のnoteにも既に登場している高松支局の広川隆秀記者は独自の取材網を構築・拡大する中で、来年4月に廃止が決まっている松山市の少年院「松山学園」での取材を許されました。

松山支局の同僚、山口裕太郎、熊木ひと美両記者とともに内部を視察し、最後の入所者となった少年に密着することで、学園が力を入れてきた「開放的な処遇」の一端にも触れました。

教官とともにしまなみ海道へとサイクリングに出かけたり、地域との交流目的で盆踊り大会を開催したり。少年院という言葉の響きと一見かけ離れたような活動を通して、立ち直りに期待する教官らの思いに応えようとする少年の様子が浮かび上がってきます。

note記事はこちら。

「知られざる世界」を知ることは、自分と異なる立場や考えの人を理解するきっかけになりうると考えています。こうした「硬派」な記事がインターネット上でバズることはまずありませんが、一人でも多くの方の目に触れて何かを考える一助になればと願っているところです。


■「受刑者に便宜を図る必要はない」政府の通知が阻む社会復帰

関が担当しました。 

前出の高松支局・広川隆秀記者が、受刑者のマイナンバーカード取得を取り巻く障壁を解き明かしました。法務省が2015年に出した通知が今でも有効で、これにより出所前に手に入れることが困難な状況が続き、円滑な社会復帰の妨げになっているのです。

顔写真付きの身分証明書は、社会生活のさまざまな場面で役に立ちます。裏を返すと、たとえば運転免許証を持たず、マイナンバーカードも入手できていない人は、住まいを確保したり、スマホを契約したりといった場面で立ち往生しかねないということです。

記事中に登場する専門家は、受刑者がこの状況で出所すると「更生したい気持ちがくじけてしまいかねない」と指摘します。再犯者率の高さを考えるとき、こうした指摘は非常に重たいものだと感じます。

ところで、この記事には続きがあります。記事を公開した後、法務省が新たな通知を出して従来の対応をがらりと改めたのです。

この経過については広川記者から別途、noteで報告してもらおうと思っています。記事を出したことによって社会が(恐らく少しだけ良い方に)動いた、かもしれないという手応えは、問題意識を持って取り組む広川記者にとって、次なる仕事へと向かう何よりの原動力になるのではないかと考えています。


■捜査員が激怒「これが危険運転でなければ、何が危険運転に当たるんだ」

神戸支局・力丸将之記者による記事で、デジタルコンテンツ部の斉藤友彦デスクが講評します。

初稿の段階から、遺族のみなさんの証言、裁判で判明した事実、罪名の成り立ちが入っており、誰もが抱く疑問「なぜ危険運転に当たらないか」に対する答えが詰まっていました。取材が尽くされていたため事故を立体的に再現することができ、結果として多くの人に読まれました。記者の頑張りに答えることができて、ほっとしています。


■「まじめにやったところで邪魔しか入らない」「そして人とのつながりは完全になくなった」京アニ事件、青葉被告の軌跡・前後編

現在裁判が続いている、京都アニメーション放火殺人事件の記事です。執筆は大阪社会部の武田惇志記者と真下周デスク。真下が振り返ります。

京アニ事件の裁判員裁判は9月から始まり、12月には論告・求刑へと進み、大詰め段階に入っています。来年1月には判決が言い渡される予定です。被告の生い立ちや事件前の生活環境を巡っては、事件後の取材では明らかにならない部分が多く残されていました。今回の公判では、家族や支援者らの供述調書の読み上げや連日の被告人質問で、それらの状況がかなり立体的に見えてきました。

都度都度報じている新聞記事では表現できないストーリー性やテーマ性を持たせる形で今回、武田惇志記者と二人三脚で「青葉被告の軌跡」を2回にわたって展開しました。

時期が少し遅くなってしまったのですが、父親による妹への性的虐待の過去など他メディアで触れられていない事情にも言及した他、前回の事件の服役後に受けていた、障害者や高齢者の社会復帰に向けた支援「特別調整」の手続きについても点検しており、長く参照される記事と考えています。

武田記者の記事はこちらにも。


■「日本人客は『ごめんね』と言いながら変態のような行動を要求する」韓国の性売買当事者が明かした実体験

大阪社会部・中田祐恵が取材・執筆したこちら。大阪社会部デスク・角南圭祐が報告します。

韓国で性売買に従事していた女性たちの自助ネットワーク「ムンチ」のメンバーが活動報告の日本語版を出版し、東京と大阪で「トークコンサート」を開くというので、大阪社会部の中田記者(現在は同部デスク)が取材・執筆しました。

大阪コンサートの様子を中心に、彼女たちがなぜ性売買で働かなければならなかったのか、そこでどんな経験をし、いま何を考えるのか。日本に来て、日本の性風俗が集まる繁華街をどう見たか。彼女たちが語る言葉は日本人男性として耳の痛い話ばかりで、きちんとディテールまで伝えるべき内容だと思いました。

非常に多く読まれ、ヤフコメも3千件ほど寄せられました。しかし残念ながら、その多くが彼女たちに排他的で、ヘイトスピーチを含むものもありました。記事を読んでいないと思われる誤解や偏見に基づいた書き込みも多数あり、こうしたヤフコメに寄せられてPVが伸びたという側面は否めません。

それでも、読んでくれた人が、日常に性的な広告などがあふれる日本社会について、何かを考えてくれたらと思っています。

共同通信が配信した記事がヤフーニュースに載り、ヤフコメが荒れると、それを読んだ人の心が傷つくだけでなく、「こんなこと書いていいんだ」と、さらにひどいコメントを呼び込みます。放置していると、それが現実社会にもこぼれだし、ヘイトデモなどに育っていくこともあります。書き手としても見過ごすことはできません。

私たちは、1年前ヤフコメのヘイトを問題視する記事も配信しました。

この記事はヤフーニュースにも掲載されました。今後も書いて終わりだけでなはく、書いた記事への責任を持つ仕事も続けていかねばと思っています。


■「子ども3人の父親役もこなさなければ」シングルマザーの奮闘は病で崩壊した

福島支局OBでもある大阪社会部の西村曜記者による記事です。エディターを担当した大阪社会部デスクの戸口拓海が講評します。

死ぬかもしれないと思ったことを覚えています。2011年3月11日、東日本大震災。私は記者1年目が終わる直前に東京で研修中、大きな揺れに襲われました。

翌日駆け付けた宮城県の被災地で目にしたのは、腰まで水没した茶色い町並み、がれきだらけの原っぱで傾く大きなタンカー、運ばれていくご遺体に手を合わせ見送る人たち。小学校の体育館などの避難所では、余震のたび悲鳴が上がり、白煙を上げる原子炉建屋がガラケーのワンセグテレビに映し出されていました。

1週間の取材後、任地の岡山に戻り、日常へ。やがて札幌、東京、大阪へと転勤し、「震災」を意識する機会は減っていきました。みなさんはいかがですか。あれから12年。多くの人が生活を再建してきた一方で、苦しみ続けてきた人たちがいるという「再建格差」の実態を、西村記者が浮き彫りにしました。

西村記者は現在、大阪の行政・政治を担当していますが、かつて福島にいたことなどから「被災者の方々のいま」の取材を続けています。今回お話を伺ったのは、原発事故後に地元の福島から子ども3人と大阪に県外避難した女性です。

記事で描いたのは、帰還を望む夫との離婚を機に過重労働や病気、失業、家族不和へと追い込まれていく姿。

西村記者の調査報道で、こうした県外避難者の要支援世帯が全国に少なくとも256世帯いることも明らかになりました。親族や友人のサポートがない見知らぬ土地での「生活崩壊の連鎖」。有識者がそう語る現象は、災害大国と呼ばれる日本に生きる私たちみんなを襲うかもしれない。そう考えさせられる記事でした。

西村記者は以前にも以下の記事を配信しています。自身の思いを近く「書いた理由」でお伝えします。


■消費者と作り手つなぎ食品ロス削減、口コミで利用者伸ばすエリア限定ECサイト

大阪経済部・小林笙子記者が書いた記事を、大阪経済部デスクの浜谷栄彦が振り返ります。

パナソニックホールディングスが、神奈川県の藤沢エリア限定で野菜やパンといった食料品の作り手と消費者をつなげる取り組みを始めました。スーパーで販売する従来の形だと、どうしても売れ残りが生じます。こうした食品ロスに対する抵抗感は強まっています。

廃棄物を減らすにはどうすればいいか。

パナソニックが知恵を絞り、地域限定の電子商取引(EC)サイトを考案しました。大量生産、大量消費の代表格とも言える家電メーカーを傘下に持つ大企業が、ごみ削減を率先する点に面白さがあります。大阪経済部の小林記者が現場をたっぷり取材し、臨場感あふれるリポートが仕上がりました。

<皆さんのご意見ご感想を是非お聞かせ下さい>

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