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2023年11月22日 院内集会「これでいいのか共同親権」にて

パワーポイントはこちらから
https://drive.google.com/file/d/1WINnvDMKyJQlcTPH4bP-lgyv_9Jq3Zxb/view?usp=sharing

(はじめに)
 はじめまして。名古屋で弁護士をしております岡村晴美と申します。今日は、実務家から見た「共同親権」への懸念についてご説明させていただきます。お忙しい中、お集まりいただき、関心をもっていただいたことに感謝しています。どうぞ、よろしくお願いします。
 現在、家族法改正の法制審議会が開かれており、今年の8月には、「たたき台」と称する要綱案が示され、いわゆる「共同親権制度」の導入が、早ければ、次の通常国会で成立するのではないかといわれています。しかし、この改正によって、DVや虐待の被害者は危険にさらされ、長期にわたり子どもたちを父母の紛争にまきこむ事案が頻発するであろうことを懸念しております。離婚事件を多数経験してきた実務家として、現在の日本で、いわゆる「共同親権制度」を導入することの危険性について非常に心配しています。
最初に申し上げたいことは、そもそも、「共同親権か、単独親権か、という二者択一のような問題の立て方に対する違和感があるということです。この問題は、「離婚後の父母と子の関わり」をどう考えるかという問題であり、法制度のあり方にはグラデーションがあるからです。日常の監護に関する共同の規定は、現行法においても民法766条という規定がすでに存在しており、当事者間で協議ができないような場合には子どもの最善の利益にかなうように裁判所が審判で命じることができます。今回の改正は、法的な決定という場面について、当事者間に合意がなくても、共同でやらなければならないと命じるのかどうかということが論点となっています。家族をめぐる法的手続きは、日本でも、世界でも、ここ10年の間に限ってみても、めまぐるしく運用が変化しております。こと、子どもに関する法制度であるからこそ、現行法のもとで、何が起こっていて、何が深刻な問題であるのかについて、正確に認識した上で議論をしていただきたいと思っておりますので、その点、ご留意いただければと思います。

(8月の申し入れ)
 2022年12月6日から2023年2月17日まで、「家族法制の見直しに関する中間試案」に関する意見募集(パブリックコメントの募集)が行われ、8000件以上の意見が寄せられたと伝えられています。その大半を占める個人の意見は、3分の2が反対意見だったようですが、それが秘密にされたまま、5月にひらかれた第26回法制審議会では、「父母双方を親権者とすることについて父母が合意することが可能な場面」での共同親権(いわゆる「合意型共同親権」)の導入の「方向性」が示され、6月にひらかれた第27回法制審議会では、父母のどちらかが反対しても、共同親権が適用される、いわゆる非合意型強制共同親権の案が示されました。議事録も間に合わないうちに、いくらなんでも、拙速ですし、進め方が強行的だと思いましたので、弁護士の賛同者が375名集まりまして、8月に、法務省に「導入ありきの議論はやめてもらいたい」という申し入れをいたしました。 そこで、私たちが要望したことは4点あります。

https://note.com/kyodo_shinpai/n/n50dd1c20f5de

 1つ目は、「合意型共同親権においても、DV・虐待・父母の葛藤の激しいケースが紛れ込む危険がある」という点です。「合意」がある場合にも、それが積極的で真摯なものであるのか、夫婦間のパワーバランスによっては、その「合意」が事実上強制された結果ではないかという懸念について、十分な議論が尽くされているとは思えません。養育費の受給率の低さは、両者のパワーバランスには相当な差があるということを示しています。私たちは、協議離婚において、対等な当事者間で公平に合意が形成されているというのは幻想だということを知っています。離婚制度事態について見直さないと、否応なく共同親権を『選択』し、加害的な親が、離婚後も、子の進学や医療等の意思決定にかこつけて生活に介入してくる事例が多発するだろうことは、現実の事件を念頭におけば、皆、あれこれ思い当たるという状況があります。
 2つ目は、「非合意型強制共同親権は、子ども達を危険にさらすリスクが高まる」という点について申し入れました。子どもに関する事項について、共同で決定するという合意すらできない父母に、離婚後も子どもに関する事項を合意で決めなくてはならないと裁判所が命じて、何のサポートもなくどうやっていくのでしょう。そもそも裁判手続きによってしか離婚できない父母に、親権の共同行使を命じてうまくいくことがあるのでしょうか。私立に進学するか公立に進学するか、修学旅行に行くべきか、扶養はどちらにつけるか、様々な決定をする上で、情報が必要だと言われれば、無数の質問に対して回答することが要求され、それに反したら損害賠償請求を受ける。それが共同親権制度です。法制審議会の議事録を拝見いたしますと、「離婚後はもう子どもに関わりたくないという親であっても親権者とする余地がないのかといえばそうでもあるまい。」「理論的にあり得る」といった、現場感覚からすればほとんど想定できない、極めて特殊な状況を想定して、離婚後の父母の意思に反しても、親権の共同行使を命令するという提案がなされています。
 3つ目は、議論の前提として、パブリックコメントで集まった、DV被害者の声を議論に反映してほしいということです。なぜ、反対意見が多かったのか。皆は何を心配しているのか。議論に活かしてほしいという当たり前の要望をいたしました。
 4つ目は、現在、これが、今の実務の大問題だと思っているのですが、面会交流についてです。2011年の民法766条改正以後、家庭裁判所において、「面会交流原則実施論」と呼ばれる運用が押し進められ、DVがあろうが、虐待があろうが、子どもが拒否しようが、事実上、面会交流が強制されてきました。
 第8回の法制審議会で、2010年の調査に基づいて、「離婚直後は紛争が激しいが、3年とか5年で落ち着いてくる」という発言が委員から出ていましたが、面会交流という枠組みを利用して、加害的な親が何度も面会交流の申立てを繰り返し、学校行事に押しかけ、通学路に待ち伏せし、子どもや同居親に対する虐待やDVを継続する手段に使われてきたことを私たちは現場で経験しています。様変わりしている家裁の実務を無視して、子どものためになる制度をつくることができるでしょうか。
 面会交流原則実施論は、端的にいって、失敗だったと思います。その原因は、「面会交流を行った方が子どものためになる」という考え方が、DVや虐待、子どもの拒否を軽んじるようになったことにあります。子どもがどれだけいやがろうと、面会交流に応じなければお金を支払えと、間接強制金の金額が高騰し、1回当たり、30万円、50万円という法外な金額を命じられるようになりました。その結果、何が起こっているか。子どもに対する虐待、性的虐待、果ては殺人事件まで起きています。加害的な親による申立ての繰り返しもさることながら、幼少期の子どもの意思を軽視して面会を無理強いしてきた結果、決め直し調停が多数申し立てられ、家裁のリソース不足はかなり深刻な事態だと思います。幸いなことに、原則面会交流原則実施論は2020年に終わりました。新たにとられた方針は、「ニュートラルフラット」です。家族の事件について、何か理想の家族像のようなものを想定して、それに近づけようとしてはダメだということです。法制審議会は、こうした方向性に逆行しているように見えます。運用は見直すことができますが、立法されてしまうと見直しは困難だということも懸念されます。

(9月の弁護士ドットコムのアンケート調査)
 ここで、もう1つ、現場の弁護士の意見を紹介します。9月に行われた、弁護士ドットコムの、法務省のたたき台についてのアンケート調査です。

 https://www.bengo4.com/c_18/n_16520/

 176名の弁護士が回答し、個別のコメントも多数報告されていて、大変興味深いものなのですが、たたき台の賛否は、56.3%が反対。21.0%がどちらかといえば反対と回答しています。さらには、たたき台どおりに改正された場合、8割の弁護士が、「家裁は上手く機能しない」と回答しており、「上手く機能する」という回答は1.1%という結果でした。この改正により、世の中はどう変化するかという質問には、「結婚や離婚をあきらめる人が増える」「子どもが犠牲になる」「社会が混乱する」という回答が寄せられています。弁護士実務への影響については、「親権をめぐる争いや、進学だ、医療だと言って争いになるので、仕事は増えそうであるが、こんな気の毒なことでお金をもらいたくない」「業務妨害や懲戒請求が増える」「事件が長期化する」という意見が寄せられています。これは、現場からいうと、全面的に賛同です。共同親権制度が導入されると、親権争いがなくなるという方がいますが、現時点でも、真の親権争いは、監護者指定の争いとなって表れます。おそらく、調停になるようなケースでは、離婚調停と、監護者指定の申立てがセットで行われることになるでしょう。そして、個別紛争が生じれば家庭裁判所で決めれば良いといいますが、親権者変更の申立てもセットで行われることでしょう。そんなこと、容易に想像がつきますし、地裁や簡裁に、損害賠償請求を求める裁判も増加することでしょう。諸外国で、リーガルハラスメントとか、Post-Separation Legal Abuseと言われる問題です。

(法務省のたたき台に対する具体的な懸念)
 現在、検討されている、たたき台では、「父母双方が親権者となるときには、親権は父母が共同して行うものとする。ただし、次に掲げるときは、その一方が行うものとする」として、「ア 他の一方が、親権を行うことができないとき、イ 子の利益のため急迫の事情があるとき」があげられています。ここでいう「急迫の事情」とは何を指すのでしょうか。
 ここでいう共同親権は、婚姻中の共同親権にも適用されます。その結果、どういうことが起こるでしょうか。例えば、育児もほとんどしないし、生活費もいれず、暴言もあり、ことあるごとに「子どもを置いて出ていけ」と言われる。この場合、子連れ別居をすることはできるのでしょうか。子の居所は、父母の共同親権に属する。身体的暴力がなければ、「急迫の事情」とならないのではないでしょうか。現に、今、DV被害者に対して、「連れ去り」「実子誘拐」という言葉が向けられており、当事者にも、支援者にも萎縮効果が生じており、逃げ遅れという最悪な状況が生まれています。これを、家族法の改正で追認するのでしょうか。
 2023年10月21日、弁護士有志が、たたき台に対する疑問として、18の事例をあげて、多大な混乱をしょうじさせることを指摘しました。法務省は、この事例のすべてに答えられるのでしょうか。例えば、〈事例13〉学校のプレゼン大会でチームの中心になってプレゼンを競い優勝し、そのチームが学校代表となって校外の大会に出られることになった。しかし、この後、別居親が勝手に学校へ保護者として連絡し、プレゼン大会不参加を告げてしまったら・・・。
 たたき台は、DVや虐待に配慮した、と言っています。しかし、共同親権が子どものためにならないケースは、DVや虐待ばかりではなく、父母の紛争が激しい場合や教育虐待や過干渉などがあり、子どもの拒否感が強い場合もあります。例外とすべき事項を規定する方式では、面会交流原則実施論と同じで必ず失敗します。同じ事は、英国司法省の危害報告書でも報告されているし、オーストラリアの法改正でも、親の平等な関与の推測を廃止しました。DV防止法は、家族法の特別法ではありません。せっかく、被害者を保護しても、家族法の規定により、被害を継続させるのだとしたら何のために逃げるのか分からなくなります。

(おわりに)
 現在、DV被害者は、受難の時をむかえています。
 ワンオペ育児で、DV・モラハラを受けても、子どもを連れて逃げれば、「連れ去り」「実子誘拐」などと非難され、刑事告訴や、民事裁判、受任弁護士への懲戒請求など、Post-Separation Abuse を受けています。とりわけ、司法手続きを利用したPost-Separation Legal Abuseは、深刻な被害を生み出しているが、それについての調査がされていません。
誰のための家族法改正なのか。
 「個人的な話であるが、配偶者との間で事実婚を選択し、出生した子については、母である配偶者の単独親権となったため、親権を有さずして、18年間子育てをしてきた。この経験からすると、子育てに親権の存否は関係ないし、不便でもない。子どもにとって必要なのは父母の信頼であると考えるが、信頼を持つということは誰にも強制できない。」(法務省申し入れの弁護士のコメントより)
 必要性と弊害はバランスをみていただきたいです。子ども達に対して、責任を持って子育てしてきた人たちを危険にさらすようなことがあってはならないと、DVや虐待事件を取り扱ってきた弁護士の現場の意見として、切実に申し上げたいと思います。
                 

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