2023年8月21日、法務省に対して、以下のとおり、申し入れを行いましたので、ご報告いたします。
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申し入れ書
共同親権導入の結論ありきで議論を進めないでください。
1 合意型共同親権においても、DV・虐待・父母の葛藤が激しいケースが紛れ込む危険があります。
2 非合意型強制共同親権は、子どもを危険にさらすリスクが高まります。
3 議論の前に、パブリックコメントで集まった意見を公開し、議論に反映してください。
4 裁判所に面会交流が強制されてきた実態について調査・分析をしてください。
私たちは、法制審議会において、共同親権の導入について、現場からかけ離れた議論がなされ、拙速ともいうべきスピードで押し進められようとしていることを危惧しています。
2022年12月6日から2023年2月17日まで、「家族法制の見直しに関する中間試案」に関する意見募集(パブリックコメントの募集)が行われ、8000件以上の意見が寄せられたと伝えられています。にもかかわらず、未だにこのパブリックコメントは公開されないまま、5月16日にひらかれた第26回法制審議会では、「父母双方を親権者とすることについて父母が合意することが可能な場面」での共同親権(いわゆる「合意型共同親権」)の導入の「方向性」が示され、6月6日にひらかれた第27回法制審議会では、父母のどちらかが反対しても、共同親権が適用される、いわゆる非合意型強制共同親権の案が示されました。
しかしながら、「合意」がある場合にも、それが積極的で真摯なものであるのか、夫婦間のパワーバランスによっては、その「合意」が事実上強制された結果ではないかという懸念について、十分な議論が尽くされているとはいえません。離婚家庭における養育費の受給率からは、その両者のパワーバランスには相当な差があると推測せざるを得ません。さらに、「合意がなくても、共同親権(双方を親権者)とすることが子の利益になることがあるかもしれない」という、現場感覚からすれば到底考えられない、極めて特殊な状況を想定して、離婚後の父母に対しても、親権の共同行使を命令するという提案まで出たとも伝えられています。このように、本来されるべき議論がされないばかりか、現実離れした議論すらされていることに対し、強く懸念します。
また、2011年の民法766条改正以後、家庭裁判所において、「面会交流原則実施論」と呼ばれる運用が押し進められ、事実上、面会交流が強制されてきました。法制審議会では、この実態について一顧だにされないまま議論が進んでいます。この間、面会交流の機会に、子どもや同居親に対する虐待が行われてきたことを、私たちは現場で経験しています。子どもに対する性的虐待や、果ては殺人事件まで起きていますが、こうした実態について、十分な調査がされていません。昨今、原則面会交流の徹底した運用は見直されつつあるのに、法制審議会の議論がこうした方向性に逆行しているように見られることも懸念されます。
子ども達を危険にさらすことが強く懸念されるにもかかわらず、共同親権の導入に向けた議論が、あまりにも性急に進められていると感じます。これは、共同親権の導入ありきの議論ではないかと、DVや虐待事件を担当してきた弁護士の立場から、大きな危機感を抱いています。
私たちは、一般論として、離婚後も父母が協力し合って子育てをしていくこと(共同養育)それ自体に反対するものではありません。離婚実務の現場の声を知っていただきたく、後掲の補足資料のとおり、
・合意型共同親権が導入される場合の問題点
・非合意型強制共同親権が導入される場合の問題点
・裁判所の関与の元で面会交流が強制されてきた事実
について、弁護士からのコメントを集めました。法が適用される現場で活動する弁護士の危機感について、とりあげていただきますよう申し入れます。
2023年8月21日
(呼びかけ人)
共同親権の問題について正しく知ってもらいたい弁護士の会
石井眞紀子(東京弁護士会)
太田啓子(神奈川県弁護士会)
岡村晴美(愛知県弁護士会)
斉藤秀樹(神奈川県弁護士会)
橋本智子(大阪弁護士会)
花生耕子(青森県弁護士会)
伊藤和子(東京弁護士会)
角田由紀子(第二東京弁護士会)
寺町東子(東京弁護士会)
中山純子(埼玉弁護士会)
雪田樹理(大阪弁護士会)
赤石あゆ子(群馬弁護士会)
中野麻美(東京弁護士会)
和田谷幸子(兵庫県弁護士会)
補足資料
【賛同者】
三浦桂子(札幌)、水野遼(福岡県)、横地明美(愛知県)角崎恭子(大阪)、工藤展久(大阪)、城塚健之(大阪)、矢島正孝(大阪)、乘井弥生(大阪)、島尾恵理(大阪)、迎純嗣(大阪)、山内益恵(愛知県)、西晃(大阪)、森下彩子(大阪)、長谷川京子(兵庫県)、田巻紘子(愛知県)、平方かおる(大阪)、佐藤由紀子(仙台)、段林和江(大阪)、億智栄(大阪)、森本志磨子(大阪)、穂積匡史(神奈川県)、湯山薫(神奈川県)、岩永惠子(大阪)、小野順子(大阪)、高坂愛理(富山県)、田中雪美(愛知県)、大江洋一(大阪)、橋本俊和(大阪)、沼田幸雄(山口県)、大久保佐和子(第二東京)、髙坂明奈(大阪)、有村とく子(大阪)、大江千佳(大阪)、太田伸二(仙台)、竪十萌子(埼玉)、伊久間勇星(第二東京)、志田なや子(神奈川県)、岡根竜介(京都)、土田文子(山形)、宮本洋一(仙台)、上田月子(埼玉)、池上遊(福岡県)、川口彩子(神奈川)、松井淑子(大阪)、藤井恭子(大阪)、飯田学史(神奈川)、土田清子(第一東京)、安田まり子(第一東京)、小谷成美(大阪)、武澤明日香(大阪)、大石聡子(千葉県)、太平信恵(大阪)、石坂俊雄(三重)、村井潤(大阪)、小川恭子(滋賀)、岩佐賢次(大阪)、宮本亜紀(大阪)、国府泰道(大阪)、田中史子(大阪)、高山良子(大阪)、平松真二郎(第二東京)、馬場民生(兵庫県)、徳井義幸(大阪)、海老原夕美(埼玉)、坂本哲(大阪)、 久野由詠(愛知)、岩田研二郎(大阪)、財前昌和(大阪)、伊藤真(東京)、太田吉則(静岡県)、林治(東京)、宮下萌(東京)、及川智志(千葉県)、坂口俊幸(京都)、藤井豊(京都)、清田乃リ子(千葉県)、篠田奈保子(釧路)、佐藤倫子(香川)、金澄道子(東京)、守川幸男(千葉県)、伊藤勤也(愛知県)、堀金博(徳島)、成見暁子(宮崎)、正木みどり(大阪)、野田葉子(愛知県)、青龍美和子(東京)、野口杏子(神奈川県)、鄭聖愛(兵庫県)、吉倉美加子(兵庫県)、中村衣里(兵庫県)、松浦真弓(兵庫県)、八隅美佐子(兵庫県)、武本夕香子(兵庫県)、石田法子(大阪)、小池拓也(神奈川県)、福山洋子(第二東京)、木下晴耕(青森)、谷次郎(大阪)、渡辺義弘(青森)、空野佳弘(大阪)、松田幸子(宮崎)、諸富健(京都)、小田切達(青森)、三上雅通(青森)、百武大介(青森)、水野幹男(愛知県)、田中淳哉(新潟県)、木村庸五(第二東京)、杉浦宇子(愛知)、早田由布子(第二東京)、宮腰直子(千葉県)、杉浦ひとみ(東京)、鴨志田祐美(京都)、清水広有(愛知県)、高橋朋子(兵庫県)、関守麻紀子(神奈川県)、林真由美(岐阜県)、内山智映子(愛知県)、本田正男(神奈川県)、岡本浩明(岐阜県)、砂原薫(愛知県)、小野木等(大阪)、寺西環江(広島)、武部由香里(兵庫県)、滝沢圭(仙台)、端野真(広島)、藤田充宏(第二東京)、兼松洋子(愛知県)、可児康則(愛知県)、倉重都(第二東京)、甲斐田沙織(神奈川県)、藤原規眞(愛知県)、岡邑祐樹(岡山)、堀江哲史(愛知県)、宮地光子(大阪)、村上尚子(沖縄)、養父知美(大阪)、草野友里恵(富山県)、裵明玉(愛知県)、塩川茂(兵庫県)、武田純(兵庫県)、津久井進(兵庫県)、足立友季世(兵庫県)、宮地重充(兵庫県)、関本龍志(兵庫)、井口奈緒子(兵庫県)、二宮淳次(兵庫県)、石橋伸子(兵庫県)、田渕大輔(神奈川県)、天野高志(青森県)、寺田悠(青森県)、広谷渉(神奈川県)、河西拓哉(神奈川県)、辻田航(東京)、樽井直樹(愛知県)、山口真美(第二東京)、清水善朗(岡山)、東敦子(福岡県)、岸松江(東京)、大森典子(第二東京)、有年麻美(兵庫県)、井上洋子(大阪)、佐藤正子(滋賀)、木村夏美(三重)、戸城杏奈(奈良)、高木小太郎(神奈川県)、猪野亨(札幌)、保土澤史教(青森県)、戸舘圭之(第二東京)、黒田典子(埼玉)、中村雅代(金沢)、亀井千恵子(愛知県)、新康平(青森県)、神原元(神奈川県)、山崎あづさ(福岡県)、小野寺義象(仙台)、青木克也(大阪)、岩井羊一(愛知県)、近藤朗(愛知県)、大﨑茉耶(神奈川県)、橋本繁毅(広島)、高森裕司(愛知県)、佐久間ひろみ(大阪)、大貫憲介(第二東京)、伊藤誠基(三重)、大賀浩一(札幌)、山田万里子(愛知県)、愛須勝也(大阪)、横山航平(青森県)、大畠礼香(広島)、狩野節子(秋田)、田中健太郎(札幌)、冨田真平(大阪)、神保大地(札幌)、佐藤博文(札幌)、小野恭(青森県)、谷口麻有子(鳥取県)、宇部雄介(仙台)、成田悠葵(札幌)、柴田収(岡山)、黛千恵子(福井)、相原わかば(福岡県)、元永佐緒里(滋賀)、千葉恵子(第二東京)、柏熊志薫(福岡県)、井芹美瑛(福岡県)、島田度(札幌)、鈴木朋絵(山口県)、浜崎大輔(山口県)、佐木さくら(福岡県)、敦賀昭代(愛知県)、佐藤誠一(第二東京)、鵜飼和史(愛知県)、蒲田孝代(千葉県)、淵脇みどり(東京)、谷萩陽一(茨城県)、花田勝彦(青森県)、西尾弘美(札幌)、寺本佳代(広島)、神田安積(第二東京)、岩橋多恵(京都)、小笠原基也(岩手)、下山順(群馬)、永田亮(神奈川県)、富岡恵美子(群馬)、富岡桂三(群馬)、勝田浩司(愛知県)、林翔太(愛知県)、長谷川桂子(愛知県)、渥美雅康(愛知県)、深堀寿美(福岡県)、金正徳(神奈川県)、濱田みどり(群馬)、堀川智子(大阪)、大竹由希子(群馬)、木村仁美(群馬)、辰巳創史(大阪)、進藤一樹(愛知県)、杉本朗(神奈川県)、稲田優(兵庫県)、吉田奉裕(埼玉)、寺井一弘(東京)、島昭宏(東京)、山添拓(第二東京)、村越芳美(群馬)、小川款(千葉県)、南川麻由子(千葉県)、西村陽子(大阪)、門間久美子(仙台)、吉田容子(京都)、淺松千寿(札幌)、山田いずみ(仙台)、深井剛志(東京)、上田裕(埼玉)、久保木太一(東京)、黒沢計男(第二東京)、西部智子(兵庫県)、後藤玲子(兵庫県)、池田賢太(札幌)、藤井啓輔(神奈川県)、徳山育弘(兵庫県)、白山雄一郎(三重)、山本妙(富山県)、皆川洋美(札幌)、櫻町直樹(東京)、野田倫子(兵庫県)、都築さやか(愛知県)、小野晶子(青森県)、今村幸次郎(第二東京)、平山知子(東京)、金竜介(東京)、安藤ヨイ子(福島県)、桜木真理子(群馬)、別所美保(兵庫県)、森真子(滋賀)、福島正洋(東京)、石井康晶(千葉県)、佐々木正博(大阪)、中島真紀子(東京)、守谷自由(兵庫県)、巽昌章(大阪)、大庭秀俊(秋田)、鈴木愛子(愛知県)、小西憲臣(釧路)、和田美香(東京)、渡邉恭子(長野県)、諸隈由佳子(福井)、米山達三(青森県)、高橋誉幸(大阪)、金星姫(大阪)、末吉永久(千葉県)、西沢桂子(福島県)、熊坂奈緒美(福島県)、笠井香奈(東京)、金銘愛(三重)、杉原信二(群馬)、中川卓(第二東京)、松重君予(兵庫県)、山本寛之(大阪)、吉田玲英(札幌)、山下博行(大阪)、柴田未来(金沢)、小林加弥(札幌)、今橋直(札幌)、澤田裕和(大阪)中原明日香(大阪)、上出恭子(大阪)、徳村初美(大阪)、山田暁子(札幌)小島次郎(金沢)、春野しおり(金沢)、萩野美穂子(金沢)、野村夏陽(金沢)、中村光太郎(山梨県)、大崎潤一(東京)、大野岳(群馬)、廣田繁雄(群馬)、角田愛次郎(第一東京)、中聖子(金沢)、室穂高(愛知県)、森﨑信介(岩手)、有馬ゆきみ(千葉県)、渡辺和恵(大阪)ほか匿名の賛同者38名
呼びかけ人14名、賛同者361名(顕名323名、匿名38名)
*なお、匿名の賛同者の匿名の理由の主なものは、「嫌がらせが懸念される」というものである。
(20230822改訂)法務省申し入れ後にも賛同があったため、賛同者名と賛同者の数を改訂した。
(20230823改訂)賛同が増えたため、同様に改訂した。
(20230824改訂)賛同が増えたため、同様に改訂した。
(20230825改訂)賛同が増えたため、同様に改訂した。
(20230826改訂)賛同が増えたため、同様に改訂した。
(20230831改訂)賛同が増えたため、同様に改訂した。