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3/9(土) 札幌弁護士会「離婚後共同親権の問題点を徹底検証 拙速な導入に反対するシンポジウム」基調講演書き起こし

こちらのシンポの基調講演の書き起こし

資料は、こちらからダウンロードできます。
https://drive.google.com/drive/folders/1TSo2odIfnny2FTFUpwQX9vxB2aaWG7rU


 名古屋で弁護士をしております岡村晴美です。司法修習は59期で、17年目の弁護士です。取り扱い分野は、DV・性虐待・ストーカーの事件が8割です。残りの2割は弁護団事件で、職場のパワハラやセクハラ・学校のいじめの事件を担当してきました。これらの事件は、いずれもハラスメントに関する事件で、密室で、密接かつ継続的な関係における「人が人を支配する構造」という共通点があります。ハラスメントについて考えることは、尊重し合う関係を学ぶことと裏表の関係になるので、家庭・職場・学校のすべてでとりくむべき課題だと考えています。今日は、DV事件を担当してきた弁護士からみた、共同親権制度の問題点についてお話ししたいと思います。

 ここ数年、女性に関係する法改正が相次ぎました。一昨年は、これまでの売春防止法による保護ではなく、困難女性支援法という新法のもとで、困難な立場におかれた女性を、幅広く、手厚い支援をしていこくことになりました。昨年は、DV防止法の改正で、接近禁止命令の対象が精神的暴力や性的暴力に広がり、性犯罪に関する刑法の改正では、同意のない性行為が性犯罪となることや、夫婦間でも性犯罪が成立することが明確化されました。困難や暴力にさらされる女性の支援法の整備は進んだのだろうと思います。では、私たちはそれを実感できているでしょうか。私は、全く実感していません。むしろ、状況は過去イチ悪くなっていると思います。その元凶が、共同親権問題です。法制審議会が確認した要綱どおりの法制化がされれば、困難女性支援法やDV防止法の改正は、根底から覆えされて、日本のDV被害者はとてつもない困難な状況に置かれると思います。

 というのも、現在、DV被害者は、受難の時を迎えています。ワンオペ育児で、DVモラハラを受けても、子どもを連れて逃げれば、「連れ去り」「実子誘拐」などと非難され、刑事告訴や民事裁判、受任弁護士への懲戒請求などを受けます。離婚や別居でDVが終わるという時代はもう終わりました。これは社会問題なのですが、これを指す適切な言葉が、日本にはまだありません。英語を借りますが、Post-Separation Abuseと言います。別居後、離婚後に継続するDVという意味です。中でも、司法続きを利用した嫌がらせは、Post-Separation Legal Abuseと呼ばれていて、非常に深刻な被害を生み出していますが、まだ世間に知られていません。

 そうした状況を憂いて、2020年10月、私は唐突にツイッターを始めました。そうしたところ、ネット上で、法的に誤った情報が広まっており、共同親権に反対すると面倒くさいことになることが分かりました。

 法的に間違った情報というのは、「単独親権制度のせいで子どもに会えない」というものです。子どもに会えるか会えないかという問題は、親権の問題ではないからです。昨年11月16日の参議院の法務委員会でも、法務省の民事局長が、「別居親が離婚等にともなって離れて暮らすことになった子と交流することは、親権の効果そのものではなく、別居親の親権の有無の問題と親子交流の頻度や方法をどのように定めるかといった問題は別の問題だ」と述べています。家族法は、2011年にも改正されていて、「面会交流」が明文化されました。それを受けて、2012年裁判官が論文を発表し、面会交流が促進され、「原則実施論」と呼ばれる運用がされてきました。調停の席で、「どんな親も親は親」「虐待があったからこそ修復をしていくことが子どものため」という説得がなされて、DVはもちろん、虐待も、子の拒否すらも軽視されて、同居親にとっても子どもにとっても非常に過酷だったわけです。離婚後に面会交流ができる人は自分たちで自由にやっているわけで、それができない人たちが法律を使うので、困難なケースほど、面会交流が命じられるということになりました。資料にQRコードを貼りましたので、どういうことが起こっていたか、後で見ておいていただければと思います。ここで、重要なことは、「単独親権制度のせいで子どもに会えない」と言っている人たちが目指しているのが、「共同親権制度」であったということです。

 たかだかネット・・・とも思いましたが、当事者の方というのはネットをみて情報収集しますので、誤った認識に基づいて共同親権制度が導入されるようなことは良くないと考えて、DV被害者支援の立場から、共同親権制度の導入には反対である、という発信を始めました。

 何が起こったか。誹謗中傷を受けることになりました。主なものは、「実子誘拐ビジネス」「養育費ピンハネ」「公金チューチュー」の3点です。私は驚きました。というのも、DV事件の被害者は貧困に陥りますので、私の事件の8割は法テラス事件です。弁護士の方は、自由と正義の1月号にどのような業務を行っているのかを書いておりますので是非お読みいただければと思うのですが、ビジネスとはほど遠いんです。そして、この荒唐無稽な誹謗中傷は、弁護士のみならず、DV被害者支援をしている全ての人たちに向けられています。共同親権問題の根幹は、離婚後の親子の絆を重視するあまりに、その理想から外れる機能不全家族を無視・軽視するのみでなく、敵視するようになります。それ以外にも、家族解体をもくろむ左翼、早くこいつを逮捕しろ、バカ、アホ、低脳、ブス、何でもかんでもDVにしやがってお前の顔の醜さが精神的DVだ。紙袋でもかぶってろ、内臓破裂して死ね等々とSNSで中傷され、所属する弁護士会や愛知県、名古屋市はもちろん、講演の主催者やテレビや新聞などのマスコミにも苦情の電凸、事務所には、怪文書、怪FAX、成りすましによるバイト応募が60件、危害をほのめかすツイートがされ警察から安否を気遣われるなどしています。ただでさえ、声が上げられない当事者。当事者の代わりに声を上げれば、このような目に遭うわけです。

 しかし、私は、DV・虐待を担当してきた弁護士の立場から、それでも言わなければならないと思っています。「共同親権の合意すらできない父母に強制してどうするのか」「DVや虐待の被害者は危険にさらされる」「長期にわたり子どもたちを父母の紛争にまきこむ」「家裁の果たす役割は大きいが、機能するとは思えない」

 実務家として、現在の日本で、いわゆる「共同親権制度」を導入することの危険性について非常に心配しています。そういう考えをもった弁護士が集まって発信をしております。現在、55の記事があがっておりますので、こちらも読んでいただければと思います。

 昨日、国際女性デーだったのですが、早々に閣議決定されたという報道が出て、私の発信に意味があるのかどうか疑問に思うこともあります。全く無駄かもしれません。けれど、私は、山火事を前にして、小鳥がくちばしで水を運んで消そうとする話が好きなんですね。頑張って正しいことを発信していれば、一緒に発信してくれる人もいるかもしれないし、もっと影響力のある人の目にとまるかも知れないし、今日がその日になるかもしれません。そういう思いで、今日もこうやってお話しをさせていただいている次第です。

 では、どうしたらよいものか、本当に声が届いてなくて、今年の1月30日、法制審議会の家族法部会で、「共同親権制度」の導入を含む要項案が強行採決されました。法制審議会のプロセスに関する問題点については、憲法学者の木村草太先生が詳しくコメントされていますので、私からは2点だけ申し上げます。「DVの専門家や母子家庭支援の反対を多数決で押し切った」というところが、やはり重要だと思っています。慣習上、全会一致が原則であるにもかかわらず、3名の反対、1名の棄権がありました。そこで無視されて、切り捨てられた意見は、一定の同質性をもっていたということです。端々にある変わった意見を切って中庸をとったというのではなく、DV被害者を切り捨てたということに注目する必要があります。もう一点は、「重要な論点で、議論が尽くされていない。」ということです。導入すると言っているけれど、法務省も、政治家も、ぼやっとした説明しかしていないんです。というか、ぼやっとした説明しかできないんだと思います。法制審議会で、中心的な役割を果たした棚村政行委員は、強行採決が終わった後、NHKの取材に答えて、「共同親権が望ましい場合の基準や運用について十分な議論ができなかった」と述べています。だったら、なぜ、採決した?という話なのですが、どういう制度になるのか、ぼやかされたまま導入されようとしている点も、この法案の問題点の1つです。

 私は、共同親権か、単独親権か、という問題の立て方に違和感があります。「離婚後の父母と子の関わり」をどう考えるかという問題であり、法制度のあり方にはグラデーションがあるはずです。日常の監護に関する共同の規定は、現行法においても民法766条という規定がすでに存在しています。共同養育に関しては、当事者間で協議ができないときには裁判所が審判で命じることができます。子どもに会える会えないという問題は、すでに規定があるのです。親権という子どもに関する決定に関わる規律については、父母双方の合意がある場合のみ共同行使を選択できる、現行法こそ、子どものために最善で、最適解の落とし所であると考えます。

 今回の法改正は、「子どもの養育責任を果たさない親に責任を果たさせるもの」でもありませんし、「子どもが別居親に会いたいときに会える手続きを定めたもの」でもありません。「同居親の育児負担を減らすもの」でもありませんし、「男女共同参画を進めるもの」でもありません。「選択肢が広がって自由が増える制度」でもありません。法的な決定について、当事者間に合意がなくても、共同でやらなければならないということを命じるのかどうかが論点です。その際に考えるべきポイントは、①共同でやっていくという合意すらできない父母に共同を命じることが子どものためになるのかという問題と、②DVや虐待が除外されず、共同親権が支配の手段に使われる可能性があるという問題の2点です。現行法のもとで、離婚する父母と家族に何が起こっているのか、今の実務で生じている深刻な問題について、正確に認識した上で議論する必要があります。

 では、現行法で親権はどう規定されているのでしょうか。婚姻中は共同親権制度(民法818条)、離婚後は単独親権制度(民法819条)とされています。ここでの考えるポイントは、「単独親権が強制されている」のか?「共同親権が強制されていない」のか?という点です。

 婚姻中の親権の規定は、民法818条に規定があります。第3項に、「親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。」と書いてあります。

 離婚後の親権の規定は、第819条にあります。第1項に、「父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。」、第2項に、「裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。」と書いてあります。

 では、親権とは何でしょうか。ここに書いた権限のうち、「離婚後の身上監護権」については、民法766条に規定があります。こちらが、民法766条ですが、第1項に、「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」という記載があり、第2項に、「前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。」と書いてあります。つまり、離婚後の子の監護については、子の利益を最優先に決めなさいよ、自分たちで決められないときは、家庭裁判所に来て下さいね、ということになっています。

 ですので、一般的な弁護士の理解としては、「離婚後の共同親権」の内容は、「重要事項決定権」「財産管理権」「法定代理権」といった、子に関する決定に関わることを言うことになります。現行法では、離婚後の同居親が親権を行使する場合、単独でもできるし、別居親と一緒に決めることもできます。つまり、単独親権と共同親権を選択して行使することができます。しかし、共同親権制度が導入され、共同親権が適用されれば、単独で行使することは許されなくなります。単独行使ができるのか、単独で行使すると違法になるのか、というのが共同親権問題の正しい捉え方で、導入するのであれば、どのような場合にそのような制約を課するのかということが問題となります。

 現行法制度が「選択的共同親権制度」であることは、共同親権を推進する議員の方も認めています。梅村みずほ参議院議員は、「父母が葛藤の状態にないのであれば共同親権。これは当たり前に今でもできることであって、法改正することじゃないんですね。」と仰ってますし、嘉田由紀子参議院議員も、「仲のいいというか、話し合いができる夫婦だけが共同親権って言ったら、それはもう今だってできるんですよ。」と仰ってます。

 当事者間の合意がある場合に限る共同親権であれば、現行法とさほど変わりはありませんから、合意が真摯で積極的なものであるかという懸念は残るものの、強く反対する人はいないと思います。「父母が協議して共同親権を選べるようになる」という説明がされることがありますが、そこが論点ではありません。そして、それは今でもできます。共同親権制度は、自由を広げる制度ではないのです。やれそうな人にとっては必要が無く、やれない人ほど強く欲する制度。それが共同親権制度です。

 2022年12月~2023年2月に実施されたパブコメでは8000件以上の意見が寄せられました。個人の意見の3分の2が反対意見が多数だったそうです。しかし、その集計は知らされず、2023年5月の法制審で、合意型共同親権の導入の「方向性」が示され、6月には、非合意型共同親権が提案されました。 結論ありきで議論が進むことを危惧した私たちは、賛同者375名を集め、法務省に申し入れを行い、4つのことを要望しました。

 1つ目は、父母間で合意があるときの共同親権においても、権力格差があって合意させられている場合があり、DVや虐待、父母の葛藤の激しいケースが紛れ込む危険があるという点。2つ目は、父母間の合意がない非合意型の強制的な共同親権は、子どもの適時な決定を妨げ、DVや虐待を除外できなかった場合には、子どもを危険にさらすリスクが高まるという点。3つ目は、議論の前に、パブリックコメントで集まった意見を公開し、議論に反映してくださいという点。4つ目は、司法手続きにおいて面会交流が強制されてきた実態について調査・分析をしてくださいという点です。

 実務家として特に強調したいことは、現在の家裁は、面会交流について、かなり積極的に推進してきたということです。法制審では、棚村政行先生が、2010年の調査に基づいて、「離婚直後は紛争が激しいが、3年とか5年で落ち着いてくる」ということを紹介されていたのですが、2011年以降、実務は様変わりしています。2011年の民法改正で、民法766条に面会交流が明記され、2012年に趣旨を解説する裁判官の論文が出されると、DVや虐待がある場合を除外すれば、基本的には面会交流をするべきだという、「面会交流原則実施論」と呼ばれる運用になったのです。

 面会交流原則実施論は、端的にいって、失敗でした。「面会交流を行った方が子どものためになる」という考え方が、DVや虐待、子どもの拒否を軽んじるようになったのです。子どもがどれだけ嫌がっていようと、面会交流に応じないと間接強制金の支払いを命じられ、1回あたり30万円、50万円と高額化していきました。面会交流時の殺人事件や、面会交流中の性虐待事件が起こりました。前者については、加害者はいずれも自殺しています。DVは、被害者も自殺しますが、加害者も自殺のリスクが高いのです。面会交流中の性虐待については、いくつも事例があるにもかかわらず、調査すらされていません。これは、極端な事例ではなく、氷山の一角です。目をそらしてはいけません。

 失敗の原因は、「面会交流は子どものために良いもの」という推定をし、DVや虐待などの不適切ケースを除外できると考えたことにあります。これは、共同親権制度の導入を考えるときにも参考にすべき経験です。2020年、家裁は、この運用をあらため、ニュートラルフラットの方針を示した。原則・例外ではなく、ニュートラルで、フラットに、事案に向かうということが提案されたのです。 参考までに、私も参加して作成した『共同親権と面会交流』という著書のQRコードを載せました。図書館で借りることもできますので是非お読み下さい。こうした経緯を踏まえれば、「親権の共同は子どものために良いもの」という推定に基づいて「原則共同親権」にしてはいけないということが分かります。(2012年頃に始まった運用のため、最も影響を受けた、当時未就学の子どもが中学生・高校生になったばかりで、十分な調査がされてないという問題もあります。

 昨年9月には、弁護士ドットコムが弁護士176名のアンケート結果を公表しています。法務省案への賛否は、56.3%が「反対」、21.0%が「どちらかといえば反対」と回答し、たたき台どおりに改正された場合、8割が「家裁はうまく機能しない」と回答しています。「世の中はどう変化するか」という問いに対しては、「結婚や離婚をあきらめる人が増える」「子どもが犠牲になる」「社会が混乱する」という意見が見られました。「弁護士実務への影響」については、「親権をめぐる争いや、進学だ、医療だと言って争いになるので、仕事は増えそうであるが、こんな気の毒なことでお金をもらいたくない」「業務妨害や懲戒請求が増える」「事件が長期化する」という懸念も出されました。

 法務省は、DVや虐待に配慮したと説明しますが、子どものためにならないケースは、DVや虐待だけ除外できれば良いわけでありません。要綱には、例外とすべき事項が規定され、原則共同親権と読める規定ぶりになっていて、そのような誤解を招いています。しかし、諸外国の経験でもDVや虐待が除外できていないことが報告されていますし、さきほど述べた面会交流原則実施論の経験を踏まえても、その失敗は明らかです。また、これも誤解が多いところですが、DV防止法に定める保護命令は、法的手続きを受けるための暫定的な規定であって、家族法の特別法ではありません。法的手続きをうけるために暫定的に安全が守られても、司法の場で絶望に突き落とすということになりかねません。

 反対や慎重な検討を求める声は、たくさん上がっています。2023年11月には、札幌弁護士会が共同親権反対の意見書を公表し、2023年12月、大阪弁護士会が慎重な立場でシンポジウムを行い、2024年1月24日、弁護士が445名の連名で法務省に再度の申入れを行いました弁護士だけではなく、一般社団法人日本乳幼児精神保健学会の声明、全国女性シェルターネットの声明、日本フェミニストカウンセリング学会の緊急声明、全国青年司法書士協議会も反対を表明しています。法制審の強行採決の日に立ち上がった反対署名は5日で4万を超えました

 2024年1月、弁護士の再度の申入れでも多数の切実な声が寄せられました。代表的なものを2つご紹介します。1つは、「ごく普通の離婚」の場合でも共同親権制度の導入は子どものためにならないという点。離婚というものの本質は元夫婦間の信頼関係の決定的な破綻。信頼が破壊された父母間が法的手続きを利用している。信頼関係にない父母による共同親権は子どものためにならない。2つ目は、共同親権制度に対する深刻な懸念の声を届けても真摯な対応はなく、皆、失望していますという点。現行法でも何ら共同養育をすることに問題はない。相談者、依頼者から、深刻な懸念の声を聞いている。フォロー・ケアの担保なくして法制化はありえない。

 2024年2月、弁護士ドットコムの2度目のアンケートでも、要綱案に8割が反対という結果が出ています。法案提出前の議論についても、8割が「議論が尽くされていない」と回答しました。「離婚の現場はどう変化するか」という問いに対しては、紛争が長期化する/対立が深まる/取り決めが細かくなる/トラブルにつながる/結婚や離婚を諦める人が増えるという声が寄せられています。また、子どもにプラスになるという意見が、「子どもの養育に共同していく意識が醸成される」という理念的なものに止まるのに対し、子どもにマイナスになるという意見は、「保育園入園妨害など、子の福祉に反する状況の発生」「監護親が進学や病気の際などに速やかに方針決定できない」など、子どもの生活に直結しています。

 今から導入されようとしている改正案は、問題が山積みです。

 1つめは、原則共同親権が導入されたようにも読める書き方になっていて、誤解を招いていること。それどころか、面会交流を多く認める方の親に親権を認めるべきとするフレンドリーペアレントルールが導入されたということを政治家が発信していて、これでは、DV被害者は、むしろ親子断絶の加害者とされてしまいます。オーストラリアでは、2006年に採用され、2011年には廃止されています。

 2つめは、離婚後の共同親権が、婚姻中の共同親権にも及ぶことになり、子連れ別居をする場合、「急迫の事情」がないと違法にされてしまいます。法務省は、DVがあれば急迫の事情のあたると説明していますが、例えば、8月にDVを受けて、年度末に逃げるという場合、「急迫」と言えるのでしょうか。子連れ別居した後に、住居を秘して、シェルターから、民間アパートに転居する場合がありますが、この場合も「急迫」と言えるのでしょうか。「急迫」にあたる確信がもてなくて、逃げ遅れることはないでしょうか。萎縮効果が心配です。DVは被害者の自責性を利用する支配なので、被害者は自信が持てません。弁護士は、DV被害者へ、「逃げて良いけど、子どもを置いていかないと違法になる」という助言しかできなくならないでしょうか。共同親権を推進する人たちが、支援措置を使って住所を隠すことにも攻撃をしており、子連れ別居禁止法が制定されるに等しいと思います。

 3つめは、共同親権の場合の監護者指定の必要性がないとされていることです。紛争が生じたら、裁判所の判断が出るまで子どもに関する決定ができません。どちらが社会保障をうけるのか、どちらが養育費をもらえるのか、ひとり親の福祉は利用できるのか。

 4つめは、共同親権が適用されれば、同居中であっても、別居後であっても、他方の親の許可が必要となり、許可をとらなければ、違法とされ、慰謝料請求されることになります。Post Separation Legal Abuse の理由が無限に広がり、ワンオペ育児の育児丸投げケースほど、共同決定違反を問われるリスクが高いと言えます。
この対策が全くなされておらず、今回の法改正が、ストーカー促進法、嫌がらせ支援法となることは明らかです。

 5つめは、現在でも家裁はパンクしており、2か月に1回くらいしか期日が入りませんが、共同親権なのか単独親権なのか。共同親権にした場合に監護者を定めるのか定めないのか。監護者を定めなかった場合に、監護の分掌、例えば、教育は父だが、医療は母などの取り決めをするのかしないのか。はたまた、平日は母だけど休日は父などの期間の分掌、交替監護をするのかしないのか。こうした細かいことのどれが適切なのかを家裁が判断することになります。これを多様性の反映とは言いません。制度の複雑化です。そして、折角決めても、単独親権と決まれば、数年後には共同親権への親権者変更が繰り返される可能性があり、共同親権と決まった場合に問題が生じれば家庭裁判所に持ち込んで決めてもらう必要が生じます。裁判所の職員は、今年も削減されています。増員は、2倍、3倍では足りませんが、増員の見込みはあるのでしょうか。

 6つめは、当事者の意思に反する共同親権の場合、当事者に丸投げしてもまともな話し合いはできません。弁護士が仲介するなら費用はどこからでるのか。DVの証明に失敗した被害者が加害者と親権を共同させられる場合の被害者のメンタルサポートは誰がするのか。婚姻中と同様に勝手な要求を行う加害者に、加害者プログラムを受けさせることもできません。

 父母の不仲により、父母は別居する。子どもはどちらかの親と同居する。子どもにとって別居親の関わりを促進した方がよいかどうかは、事情によるし、メンバーによるし、時期やタイミングにもよる。2020年の面会交流事件で、認容と調停成立の合計は、89.6%に達しています。面会交流が積極的に促進されている状況で、真摯で積極的な合意なき父母に親権の共同を促進してよいか?弊害の検討が不十分ではないか?

 誰のための家族法改正なのでしょうか。高校受験でどこの高校を受けるかの許可を、別居親から取らねばならず、許可を取るためには成績などの情報を事前に提供して説得する必要があり、許可を得られなければ、裁判所に申し立てることになる。それを守らないと共同決定義務違反とされ、損害賠償請求が起こされるリスクがあります。

 「DVは除外されるはずだ」という指摘もありますが、DVは証明が難しいです。例えば、モラハラの場合、子どもの服装、髪型、身だしなみ、行儀に関するクレームめいた注文を、面会交流の都度に箇条書きにして渡してくるような別居親を考えてみて下さい。親権を共同行使することは心理的負荷が強く、共同親権に不適切なケースであると思われますが、DVとして除外できるでしょうか。

 離婚時に同居親が単独親権を勝ち取ったとしても、数年後に、単独から共同への親権者変更の申立てが起こった場合、疎遠だった期間においてDVが認定されず、除外されなくなるのではないか。DV被害者は子どもが成人するまで不安にさらされてしまいます。同居親を追い込むことが、子どものためになるのでしょうか。家事事件の現場の声に耳を傾けて欲しいと思います。

 以上が、私からの報告となります。ご清聴ありがとうございました。

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