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婦人科で不妊手術を断られた話

今回はタイトルの通り、婦人科へ直接不妊手術(卵管結紮術)を受けたい旨の相談をしに行って、断られるまでの経緯を事細かに記していこうと思います。

不妊手術を検討している方や、不妊手術を取り巻く現状に関心のある方の助けになれば幸いです。

婦人科に行こうと思ったきっかけ

私はつい最近まで、女性の不妊手術の方法について全く知らず、永久的に妊娠機能を失わせるには子宮を丸ごと摘出するしかない、そしてそれは子宮がんなどになった場合にしかできない、と思っていました。

なので「一生不妊になれるならなりたいけど、技術的にできないなら仕方ないか」くらいの気持ちでした。

しかしある時、女性の簡易的な不妊手術の方法(卵管結紮術、男性で言うパイプカットに当たる)があることを知り、もしできるならこれをやりたいと強く願うようになりました。

そして不妊手術に関するリサーチを続けていく中で、「母体保護法で未産の女性に対する不妊手術が禁止されていること」「海外では成人女性は未産であっても不妊手術を手軽に受けられる国が大半であり、日本のように不妊手術を原則禁止としている国はほとんどないこと」を知りました。


詳しくは私の前回のnoteをご覧ください。

その中で見つけたのが、この母体保護法の規定の合憲性を争う裁判、通称「わたしの体は母体じゃない」訴訟です。
この訴訟は5人の女性が原告となって提訴されましたが、この方々はいずれも産婦人科に不妊手術の相談をしに行って断られています。中には予約の電話やメールの時点で断られたという方もいるようです。

そこで、「実際に私もダメ元で婦人科に行ってみて、どういう対応をされるのか確かめてみよう」と思い、婦人科に相談に行くことを決意しました。

もちろん断られること前提ではありますが、冷やかしのつもりはありません。当然手術を受けられるのであれば受けたいからです。あわよくば何かの間違いで手術を受けさせてもらえないだろうか、とも思っていました。

以下、予約〜診察までの流れを書いていきます。

病院選び・予約

まずは病院選びです。

私は現在月経困難症の治療である婦人科に通っていますが、そこは産科がくっついておらず、中絶手術も行っていなかったため、当然不妊手術に関しては相談すらさせてもらえないだろうと考え、別の病院を探すことにしました。

それに当たって私が考慮したのは以下の要素です。

①不妊手術についての記載がHPにあるか
②女医さんを指名できるか
③性別違和に関する相談も受け付けているか

③について注釈しておきます。私は性別あるいは性自認に関しては全く悩みはなく、自分が女であることに違和感はありません。ただ妊孕性(妊娠できる機能があること)が嫌なだけです。なので性別違和治療を受けるつもりは全くないのですが、逆にこの「性別違和ではない」ということを理解してもらうには、性別違和治療にも対応している病院の方がよいのではないかと考え、考慮要素に入れた次第です。

そしてちょうどいい感じの病院が見つかったのでそこを予約することにしました。

一つだけあった懸念点は、HPに「卵管結紮術は帝王切開後のオプションとして行っています」と書かれていたことです。この時点で未産の若者に対する卵管結紮術は行われていないであろうことが推測できましたが、「未産の方には行っていません」とは一言も書かれていないので、わずかな望みに託すことにしました。

予約については、Web上で完結する仕組みになっており、非常に助かりました。
予約の時点で書かなければいけなかった情報は、名前・生年月日・性別・電話番号・メアド等の基本的な情報だけで、具体的な診察希望内容等は書く必要がなく、安心しました。

ここで希望の医者を指名することができるのですが、女医さんは2人おり、片方はHP上のプロフィールに「お産の喜びを皆さんに広められるよう〜」的なことを書いてあった一方、もう片方にはそのような文言がなかったため、後者を選びました。

先ほども書いた通り、予約の電話・メールの時点で断られた人もいると聞いていたので、まずは第一関門突破です(身体の悩みについて医者に相談するのに関門があるのも変な話ですが)。

受付

来院の前日から既に「何を言われるだろうか、酷い対応をされるんじゃないか」と不安でいっぱいでした。

そして来院当日。
ありがたいことにこの病院は婦人科・不妊治療と産科とで受付・待合室が完全に分離されており、妊婦や子連れと同じ空間でつらい思いを……という心配がありませんでした。

まずは受付で問診票をもらいます。
産婦人科に行ったことがある方なら分かると思いますが、これがなかなか書きづらい……
特に意味不明なのが「セックス(性交渉)経験はありますか?(はい・いいえ)」という質問です。
産婦人科の特性上必ず聞かなければならないのは分かりますが、レズビアン・バイセクシャルからすれば、「セックスの定義って、何!?」ってなるわけです。
私はレズビアン寄りのバイセクシャルで、過去に一度お付き合いをしていた女性がおり、現在は異性と交際中ですが、性器の接触を伴う性交渉の経験はありません。
ただ、世間的に見れば「セックス」と呼んでも差し支えないような行為はしているわけで……
ネットで調べてみても、「経膣的な経験がないのであれば『いいえ』でよい」という意見と、「オーラルセックスの経験があれば、性器同士の接触がなくても『はい』と答えよ」という意見が両方見つかって、結局どうすればいいのか分かりませんでした。
ひとまず今回は、(はい・いいえ)には丸をつけず、その隣に「男性器の挿入はありません」と書きました。
(結局その後の診察で「性交渉経験はないんですね」と言われたので、「いいえ」でよかったのかも)

そして受付を済ませ待合室へ……と思ったところで受付の方に呼び止められ、

「当院では卵管結紮術はお産を終えた方にしか行っていなくて……この相談となるとちょっと診察を受けていただくことはできないんですけれども……」と言われ、

(あ〜やっぱり門前払いか〜終わった〜)などと思っていたら、

「他の大きい病院に紹介するといったご相談なら一応可能なんですが、それでもよろしいですか?」
あら!!話は聞いてもらえるんだ!!
門前払いを覚悟で来たのでこれにはびっくりしました。
とりあえずそれでお願いしますと伝え、再び待合室に……

と思ったらしばらくしてからまたしても受付の方に呼ばれ、
「すみません、この卵管結紮術というのは不妊術なんですが、お間違えないでしょうか……?」
と聞かれました。まあ確かに異例の相談なので再確認しないといけないのも無理はないなと思いつつ、自分みたいな人がここに来ることはないんだなと改めて実感させられました。

診察

肝心の診察です。

診察の直前、私は、できるだけ「自分の身体に妊孕性があることが嫌」というメインの目的は伏せて、あくまで「他の避妊方法よりもコストやデメリットが少ないから」という理由で不妊手術を受けたいことを伝えようと決意しました。なぜなら、不妊手術が合法である他国ならその理由だけで当然に不妊手術が認められるからです。あと、「妊孕性が嫌」という理由だと誤解を招きそうだと思ったからです。

番号を呼ばれ、ドキドキしながら部屋に入ります。どんな説教をされても我慢するぞという覚悟を決めて。

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※以下の会話は記憶を頼りに書いているので、不正確な部分があることをご了承ください。

先生「卵管結紮術をご希望とのことですが、うちでは基本的に帝王切開を終えた人にしかしていなくて……まだ若いし、ピルも飲んでるみたいだし、性交渉経験もないし、手術ってなると適応外かなあと……」

私「はい……」

先生「手術を受けたい理由っていうのは、避妊に不安があるからですか?今フリウェル(低用量ピル)飲んでるけど、これではダメそう?」

私「はい、やっぱりこの先ずっとピルを飲み続けるってなると負担が大きいと感じていて」

先生「たとえばミレーナ(避妊リング)とかを挿入するっていう手もあるけど」

私「それも考えたんですけど、定期的に取り替えなきゃいけないっていうのと、お金が思ったよりかかるなっていうのがあって……他の方法も色々調べてみましたけど、やっぱりお金がちょっと」

先生「うーん、まあ確かに、性交渉経験がないってなると器具を挿入するのは大変ですから……ただ、フリウェル飲んでたら排卵はないし、妊娠の心配はないと思うんですが。このフリウェルは避妊目的で?それとも生理痛抑えるために?」

私「生理痛を抑えるのが目的です」

先生「んー、まあそれでもフリウェルなら基本排卵はしないから大丈夫だと思いますねー」

私(フリウェルは避妊目的での処方が禁止されてるから避妊効果の臨床試験もされてないんだけどほんとに大丈夫……?)

先生「やっぱり、手術っていうのは……もうちょっと経ってから、ピルを飲むのをやめてからでもいいのかなあと。他の病院に紹介もできなくはないけど、やってもらえないと思います。今お付き合いされてる方は?」

私「います」

先生「その方とこれから先性交渉の予定があって、避妊したいとかならまあ分かるけど……何か他に理由があったり?」

私「いや、性交渉するかもしれないから避妊したいっていうのもなくはないんですけど……(やっぱり「避妊したいから」だけじゃ手術を求める理由にはならないのか……言うしかないのか……)」
「(しばらく言葉を詰まらせて) まあその……なんというか……自分の体に妊娠できる機能があるのが……嫌だなーっていうか……」

先生「うーん……」

先生の後ろで聞いてた助手?ぽい人「もう性行為をするのも嫌だなっていう感じですか?」

私「まあー、そうですね」

先生「そういう悩みを持ってる方はたくさんいるから、どうにかしてあげたいけど……手術っていうのは難しいけど、そういう性の悩みについて担当している先生がいるから、ちょっとその先生に相談してみましょうか」

(ここで一旦部屋を出て待合室で待機、ほどなくしてまた呼ばれる)

先生「○日ならその先生が診察できるそうなんですがどうですか?」

私「あーちょっとその日は厳しいですね」

先生「じゃあ、来月ごろにその先生が担当されるジェンダー外来が新しくできる予定なので、そしたらまた相談に来てもらえますか?手術をするっていうのはできないけど、そういう悩みの相談ならそこで受け付けているので」

私「(ジェンダー外来?ジェンダーの悩みではないんだけどなあ) 分かりました、ありがとうございます」

先生「ごめんね、来てもらったのにあれもできないこれもできないって感じで」

私「いえいえ……ありがとうございました」

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こんな感じで診察は終了しました。

感想

先生は終始物腰柔らかで、かなり話しやすい雰囲気ではあったのですが、やはり内容が内容なだけに緊張してしまって、事前に言おうと決めていたことや聞こうと思っていたことを全て口にすることはできませんでした。

不妊手術を断られた経験のある他の方々の話を聞いて、嫌な言葉(「将来子供が欲しくなるかもしれないよ」とか、「不妊になりたいなんてありえない」とか)をかけられるのではないかと心配していましたが、そのようなことはなく、むしろ「あなたのような悩みを持つ人はたくさんいるから」と言ってもらえたことは非常に良かったです。安心しました。

ただ、上記の会話内容を見てもらえれば分かる通り、結局何か肝心なところをはぐらかされ続けているような印象を受けました。一番知りたかった「なぜ未産の若者が不妊手術を受けられないのか」という点はよく分からないまま終わってしまいました。「若いし性交渉がないしピルも飲んでるから」というだけの理由では納得できるはずもありません。

何より、お気づきの方も多いでしょうが、今回の診察では最初から最後まで一度も母体保護法の話が出ませんでした。
「法律を理由に断られることはない。必ず他のよく分からない理由で断ってくる」という話は他の方からあらかじめ聞いていたのですが、まさか本当に母体保護法のぼの字も出ないとは……驚きました。

こういう「不妊手術はなんとなくダメ」という認識が蔓延しているから母体保護法がいつまでも改正されないのか、はたまた母体保護法があるからこういう認識になっているのか……卵が先かニワトリが先かみたいな話になってしまいますが、とにかく少なくともどちらかを早急に改めないといつまでもこの現状は打破されないのだと実感しました。

そして今一番モヤモヤしているのが「性別違和だと思われたのでは?」ということです。
なんとか悩みを解決してあげたい、という気概を感じ取れたのは非常にありがたいのですが、ジェンダーの悩みではないのにジェンダー外来に回されるのはなんだか腑に落ちません。これに関しては「性別違和ではない」ということをはっきり伝えられず誤解を招くような説明をしてしまった私にも責任がありますが、うーん……

とりあえず、他に相談できそうなところもないし、ジェンダー外来でこういう相談をするとどんな対応をされるのかということも気になるので、ひとまず今度ジェンダー外来に行ってみようとは思います。その時はしっかり、「性別違和ではない。ただ妊孕性が嫌なだけ」と伝えようと思います。

まとめ

改めて、今回のケースを簡潔にまとめると、

・結果は予想通りダメだったが、対応は思っていたよりはるかに丁寧だった
・でもなぜ手術を受けられないかはあまりよく分からなかった
・法律の話は全く出てこなかった
・ジェンダー外来を勧められた

という感じです。

はじめの方にも書いた通り、まず予約の時点で断られたという人もいるし、診察まで漕ぎ着けても医者から説教をされて終わったという人もいます。だからこのように丁寧な対応をしてくれる病院はレアケースと言えます。私はかなり運が良かった。

なので、これから不妊手術の相談をしに行こうと思っている方は、この記事のような丁寧な対応は期待せず、ある程度傷つく覚悟を持つ必要があると思います。

いつか不妊手術について真正面から考えてくれる医者が現れることを、そして不妊手術が合法化されることを願っています。

ここまでお読みいただきありがとうございました!

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