【永遠のアイドルの秘密】
『遠慮せずに、食べてね』
「はい。でも、そんなにお構いなく」
『いいのよ。こうやって、色々やらないと、考えちゃうから、色々』
「、、、はい。
では、お言葉に甘えて、いただきます」
『コバヤカワくんは、お紅茶は飲むの?』
「そうですね、自分ではコーヒーを淹れますけど、レストランとか、だと、たまに」
『女の子と行くの?』
「独りですね、基本」
『寂しいわね、、、
あの、美味しいお紅茶があるの。
自分だけで淹れて飲むのも味気なくて、、、
一緒に飲んでくれる?』
「もちろん」
『でも、無理しないでね。
断ってイイのよ。
何だか、恩着せがましい言い方だったかしら、、、』
「いえ、紅茶も嫌いじゃないんですけど、、、
自分で、っていうのが、、ないだけで」
『そう、じゃあ、良かった。
ちょっと準備するわね。
どのポット使おうかしら、、、』
「前にこちらにお邪魔した時にも思ったんですけど、凄いコレクション、ですね」
『そうなのよ、凄いのよ。
もう、こんな話、誰も聞いてくれないから、、、
聞いてくれる?』
「はい、僕でよければ。
海外に行った時に集めたんですか?」
『、、、そうね、大体、旅行の時に。
でも、最近は、ネットで取り寄せたり、も多いかな』
「イギリスですか?」
『そうね、
イギリスも多いわね。
何?
コバヤカワくん、詳しいの?』
「いえ、紅茶といえば、英国王室かな、みたいな」
『食べ物が美味しくない、って、あれね、仕方ないのよ。歴史的にね。
チップアンドフライ、食べたコト、ある?』
「そうですね。
昔、出張で、まだ勤め人だった頃に、何だったけな、エリザベス女王が住んでた、、、」
『ウィンザー城?』
「そうです。
その近くのホテルに泊まって、夜に、香港人とシンガポール人と、あと、どこだっけな、アジア人7人ぐらいで、フィッシュ・アンド・チップスを食べました」
『そう、量が凄いのよね』
「そうでしたね。
ハーフサイズで、これ?みたいに、女性陣は困ってましたね」
『そう、美味しかった?』
「まぁ、フィッシュ・アンド・チップスって、結局、揚げ物なんで、揚げたては美味しかったですし、雰囲氣ですね。
当時は全くビールも飲めなかったんで、コーラとか飲んだ気がしますね。
もったいない、、、」
『ビールは、今は飲むの?』
「そうですね。
もっぱらエールビールですけど」
『そう、、、
紅茶もイイけど、おビール、飲みます?』
「えぇと、、、」
『嫌なら、イイのよ、ほんとうに』
「はい、、、
どうしよっかな?」
『冷蔵庫に、冷え冷えのふるふるのビールが残ってて、、、
私は、そんなに飲めないし』
「じゃあ、いただきます。
その、冷え冷えのふるふるを」
『おつまみはどうする?
フィッシュ・アンド・チップスはないけど、、、』
「もう、この、見たコトもない素敵な料理だけで、十分ですよ。
佐久間さんは、ビールの時は何を?」
『そうねぇ、ビールを家で飲むコトは殆どなかったのよ。
毎晩、若いヒトたちを連れ回して、酔っ払って帰るでしょ。
だから、ビールが冷蔵庫から出ないのよ』
「そうですか。
僕、特につまみとか、要らないんですよね。
フィッシュ・アンド・チップスも、その出張の時は食べたんですけど、それ以降は食べてないですね。
気を遣ってるとかじゃなくて、ビールと向き合うというか、ビール酵母と泡と、甘味と苦味と真剣勝負というか、、、」
『コバヤカワくん、ほんとうに変わってるわね。
佐久間が大好きなはずだわ』
「、、、そうですか。
そんなに好かれてたんですかね」
『入院前に、あんなに嬉しそうに、ヤギさんと会わせるんだ、やっと、二人を引き合わせるんだ、って、俺しか、できないんだ、とか、言ってたわよ。
それに、、、』
「、、、」
『ごめんなさいね、、、
最期に病院でね、なんでしたっけ、Zoomでしたっけ。
あの録画を繰り返し、観てたのよ。
ヤギさんが、あんな変な格好してるのを、喜んで。
それに、何でしたっけ、サプライズが成功した、とか、騙し合いの傑作だ、とか何とか言って』
「あぁ、そうでしたね。
ヤギさんには、変なコト、させちゃったし、でも、あのヒト、ノリノリでやってるし、そもそも、あのヒト、全部、分かってやってたんですよ。
おかしなヒトですよね。
そんなおかしなヒトに、今、ウチの会社は改造されてます。
悪い意味ではなくて、ほんとうにイイ意味で、乗せられてますね」
『ヤギさん、そうそう、ヤギさんは、元々、保険屋さんで、それで知り合ったのかしら。
違うはね、その前から知ってて、ヤギさん、あのヒト、いつも違う仕事してるらしいのよ。
私は殆ど面識がないんだけど、何でしたっけ、ライフ何とかで、最期まで見届ける、とか言ってたらしいから』
「働き”型”が違うんですよ。世間とも、皆とも。
それは僕も一緒で、気が合う、とは絶対に言いませんけど、相性はイイみたいです、僕たち」
『そう、それは嬉しいわね。
佐久間の分まで、私にはこれからも色々、教えてね、コバヤシくん』
「えっ?」
『ごめんなさいね、私、ずっと、どうしようか迷ってたんだけど、、、
コバヤシくん、でしょ、ほんとうは。
でも、何だか、途中で変えるのも、気まずいし、もう、コバヤカワくんでイイかな、って、そのままにしてたのよ』
「、、、はぁ。
えっ、いつ頃から、知ってたんですか?
僕がコバヤシだって?」
『そうね、、、
一番最初に、佐久間を抱えて来たでしょ。
その次の日には、知ってたわね。
だって、聞いたから』
「それからも、ずっと、コバヤカワで通してましたよね」
『そうね、結構、長いコト、コバヤカワくんというコバヤシくんでしたね、私にとっては』
「、、、呆れますね」
『ねぇ、そうでしょ。
呆れるわよね。
優しいのね、コバヤシくんは』
「何ですか、急に」
『さっき、私、また言い間違え、してたでしょ?』
「、、、はい?」
『でも、そこで訂正しないで、その後すぐに、わざわざ、必要のない話までして、フィッシュ・アンド・チップスってコト、教えてくれてたんでしょ?』
「、、、」
『何て私、言ってたかしら、、、』
「チップアンドフライ、と」
『そうそう。
優しいのね。惚れちゃうわ、私。
しかも私、今、フリーよ。
知ってるでしょ?』
「じゃあ、聞きますね。
おいくつ、なんですか?
ほんとうは?」
『ふふふ、それは秘密よ』
「そこを、何とか」
『そうね、エリザベス女王と同じぐらい?』
「それはさすがに」
『そうね、、、
じゃ、永遠のアイドル、46歳よ』
「サクマ坂46ですか⁉️
佐久間さんより年上だってコト、知ってますよ」
『何よ、そっちがその気なら、
こっちは、アクマ坂46にでも、なるわよ‼️』
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