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同じ穴のムジナ——hollow meというバンドへの覚書

ゆらゆら帝国空洞です」の英題から名前を拝借したバンド、hollow me。そのサウンドを定義するなら、Unknow Mortal OrchestraFoxygenが発する仄暗くも軽やかなサイケデリック光線と、それを浴びたTempalaySouth Penguinsが体現するモダンサイケとJ-Popのマリアージュ、それに加えてInner WaveMac DeMarcoといった——バンドのYouTubeチャンネルには、両者のカバー動画がアップされている——密室感のあるポップスとも共振をみせている。


…また無駄なことをしてしまった。よくわからないものを想像するときに、自分と近い場所にある固有名詞を並べるのは固有性を見えなくさせる悪癖だ。そもそも名前にhollow(穴/虚ろな/中身のない)を冠している時点で、それにどんな美辞麗句を並べても滑稽で的外れなものにならざるを得ないのは自明に違いない。

まるで煙に巻くことが本懐であるような振る舞いを、彼らは諧謔的な形で連発する。EP『のぞいてしまった』の冒頭に置かれたタイトルトラックは、集団のバカ笑いから幕を開ける。“10代半ばの後遺症”と“20代半ばの婚姻書”の韻律を聞かせるバンドを、一体どのように形容してあげればいいのだろうか。巧みに組み替えられるリズムに、それとは気づかず体を揺らしてるうちに、私たちは笑い笑われている。hollow meは意味の横を、卑しい想定の上を、大上段に構えているカテゴライザーの股下を、涼しい顔でくぐりぬけていく。

曲間から滲み出てくるものの片方におかしみがあるとするならば、もう片方はロマンスだ。それも古く、今ではミニシアターでしか観ることのできないような、昭和のキャバレーやホールで繰り広げられる、漏れ出る寸前のリビドー同士の会話。私もあなたもhollow meも、勿論その時代を生きたことはない。当事者に「そんな綺麗なもんじゃあるめぇよ」とか「美化するもんでもねぇよ」とでも言われそうな、hollow meの醸すレトロな猥雑性。そこには、やはり彼らの諧謔的なセンスがそうであるように、ある種の浅薄さへの賭けが伺える。「空洞です」で《ムード》が歌われていたことを、そろそろ思い出そう。hollow meから実のある話なんて一つも出てこない、でも私たちの意識をどこかへ動かしてくれるのは、その二つくらいしかきっと無いのだ。

諧謔とロマンス。私たちはそれを、知ってるようで知らない。hollow meだって、もしかしたら知らないかもね。ただ、これを聞いている間だけは、地軸も背骨もいらない。あなたを貫くものに疲れたあなたが、hollow meを気になり始めた時には、もう既に彼らと同じ穴のムジナだ。

Waseda MUsic Records『SOUND ROTARY vol.2』より大幅改訂して転載)


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