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どうなる?2021年度介護報酬改定で変わる訪問看護【前編】


3年に1度の介護報酬改定が2021年4月に迫っています。国民の4人に1人が75歳以上の後期高齢者になる2025年が近づく中、介護保険はどのように変わっていくのでしょうか。また、今回の改定によって訪問看護の現場にはどんな影響があるのでしょうか。
前編では、訪問看護の介護報酬の変更点にポイントを絞り解説していきます。

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目次
① 退院日の訪問看護の加算が可能に
② 看護体制強化加算の「特別管理加算割合」を緩和へ

③ コロナの恩恵、オンライン会議の明文化
④ 面倒な印鑑ともおさらば!印鑑も最低限に
⑤ 訪問看護ステーションでも「感染対策委員会」設置へ
(③〜⑤は後編の記事になります)


①退院日の訪問看護の加算が可能に


退院日に訪問看護費が算定できる対象者は、現行の介護保険制度では「特別管理加算」に該当する対象者に限られています。
今回の改定に向けて、2020年5月に日本訪問看護財団から「令和3年度介護報酬改定の要望に関するアンケート調査報告書」が公開されました。
その中で、退院日の訪問看護費が加算できる対象者が特別管理加算の利用者に限定されることで「困ったことがある」と回答したステーションは約半数(49.5%)にのぼりました。

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その対象者の上位3つとして「がん末期以外の終末期」「皮膚潰瘍」「心不全」が挙げられています。
環境調整や内服確認で退院日に訪問しないと生活に影響が出てしまうけれど、加算が取れないためボランティアとしての訪問になってしまうことに悩んだ経験もあるのではないでしょうか。
同調査報告書では、特別管理加算の対象者以外でも必要がある場合には算定対象とすることの必要性を訴えています。
その成果もあり、厚生労働省の社会保障審議会において以下の決定がなされました。

退院・退所当日の訪問看護について、現行の特別管理加算の対象に該当する者に加えて、主治の医師が必要と認める場合は算定を可能とする。

( 厚生労働省第199回社会保障審議会介護給付費分科会(Web会議)資料 令和3年1月18日 

主治医が必要と認めれば特別管理加算が付かない利用者さんでも退院日の訪問看護の実績を取れるようになり、退院直後から在宅療養の環境を整えられるようになりそうです。


②看護体制強化加算における「特別管理加算割合」が緩和へ


より高い医療ニーズに対応しているステーションが算定できる「看護体制強化加算」が、平成30年度の介護報酬改定で新たに「看護体制強化加算(Ⅰ)」「看護体制強化加算 (Ⅱ)」の2つに分類されました。

看護体制強化加算(Ⅰ) (Ⅱ)共通の算定要件として

直近6ヶ月間の「緊急時訪問看護加算」の算定者割合が総実利用者数の50%以上
直近6ヶ月の「特別管理加算」の算定者割合が総実利用者数の30%以上

という条件があります。

しかし、後者の『「特別管理加算」の算定者割合が総実利用者数の30%以上』をキープさせることが難しいといった声が上がってます。

2019年の厚生労働省の「平成30年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査 (令和元年度調査)」によると、2018年9月に特別管理加算の算定者割合が30%以上だった訪問看護ステーションのうち、1年後にも同様の水準を維持できていたステーションは46.5%と半数以下でした。

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「特別管理加算」を取るような医療ニーズの高い利用者さんの場合、入院やご逝去によるサービス中止や終了があります。
常に一定数の「特別管理加算」の利用者さんを保ち続けるようコントロールすることが管理的に難しいこともあるかと思います。

そこで、今回の介護報酬改定では、「特別管理加算を算定した割合 30%以上」 の要件が「20%以上」に見直しになりました。
算定要件を緩和して、看護体制強化加算を取りやすくすることで、医療ニーズのある利用者さんの受け皿を広くしていく狙いもあるようです。

そのぶん、
看護体制強化加算(Ⅰ)は600単位→550単位
看護体制強化加算(Ⅱ)は300単位→200単位
に減算となっています。

また、介護予防訪問看護の看護体制強化加算は300単位→100単位に減算されることに加え「従業員に占める看護職員の割合を6割以上とする」要件が新たに設けられます。
看護師の数をリハビリ職より上回るよう配置することで、サービスの継続性を維持できると配慮して追加されたようです。
看護師6割ルールは2年の経過措置期間を設けることになっています。

看護体制強化加算の間口を狭く深くからやや浅く広くして全体のボトムアップを図っているようです。
中でも安定した看護師数など継続性を持って看護を提供できる体制のステーションを評価している傾向にあります。

【おまけ】5,000人の訪問リハビリ職が失業する?


上記の「従業員に占める看護職員の割合を6割以上とする」ことが看護体制強化加算の要件に加えられることになりましたが、2020年11月に「訪問看護ステーション自体の職員配置を看護職員6割以上とする」といった要件の提言が出されたことが大きな波紋を呼びました。
リハビリ職の職員配置が多い訪問看護ステーションで介護度の軽い方を中心にサービスを提供していることへの課題意識から、上記のような方針が示されたようです。
すぐさま日本理学療法士協会、作業療法士協会、言語聴覚士協会が共同で抗議を示す声明文を出しました。(※4)

声明文によると、もし訪問看護ステーションの看護職員6割が制度化された場合、

・ 8万人の利用者が訪問リハビリテーションを受けることができなくなる
 (現在訪問リハビリを利用しているうちの約2割)
リハビリ職5,000人が失業する
 (訪問看護ステーションで働いているリハビリ職の約3割)

との推定も公表され、「訪問看護ステーションにおける人員配置基準の新設に関する緊急署名」の第1次署名には約11万人もの署名が集まりました。
業界の訴えや働きかけもあり、上記の訪問看護ステーションの職員配置についての決定は見送りとなっています。
介護保険サービスが適正に運用されるよう、今回のように現場の声を集めて発信していくことで介護保険の将来にも繋がるのではないでしょうか。


【後編へ続く】

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