見出し画像

手術の記憶(ウサギノヴィッチ)

 手術の日。
 手術室に向かうときは、看護師さんと一緒に入っていった。
 そこから、麻酔科の看護師さんと落ち合う。
 顔は忘れたが、女性だったことは行って思いだした。
 麻酔科の看護師さんの指示を受けて、手術台に寝転ぶ。
 今、思うとなんでも指示のままに受けて入れて、恐れなんて何にも感じずにいた。これから自分の体にメスが入るのにもかかわらず、何にも疑いを持たないことが、振り返ってみると恐ろしい気がする。
 麻酔は背中から始まった。その痛みはなにも感じなかった。続いて本番の麻酔。打たれた後に、記憶がなくなっている。

 起きる瞬間夢を見た。
 三遊亭好楽と弟子たちが笑点のOP風になっている夢だった。
 その後名前が呼ばれるような気がした。名前を呼ばれて、普通の起きるとベッドの中にいた。視覚と聴覚の記憶が少しだけある。ベッドは手術室から出て、僕がいる病室に向かっていた。母親が手術の日に来ていた。母親が言った。

──ベストな手術の出来だってよ。

 そう言ったことだけは記憶している。あとは、覚えていない。
 僕はどうやら安心して眠ってしまったらしい。

 そこからが地獄だった。

 手術の日は飲まず食わずの日のため、薬が飲めなかった。僕は酸素マスクをしたまま、ずっと時間が過ぎるの待っていた。たしか、睡眠薬の点滴を打ったがあまり効果がなかった。口には「シューシュー」という酸素マスクをさせられ、手には点滴を打ち、カーテンが閉まっていない窓の暗闇と相対している。スマホとairpodsを母親に預けておけばよかったと思った。それらは、セーフティーボックスの引き出しに入っていて、なんとか自分でとりたいと思っていても、身体が自由に動かなかった。

 朝焼けが窓から見えるようになる頃にだんだんと、落ち着きを取り戻したが、思考は正常では無いくらいの状態になっていた。

 そうして、手術の日が終わった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?