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帰宅

開けたてのピアスホールが疼くような鍵穴に、ゆっくりと忍び寄るのは銀色に輝く憂鬱な鍵。
ガチャりと悲鳴を聞いた後に、冷えきったドアノブに手をかければ、奴隷のような空気が流れ込んでいく。それは大海の波のようにグネグネしている、ほんの僅かな修羅場。混沌に溢れた暗闇に、スポットライトの灯火が「おかえり」とささやく様な気配を生み出す。くたびれた靴を脱げば、死にかけた靴下を処分し、ぼんやりとした部屋で影は横になる。意味も知らない言葉の羅列。三面記事でさえ、真実は分からないと折りたたまれていく。光は存在を拒否。その全ては無抵抗。暗がりで一つ咳をする。侘しい気持ちを抑えた空間が、その中で響く。己の価値を無くしてまで。

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